養鶏業者の現金提供疑惑 倫理的な責任の放棄と利益優先は、鶏たちの苦しみに直結する

バタリーケージの鶏
バタリーケージで飼育される鶏

 採卵養鶏大手のアキタフーズ前代表が、現金約500万円を吉川貴盛元農林水産相に渡した疑いがあるほか、西川公也内閣官房参与を自社の顧問に据えてクルーズ船接待をしたとされるこの事件は鶏たちの苦しみに直結している。

 得をした養鶏業界や政治家がいたとすれば、逆に不利益を被った者がいるということであるが、今回の犠牲者は、人間の言葉を発しない、物言えぬ弱者たち、つまり鶏たちだった。

 OIE(世界動物保健機関、国際獣疫事務局)は、アニマルウェルフェアの指導原則の一つに「動物の利用には、現実的な範囲で最大限その動物のウェルフェアを確保する倫理的責任が伴っている」ことを挙げている。

 この倫理的責任を一切放棄し、金で自分たちの利益だけを優先させたというのが、今回の事件の本質だと私たちは考える。

2つの疑惑

 アキタフーズや養鶏業界は2つのことを求めていた。一つはOIEの採卵鶏の動物福祉規約=国際基準を下げさせるために、日本がOIEに提出する意見をゆがめた可能性があることだ。

 もう一つは、卵の価格が下落した時に国庫から出される補助金を大規模業者ももらいやすくしたことだ。

 裏金があったとすれば、どちらにより役立ったのかは不明であるが、金をもらった相手を優遇しようという一定の動機になった可能性はあるだろう。裏金を受け取ったとされる人物は、農林水産省を動かす絶対的権限を持っていた当時の農林水産大臣である。

 この記事では、前者=OIEの基準を下げようとした点に照準を合わせて解説しよう。 

全世界の鶏を苦しめる結果に

 OIEでは、現在採卵鶏の動物福祉(アニマルウェルフェア)規約が検討されており、すでに5次案が出されている。この2次案(2018年9月)、3次案((2019年9月)に対するコメントと、その間の2019年6月に日本からOIEに提出されたコメントに、賄賂の影響が出ている可能性がある。

 残念ながら日本のコメントは少なからずOIEに影響を及ぼしている形跡がある。それはつまり、世界中が廃止に向けて取り組んでいる鶏のバタリーケージ飼育を継続させることを意味する。

バタリーケージで飼育される鶏
バタリーケージで飼育される鶏

 とくに影響はアニマルウェルフェアが低い地域、進んでいない地域に及ぼされるだろう。日本自身も、その一つだ。

 アニマルウェルフェアレベルの高い国では、OIE福祉規約はあまり参照されない可能性が高い。自国の基準やガイドラインのほうが厳しいからだ。しかし、日本のような国は、OIE福祉規約をアニマルウェルフェアの上限だと捉えがちである。

強硬な態度の日本

 OIEの採卵鶏の福祉規約の策定は、最も揉めている。例えば豚の福祉規約は2次案で確定となった。しかし採卵鶏は新型コロナで1年延びたこともあるだろうが5次案まで出され、修正が何度も行われている。延びた分、日本は何度もコメントをOIEに提出している。

 日本の養鶏業界の力の入れようも採卵鶏のアニマルウェルフェアのコードのときだけ異様だった。

 その直前まで検討されていた豚の福祉規約のとき、日本国内での検討会であるOIE連絡協議会の臨時委員は、アニマルウェルフェアの専門家だけで直接の利害関係者は入らなかった。しかし、採卵鶏の検討の会では3社も業界側の利害関係者が臨時委員に3名も加わり、揃ってバタリーケージを擁護した。

 とくに渦中の秋田氏の息子であり、アキタフーズと養鶏協会を代表して出席した秋田正吾氏は、「育種改良により止まり木に止まらない鶏になっている」「ケージの場合、ケージを掴むことで止り木の役割を果たしている」と発言するなど、アニマルウェルフェアの議論に加わる事自体が不適切であると考えられる。 

 日本政府は消費者グループの意見も聞いたと説明する。実際3名の委員はアニマルウェルフェアをもっと向上させるという立場で発言をしている。しかし実際提出されたコメントには反映されたことはなかった。

ケージフリーで飼育される鶏
ケージフリーで飼育される鶏

 日本の態度はとても強硬だった。鶏たちの習性に配慮すれば当然必要とされるとまり木や巣箱や砂浴びやついばみのエリアの設置を「必須とする2次案」だけでなく、「推奨とした3次案」にまで反対し、設置するかどうかに関する勧告自体をまるっと削除することを求めた。

 農林水産省はこの削除の理由を、単に前段の章にも同じようなことが書かれているから不要なのだと述べたが、それは苦しい言い訳である。

 さらに、何度も「科学倫理、経済、政治的な側面を含む、複雑で、多面的な公共政策上の課題」であるからバランスを考慮すべしとする政治的な意見をOIEに送った。

鶏の苦悩を無視し続けている

 これらの過程はあまりに理不尽で違和感があるものだったため、私たちも異議を唱えてきた。

 当時の大臣や内閣官房参与の意見が日本政府の意見や対応に反映されたのは明白にみえるものの、罪に問えるのかどうかは私達にはわからない。

 しかし、事実としてあるのは、日本の養鶏業界が自分たちの商売の糧としている鶏たちの苦悩を一切無視し続けていることだ。

 日本の養鶏業界は世界中が移行していっているケージフリー(卵を企業が平飼いに変えること)の流れがとても怖かったようである。しかし、ケージフリーやアニマルウェルフェアの向上は、養鶏業界にこそ必要なものだ。農場を閉鎖せよと迫っているのではないのだから、それはチャンスでもあったはずだ。

 そして、倫理は経済を超える問題だと私達は信じている。

 暴力や弱者の苦悩がはびこる社会では、誰も幸せにはならないからだ。

 (次回は2月8日に公開予定です)

【前の回】 50日の短い一生 肉用鶏の苦しみをなくすため、私たちに出来ることは

認定NPO法人アニマルライツセンター
1987年設立。動物たちの苦しみを効果的になくし、動物が動物らしくいられる社会を目指す。食べ物や衣類、娯楽や実験に使われる動物など人の支配下に置かれている動物を守る活動と、エシカル消費の推進に取り組んでいる。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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