猫が飼い主を激しく襲ってくる 確実に言えるのは「攻撃的にさせたのは飼い主でない」

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回も、入交先生が読者から寄せられた質問に答えます。

その日まで、家で猫をめでて待つ

 Stay Homeな連休も終わりました。昨年の今頃、まさか2年連続で我慢の連休になるとは思わなかったですね。

 非常事態宣言の地域も、まん延防止等重点措置の地域も、それぞれ我慢の日々ですが、きっと世界中落ち着く日が来る、その日まで家で猫をめでて待とうと思います。

 こんな猫と長い時間一緒にいられる毎日もまた幸せです。味をしめたので、外に出られるようになっても、あえてでかけず家の中で猫をめでていそうです。

「猫が急に襲ってきて、心折れそう」

 さて、今回は、家族である猫さんが、人間家族に攻撃的になってしまうことでお困りのご相談を2件立て続けに受けました。

 Q11歳のオス猫(未去勢)が家族を急に激しく襲ってきます。一度襲ってきたら死ぬまで攻撃してくると思うくらいの気迫で何度も何度も獲物を狩るように飛びついてきて、必ず大量に出血する大事になってしまいます。5回くらい襲われて、もう心が折れてしまいそうです。(ヘイルの飼い主さんからの質問)

 Q25歳雌猫、アメリカンショート。自分の思い通りにならないと襲い掛かってきます。一番世話をしている私の足に、爪で襲ったり、かみついたりしてきます。だから部屋ではいつもブーツを履いています。もう一緒に住むことに自信を無くしています。(ミーガンさんからの質問)

 A:どちらもかなり深刻で、一緒にゆったり暮らそうと猫を迎え入れたはずなのに、なんでこんなに毎日恐怖にさらされていなければいけないの?と本当におつらいと思います。

 猫が激しく人を攻撃してしまう理由は、色々考えられますが、確実に言えますのは攻撃的にさせたのは、ご家族の皆様ではないということです。もしかしたら脳の機能障害があるのかもしれません。

 私たちも猫も「セロトニン」という脳にブレーキをかけるホルモンを持っていますが、このセロトニンが生まれつき足りなかったり、何らかの理由で少なくなったりすることがあります。セロトニンが少ないと、感情にうまくブレーキをかけられなくなって、ちょっとびっくりしたり、混乱したりすると、脳が興奮するわけです。

セロトニンが少ないと、感情にうまくブレーキをかけられなくなる

 通常はそこでセロトニンが出てきて、「もう大丈夫」「びっくりしないでも問題ない」と脳を落ち着けてくれます。しかし、セロトニンが元々足りない猫たちは、ブレーキをうまく働かせられないので、「もう大丈夫」と考えることができず、脳の興奮が続いてしまいます。

 脳の過剰な興奮が攻撃性につながると考えていただけたらわかりやすいかと思います。わかりやすく言うと脳のパニック状態でしょうか。

動物病院で診察を

 必要以上に攻撃的になってしまう理由の多くがこのセロトニンの問題による過剰な興奮なので、脳の中のセロトニンを増やすお薬を使って攻撃行動に発展させにくくする治療を獣医さんはしています。

「動物行動学」「行動診療」という名前で専門的に診療している獣医さんもいて、突発的な攻撃行動や激しい攻撃行動を治療しています。 

 ご相談者の方もぜひ動物病院で診察を受け、攻撃的になってしまう可能性のある病気を探してみていただき、ホームドクターでわからない場合は、専門診療がうけられるようにご相談されてもよいと思います。

よけいに興奮させない

 お薬でセロトニンを増やしただけでは十分ではなく、それと一緒に「行動修正」と言って、今よく言われる「行動変容」、行動を変えていくことを動物に教えることを行っていきます。難しそうに聞こえますが、「興奮してパニックしてかみついたり攻撃する代わりに、他の行動をして落ち着こうね」ということを教えていくことです。

 まず、一番重要なのは、パニックして興奮している猫たちなので、絶対に叱ったり体罰を与えてよけいに興奮させたりしないようにしましょう。

留守にする時などは、猫がケージの中で落ち着いて過ごせるようにしよう

 また、どうしても興奮してしまうと、相手することが難しくなってしまうので、見ていられない時、お休みになるとき、お留守にするときなどは、猫用の大きめのケージにトイレやご飯水と一緒に入れておき、ケージの中で落ち着いていられるようにしていくとよいと思います。まずは人と猫の安全を確保します。

 興奮したときに、他の行動をとれるように、普段からおいしいおやつを使って「ハイタッチ」とか「おすわり」「おいで」「ハウス」など猫さんのできる行動を教えていきましょう。楽しいねこのトリック(芸)の教え方は、別の機会にお話ししましょう。ちょっと参考にしていただける動画は、朝日新聞社の「まなびばsippo」で動画で紹介しています。

 今回ちょっと難しい内容でした。次回もどんどんご質問をお寄せください。

(次回は6月13日に公開予定です)

【前の回】猫が体をなめ続けたり布を食べたりするとき 常同障害という病気かも、薬で治療可能

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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