猫が体をなめ続けたり布を食べたりするとき 常同障害という病気かも、薬で治療可能
猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回も、入交先生が読者から寄せられた質問に答えます。
「布を食べてしまって困っている」
暖かいかと思ったら寒い日が続いたりする、なかなか気候も安定しないこの頃です。今回も興味深い、たくさんのご質問をありがとうございました。
Q、「ひもや布、衣服と食べて困っています」(ねねまろさんからの質問)、「14歳の雌猫、2年ほど前から体をなめるのがひどくなり、今では脚、しっぽの付け根の毛がほとんどありません。動物病院に相談しましたが、ストレスではと言われました」(みゃーさんからの質問)、「ウールサックをします。原因や対処法を知りたいです」(じゅんじゅんさんからの質問)。この3つのご質問にまとめて答えていきたいと思います。と言いますのも、この3つのご質問、同じ問題が隠れているかもしれないからです。
A、皮膚病などがあるわけでもないのに、自分の体をなめ続けてしまったり、布、ひも、ウールなど食べられない何らかのこだわりの素材を食べてしまう行動、これは「常同障害」という病気でなめ続けていたり、食べていたりする可能性があります。
常同障害は、人の「強迫性障害」と病気として類似していると考えられています。ストレスや葛藤から起こるのですが、何か一つのこと、一つの素材に執着して、同じ行動を繰り返してしまいます。人の場合強迫性障害の症状として見られるものの中に手を洗い続ける、という行動があります。
「手を洗わなければならない」と強迫観念が浮かんでしまい、その考えを払拭(ふっしょく)するため脅迫行動として手を洗い続けるということになるようです。通常なら「手が汚い」を考えた場合、何回か洗えば、「きれいになった」と考えられるので、そのあと手を使って食事もできますが、強迫性障害の患者さまの場合は、手を何回洗っても、脳の機能異常があるので「手がきれいになった」と考えられなくなっているようで、「洗い続けなければ手が汚すぎて食事もできない、汚くて死んでしまう」と思いこまされてしまいます。
動物も似た状態です。脳が「毛をなめねばならない」「ウールを食べなければならない」というスイッチを入れてしまっているようです。このスイッチを入れているのがストレスであったり葛藤状態であったりするのですが、一度スイッチが入るとなかなかスイッチを切ることができないので同じ行動を繰り返すことになります。
これは脳の機能異常であり、遺伝的な問題も大きく影響していますので、脳のスイッチを切るために脳にブレーキをかける「セロトニン」という脳内の情報伝達物質を増やしてあげるお薬を使います。
一般的には「セロトニン再取り込み阻害剤」という種類のお薬です。また、行動修正法(人でいう認知行動療法)として、毛をなめたり、ウールを食べたりしなくても大丈夫、ということを脳に教えていきます。
この方法はまず、人が監視できていないときは、食べてしまうようなものはお部屋に置いておかないようにしましょう。スイッチを入れてしまわないようにします。毛をなめてしまう場合に洋服を着せておくのも1つの妙案です。
そして、お薬が効いてきて、特定の者に対する執着が薄らいできたころを見計らって(お薬飲ませて1~2カ月後くらいから)、例えばウールを見つけてそれを見ていたら、何らかの音をたてたりして気持ちをそらし、それたところで、ほかの行動をさせます。
「おいで」などと言ってこさせておやつの報酬をあげ、ウールを食べる代わりにほかの行動をさせてしまいます。
また、ストレスから出ている行動なので、ウールを探してしまうほど暇、というストレスになっている可能性が高いので、暇にならないように一人遊びできるおもちゃなどを渡し、「そちらに夢中にさせておくようにします。おもちゃは「知育トイ」と言われる頭を使っておやつを取り出すようなゲームをお勧めしています。
実際にご相談者さんの猫を拝見していないので、具体的な治療法に関してお伝え出来ないですが、多くの動物にみられる「常同障害」という病気があるということと、お薬で治せることを知っていただけたらうれしいです。
(次回は5月9日に公開予定です)
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