災害時にペットと自分を守るために 防災の専門家が教える、家にあるものでできる備え
東日本大震災から10年。いざという時に被害を最小限にし、ペットを守るにはどうすればよいのでしょう。『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)などの著書があり、看護師で3匹の猫の飼い主でもある防災の専門家、辻直美さんにポイントを教えてもらいました。
(末尾に写真特集があります)
室内でペットをケガから守る
辻さんは2018年6月、震度6弱の大阪北部地震に遭いましたが、自室は被害を受けず、その日のうちに生活を取り戻しレスキューナースの仕事をしたそうです。しかし、同じマンションのお隣さんは棚が倒れてケガをして入院、片付けにも1カ月半かかったとか。マンション自体、元に戻るのに1年半を要したといいます。
自室が被害を受けなかったことについて、辻さんは「防災に興味を持ち、日頃から情報を集め、実践してきたから」といいます。
「先日の深夜の地震後、SNSで“プチプラ防災テク”で大丈夫だった、という方がたくさんいました。防災を非日常でなく日常と捉えて、こつこつ準備をしてほしい。『自分は大丈夫』と思うのは正常化バイアスという心理です。その心理を超えないと助かりません。特別なものを準備する必要はなく、100円均一のグッズでOK。ペットのために今日から意識をかえて。まずは室内の点検からはじめましょう」
(辻さんのプチ指南)
・ものが「倒れる」「落ちる」「移る」「飛ぶ」のを避ける
・寝室やリビングにはなるべく低めの家具を
・食器は直接、食器棚にしまわない
・100 均の滑り止めシートやマットを活用(食器、棚、本、ペットグッズなどの下に)
――ペットが日常、過ごすことが多い寝室やリビングを例に、ケガ対策を教えてください。
「地震の時に、ものは〈倒れる〉〈落ちる〉〈移る〉〈飛ぶ〉という4つの動きをします。まず、この4つが起きないようにレイアウトするのが大切。高い家具が倒れたらペットが下敷きになる可能性もあります。我が家では、リビングには低めの家具しかなく、寝室にも腰より高い家具は置いていません。そして、どの部屋でも活用しているのが100均の滑り止めシート。2018年6月、震度6弱の大阪北部地震に遭いましたが、100均グッズの備えでどの部屋も被害がなく、キッチンでも調味料のボトルが4本倒れただけでした」
――キッチンには日頃からペットが入りやすく、落ちたグラスを踏んで猫が肉球を切ったという報告もあります。安全な食器類の収納法を教えてください。
「基本は上に軽いもの、下に重いものや割れものをしまい、食器棚に食器を直接しまわないこと。プラスチックケースの底面と内側に滑り止めシートを貼った〈食器収納ケース〉にお皿を入れれば、滑り落ちません。食器類を“ケースに入るだけの量”と決めれば、お気に入りだけが残り、暮らしもシンプルになります。シンプルであることも防災のコツです」
――キャットタワーやケージ等も耐震対策が必要ですね。
「我が家には3匹の猫がいます。キャットタワーの下に耐震防止板を敷いて、倒れないようにしています。キャットタワーはそこそこ重さがあるので、防止板(滑り止めシート)を下に置くだけでずれなくなります。フードストッカーや水飲みボウル、浄水器の下にも滑り止めを敷くとよいと思います」
避難と備えとネットワーク
(辻さんのプチ指南)
・住んでいる地域の避難場所とペット対応を確認する
・フードやおやつをローリングストック
・水は毎日多めにくみ置き、市販の軟水を飲む練習も
・マンションのネットワークを強くし、近隣にペット仲間を作る
――ペットの同行避難については、住んでいる地域に確認することが必要ですね。なじみのフードや好きなおやつ、薬のストックなども必要になります。
「そうです。同行といっても必ず避難所で生活できるというわけではありません。避難所のそばに(自助グループが)家を借りてペットキャリーに入れて生活させるようなケースが多いと思います。我が家では避難所に連れていけない前提で、フードと水を準備しています。フードは、以前は3週間分、コロナが起きてからは流通の問題を考え3カ月分をストック。一つの味しか知らないと、いざという時に食べてくれないので、数種類をローリングストックするとよいのではないでしょうか.薬も多めに用意すべきです」
