愛犬に困る飼い主救う激アツ店長 支えるのは「プロのペットショップ店員」のプライド

 ブログ、インスタグラム、Facebookと、SNSで多くのフォロワーから支持されるUG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さん。噛みまくってピリピリしていた子犬、オドオドとお散歩できなかった子犬が、1週間の「社会化お泊まり」を通じ、どんどん笑顔になり成長していく様子が感動を呼んでいる。「プロのペットショップ店員でありたい」とこだわる、店長の熱い思いに迫る。

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。「家族みんな笑顔で楽しく暮らす。それでいい、それがいい!」

(前回のお話はこちら

(末尾に写真特集があります)

震災と、ひとつの出会い

 埼玉県にあるペットショップで、ブリーダーから直接子犬を引き受け、社会化をした上で販売していた高橋店長。ウェルシュコーギーのジャック、フレンチブルドッグのボルドーという家族もでき、公私ともに犬まみれの日々を過ごしていた。

ウェルシュコーギー「ジャック」とフレンチブルドッグ「ボルドー」
店長の“長男”ウェルシュコーギー「ジャック」と、“次男”フレンチブルドッグ「ボルドー」(店長提供)

 そんな中、日本を激震が襲った。2011年3月11日、東日本大震災。余震が続く中、店長は店の子犬たちを守りながら、故郷の福島県いわき市の状況と家族の安否もわからず、なかなかつながらない携帯を握りしめていたという。

「幸い家族は無事でしたが、実家の目の前まで津波が迫ってきていたと知り、震えました」

 実はこのころ、ある出会いがあった。大学在学中に起業し、ペットフードやペット用品のオンラインサイト「UGペット.com」などを運営していた吉武雄史さん。初の実店舗を出店しようと信頼できる人材を探していた吉武さんを、知り合いから紹介された。

「埼玉のお店ではすでに店長だったので、最初は断っていました。でも、東日本大震災で故郷をはじめ東北の惨状を目の当たりにして、僕の中で何かが変わった。新しい場所で新しいことに挑戦してみるのもいいかもしれない。人生一回こっきりなんだからーー。『今までにない新しいスタイルのお店を作りましょう』という吉武の熱い思いにも共鳴し、いっちょやったるか!と」

 2012年、UG DOGSアトラスタワー中目黒店オープン。都会のど真ん中、それも駅前にそびえ立つタワーマンションの1Fという華やかなロケーションだが、店長はポリシーを一切変えなかった。

 子犬はブリーダーから直接迎え、ほしいという人がいたら犬種の特徴について徹底的に説明し、飼いたいという人の話もしつこいほど聞いて相性を見る。合わないと思えば、頑として売らなかった。

「当然売り上げは上がらない。でも、正直子犬を売る気がなかった。とんでもない店長でしたね(笑)」

UG DOGS高橋信行店長
とにかく飼い主さんの話を聞く、というのは、今のカウンセリングでも大切なスタイル

「社会化お泊り」スタート

 そして、模索する中で訪れた新しい出会いが、次の扉を開ける。

 愛護活動家が主催する勉強会にパネリストとして参加したときのこと。周りは愛護活動をしている人がほとんどで、「ペットショップ店長」という肩書きに会場からはブーイングが上がったという。

「自分はプロのペットショップ店員だというプライドがあったので気にしなかったけれど、でも、こんなにペットショップの印象は悪いのかと思い知りました」

 そんな店長に声をかけてくれた人がいた。同じ東京でトリミングやホテルを運営しながら、通いのトレーニングだけでなく、子犬を1カ月ほど預かる「預かりトレーニング」という活動をする女性だった。

「『しつけ教室』はたくさんあったけれど、僕にはピンとこなかった。でも、子犬の性格や性質を見極めながら、その子に合ったトレーニングを入れていく『預かりトレーニング』は、すごく理にかなっている。おもしろそう、やってみたいと思うように」

 フードやグッズを買おうと来店した飼い主から話を聞くと、「甘噛みする」「お散歩がうまくできない」といった悩みを打ち明けてくれる人もいた。この連載で最初に登場した白柴のココちゃんのお母さんもそんな一人。カウンセリングの原点だ。

 そして2015年、店長の愛犬ジャックとボルドー、トリミングやホテルでやってくる犬たちなどの群れの中で数日間、子犬を預かる「社会化お泊まり」がスタートした。

UG DOGS高橋信行店長
UGには、いつも「社会化お泊まり」に来ている犬たちがたくさんいて、みんなわっちゃか楽しそうなんです

人が変われば、必ず犬も変わる

 家族をめった噛みにして血だらけにする柴犬、まったく寝ないで暴れまくるポメラニアン、自分の尻尾を噛みちぎってしまう柴犬……。お泊まりの顛末をブログ「店長日誌」につづるようになると、どんどん読者が増え、同じような悩みを抱える飼い主たちが次々とカウンセリングにやって来るようになった。

「僕自身、ジャックをきちんと育てられるんだろうかとノイローゼ気味になった経験があるので、不安でいっぱいになる飼い主さんの気持ちは痛いほどわかりました。一方で、ネットなどに載っている情報に振り回されている人が多いことに気づかされた。いろんなしつけ法がありますが『万能薬』はない。まずその子犬を見て、その子にあったやり方を見極めなければ、下手すると悪化してしまうこともあるのです」

