夫婦ともにフリーランス 念願かなって「猫」仕様の家を建てた!

 私の両親が交通事故死したのをきっかけに、多頭飼育人生が始まった我が家。縁あって出会った猫たちとの暮らしも16年になろうとするころ、ついにマイホームを建てることに。

(末尾に写真特集があります)

建てる? 辞める? マイホームを決断

 今から20年前。両親が高速道路上で単独事故に遭い、母は翌日他界。父も意識混濁の状態が何カ月も続きました。事故による症状が固定(それ以上の治癒は望めない状態)すると、その人は病人でもけが人でもなくなります。すると、それ以上病院に入院はしていられなくなるのです。

 転院先を探すよう言われ、父の診断書とレントゲン写真を持って、一体何軒の病院を回ったことででしょう。行く先々で言われるのは「うちでも3カ月しか預かれない」「うちの次の転院先が決まっていないと引き受けられない」。

 父のいる静岡の病院へ通い、東京で仕事をし、転院先を探し続ける日々。仕事にも支障が出ますし、精神的にもかなり追い詰められました。そんな私を見て、父の病院のスタッフの方が言いました。

「こんな生活を続けていたら家族も共倒れになります。勝手なことを言うようですが、自宅で介護することを考えた方が現実的なのでは?」

 これが、今住んでいる土地を購入したきっかけでした。

 母の保険金をはたき(裁判所に成年後見の届け出をして)、介護と仕事を両立できる間取りを検討している間に、父が他界。お金も気力も使い果たした私たちは、その土地を16年もの間、ただただ、キャンピングカー置き場にしていました。

 自分と動物たちはペット飼育可の賃貸物件暮らし。しかし50歳を迎えた頃、ついに私たちは決断することにしました。

「建てるか売り払うか、決めよう」

寝ている猫
そこを枕に使うとは……母さん、予想してなかったわ!

猫のための家が欲しいんです!

 自営業カップルでどちらも50歳オーバー。果たして銀行はお金を貸してくれるのか? 私たちにアドバンテージ(有利な点)があるとすると、無借金で土地を持っている、というただその一点のみ!

 そもそもお金が借りられなければ話は始まらないし、まずはどんなものか住宅展示場に足を運びました。展示場に並ぶ家はどれも素晴らしくオシャレです(当然ですが)。最初はキラキラした家に圧倒され、次に夢ばかりが膨らみ……。

 ですが現実はシビアです。あれこれ見比べた末、3社に設計と見積もりの提案をお願いしました。

 私たちの希望は以下の通り。

  • 幅2,5m、長さ6,8mのキャンピングカーと普通乗用車、合計2台を置きたい。
  • ベランダは不要(夫が重度の花粉症のため)
  • その代わり、2階の廊下はすべて南側に。そこに物干しをする。
  • 1階は仕事部屋とパントリーとトイレ、LDKのみ。
  • 1階、2階とも南側は全面窓に。
  • 2階は納戸、バス洗面、寝室、ウオークインクローゼットのみ。
  • 人間トイレは1階・2階に2カ所。猫トイレも一緒に置けるように。猫トイレ用換気扇を設置。
  • 猫が入れる部屋と、入れたくない部屋を明確に分けること。
  • 玄関から室内に入る間にもう一枚、脱走防止のドアをつけること。

 どのハウスメーカーもこのリクエストには首をかしげました。1日の大半を過ごす仕事部屋を、どうして日当たりのよい南側にしないのか? 通路に過ぎない2階の廊下を北側にすれば、吹き抜けはより広くとれるし、もっと陽が入るのに?

 実際、そのような間取りを提案してきた会社もありました。しかし、私たちが建築を依頼した会社は、間取りの提案もそこそこに、まっさきに資金計画の提案をしてくれたのです。

「50歳過ぎで夫婦ともフリーランス」、この最悪の条件でも、住宅ローンを組ませてくれる銀行を見つけてくれました。さらに、月々の返済金額のシミュレーションもそろえ、無理なく払い続けられるよう、粘り強く条件交渉してくれたのです。

「私たちはペットのことはよくわかりません。飼い主さんのアイデアと経験が一番の財産ですから、どんなことでもご相談ください。それにお答えできる建材を用意します」

 分からないことはわからないとはっきり言ってくれる、その姿勢に感銘を受けて、お願いすることにしました。

後ろ向きの猫
キッチン脇にも小さな窓(開きません)。三女ボビはここからぼんやり、庭木を眺めるのが大好きです。

多頭飼育には広さが必要!

 すったもんだの揚げ句、2017年春、新居は完成しました。古くて狭い借家から引っ越してみてまず感じたこと。

「多頭飼育には適切な広さが必要なんだ」

 慣れない環境に最初はおっかなびっくりだった猫たち。ですが、引越し翌日には警戒心よりも好奇心が勝ったようです。あちこち探検して歩き、ひだまりでお昼寝するまでになりました。

 暮らしぶりが落ち着いてみると、以前の家に比べて圧倒的に小競り合いが減りました。同じ2階建て一軒家ではありますが、今度の家のほうが広く、衝突しそうになっても別々の部屋に逃げられます。

 1階も2階も、南側は全面ガラス窓。おかげで人間は裸でうろうろできなくなりましたが(笑)、大きなキャットウオークとして、猫たちには大好評です。

 そして何より、猫が壁紙を引っ搔いても、自分の家なので気にならないのがうれしい。賃貸の場合はどうしても、人さまの持ち物に傷をつけた! という自責の念でひやひや暮らしていたのです。

 おそらくはここが、私たちの終の棲家。新しい家での新しい暮らしが、始まったのでした。

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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