――ペットに水道水や浄化水を飲ませている家も多いと思いますが、断水すると困ります。
「我が家では、水飲みボウル以外に大きな洗面器2つに水をいっぱい入れ、風呂場に毎朝置きます。断水に備え、毎日ある程度くみ置きをしておけば、(飲ませる時に)煮沸することで雑菌を防げます。軟水(ペット用ウォーターやペットも飲める硬度のミネラルウォーター)を飲めるようにしておく練習も必要かと思います」
――飼い主も一人では心細い。ペット仲間との助け合いネットワークも大切ですね。
「前のマンションで私は自治会の理事長をしていました。その時に、ペットの飼い主同士がつながるように月1度お茶会をして、同じ階同士で顔見知りになるようにしました。それもペットが生き延びるための『しくみ作り』です。前のマンションは建物が古かったので、近所の公民館と契約し、いざというときはペットが過ごせる約束をとりつけ、積立金のしくみを作りました。今のマンションは犬や猫を預ける場をマンションに作れなかった。そこでゲストハウスをペットのために開放してもらい、キャリー内で過ごすことになっています」
「都心では隣に誰が住んでいるかわからないという話も聞きますね。近隣の方へのあいさつは自分からして、『わんちゃんのお名前は?』とか、『うちは猫なんです』など声を掛けるところから始めるといいですよ。いざという時に『そちらの家が大変だったらペットと来ていいよ』という関係になると、とても心強いです」
猫が安心感を覚える段ボールキャリー
(辻さんのプチ指南)
・安心して入るキャリーを用意
・大判風呂敷やシーツも味方に
・ペットにも時々、避難訓練を
――ペットを安全な所に移動させるためにはキャリーバッグが必要です。どの家にもあるはずですが、動物病院を思い浮かべ、特に猫は「見るだけで逃げ出す」という例もあります。
「動物病院用のキャリーと分けて準備するのも手ですね。そこでいいこと(おやつなど)があったり、安心できると覚えてもらうことから始めましょう。お勧めは段ボール製のペットキャリー。猫がゆったり入れるサイズの箱にペットシーツ、タオルの順に敷き、好みの爪研ぎをセット。箱の上からTシャツやトレーナーをかぶせたら完成です」
「うちではソファの後ろなどに数カ所、段ボールキャリーを置いています。部屋が揺れた時にそこに逃げ込むようになったら大成功。猫にはハウスのしつけはしにくいです。しかし、音に反応して安全な場所に逃げるので、私は『防災笛』を鳴らして猫にも防災訓練をしています」
――段ボールキャリーを運ぶ時はどうするのですか?
「私は運搬用おくるみと呼んでいます。シーツや大判風呂敷を下に敷いてすっぽり包み込み、持ち手も作るようにします。高価な防災用のキャリーが家になかったとしても、昔ながらの方法でも大丈夫ですと伝えたい。レスキューナースの自分も含め、そもそも防災のプロは必要以上にお金をかけません。あるものを代用し、テクニックでなんとかできるのです」
飼い主がコロナに感染したら
(辻さんのプチ指南)
・ペットの世話の選択肢を3つ以上用意
・コロナ時は家族かプロに任せる
――新型コロナに飼い主が感染したら、ペットの世話はどうすべきでしょうか?
「ペットを家で見るか、シッターを呼ぶか、ペットホテルに預けるか……そんなふうに選択肢を準備するといいでしょう。3つ選択肢があれば、これがだめでもこちらへと移せます。私は日頃から講演などで留守にする時は近くに住む母に猫の世話を頼んでいます。ペットシッターも何社かと契約し、『コロナにかかって入院した場合は猫たちの世話をみてもらう』という約束を交わしています。具体的にいくらでこのくらいのことをしてほしいと文書を渡し、鍵も渡しています」
「コロナでペットを預ける時、友達だと“うつったらどうしよう”と後々ぎくしゃくすることもあるので、仕事として請け負うプロか、家族に頼む方がいい。お世話になっている動物病院で預かりをしてもらえるか、確認しておくと安心です」
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