 ペットショップで購入する際、「おとなしくて飼いやすい」「小型犬なのでお散歩は少しでいい」などと言われ、その通りにしたら噛んだり吠えたり暴れまくったりして手に負えなくなった……という人は少なくないという。

 パグのピグくんをはじめ幼稚園に駆け込んだらハイパーすぎて断られてしまい、途方にくれてしまったという飼い主も。また、コーギーのまめくんのように、プロのトレーナーを頼ったのに事態がますます悪くなってしまうこともある。「脳に異常がある」と病院で薬を処方され、できれば飲ませくないと藁をも掴む思いでUGにたどり着いたというケースも。

「飼い主さんが情報に翻弄され、子犬も迷いを深めて、こじれていることは少なくありません。社会化お泊まりは、そのこんがらがった部分を一つ一つ解きほぐしていく1週間です。子犬は子犬らしく思い切り遊ばせて発散し、犬社会のルールの中で加減やガマンも覚えさせる。

UG DOGS高橋信行店長
今では、店長のところに相談がひっきりなしにやってくるように。ちなみに、後ろの壁に貼られているのは、店長の大切な教え子たちの写真

 一方で、子犬育てに疲れ果てている飼い主さんにはゆっくり休んでもらいます。その上で、これからの暮らしについてアドバイスし、甘やかしや遠慮が強い場合には意識を変えてもらうように繰り返し伝え続けます。

 人が変わらなければ犬は変わらない。人が変われば必ず犬も変わります、と」

 1週間で激変する子もいるが、基本的には「お泊まりから帰ってからがスタート」と店長。柴犬など1週間では厳しい場合は、1カ月単位で預かってくれる前出の先輩の店を紹介することもある。「1歳までがんばりましょう。そのあとには笑顔で暮らせるゴールデンタイムが待っています」。店長はそう叱咤激励する。

“三男”ロイス、次期リーダー修行中

 UG開店から初代リーダーとして立派に群れを率いた愛犬ジャックは2018年に、愛嬌たっぷりで看板犬として愛されたボルドーは昨年、虹の橋へと旅立った。深い悲しみの中にあった店長は、しかし、「犬のいない人生は考えられない」と昨年夏、信頼できるブリーダーからジャックラッセルテリアの子犬を迎えた。名前は「ロイス」。

ジャックラッセルテリア「ロイス」
小さいころの“三男”ジャックラッセルテリア「ロイス」(店長提供)

「一緒に生まれたきょうだいの中でも気が強くてやんちゃ。そのくせ、最初のころは僕が風呂やトイレに行くだけで吠えたことも。久しぶりにオロオロと振り回されましたが(笑)、でも、ロイスは一言でいうと『とてもいい犬』。これまでたくさんの犬を見てきましたが、きちんとブリーディングされた犬はこんなにもすばらしいのかと驚いています」

 すぐにUGの群れにデビュー。現リーダーのポメラニアンのなっぱ、トイプードルのジーニーに指導され、さらに次々とやってくる子犬たちとめいっぱい遊びながら、次期リーダーを目指して日々成長中だ。

「ペットショップの店長をしていてこんなことを言うのは矛盾していると思われるかもしれませんが、ペットショップの生態展示販売や、ただ売ればいいという流れは断ち切りたい」と店長。しかし現実は、多くの家庭がペットショップから子犬を迎えている。

「できればいいブリーダーから子犬を飼う、あるいは保護犬を迎えるという世の中になってほしい。でも、ペットショップで買ったってその出会いには必ず意味があると思っています。長男のジャックはペットショップ出身だったけれど、未熟だった僕に身をもってすべてを教えてくれる『先生』のような存在になってくれた。

 どんな出会いだろうが縁あって家族になったのだから、犬も飼い主さんも笑顔で暮らしてほしい。僕が願うのはそんなシンプルなこと」

 その思いは、「自分はトレーナーじゃないですから」という店長の口癖に見て取れる。

「犬だけを見て犬だけをトレーニングするのではなく、犬と飼い主という『家族』を見て、普通に楽しく暮らせるように力になりたい。フード、ケアや病気についてもきちんと答えられるよう勉強しています。トレーナーではなく、あくまでも『プロのペットショップ店長』でありたい」

トイプードル「ジーニー」とジャックラッセルテリア「ロイス」
左が、UGの群れを引っぱる頼れる現リーダー「ジーニー」(UG DOGS提供)

 最近、休みの日にはロイスを連れて先輩のトレーナーがやっているトレーニングに参加しているという店長。

「もっとロイスと絆を深めたくて。『こんなやり方もあるのか』と勉強になりますし、飼い主さんの気持ちもよりわかるように。カウンセリングで『溺愛しちゃダメ』と口を酸っぱく言い続けてきましたが、ロイスの健気な姿に、甘やかして何が悪い。溺愛上等!! と、内心思うこともあります(笑)。

 ジャックがいてボルドーがいて、そしてロイスがいるから、今の僕がいる。息子たちが人生を変えてくれました」

 最後にこう結んだ。

「ボタンのかけ違いで、飼い主さんから誤解されている子犬と、子犬が理解できないと悩んでいる飼い主さんを、みんな笑顔にする。これからもプロのペットショップ店長として、プライドを持ってそのお手伝いに燃えていきます。だって、犬って最高だから!」

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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