50日の短い一生 肉用鶏の苦しみをなくすため、私たちに出来ることは
鶏と暮らすとよく分かる。彼ら、彼女らの個性はとても強い。
その強烈な個性を目の当たりにし、私自身ショックを受けた。年間約700億羽の鶏たちが、とてもとてもひどい目にあっていることを知っているからだ。
鶏たちの行動に共感
鶏たちは、親友を大切にし、寄り添って行動する。親友を亡くすと傷ついて食欲をなくし、ストレス行動を引き起こす。他の仲間がいることは心の傷を和らげるけど、同じように寄り添う親友をすぐに作ることはない。
この子が心許した鶏は死んでしまったあの子だけなんだなと気がつき、同時にそれは自分たちの行動と何ら変わりがないことに気がつく。
まるで人間の心理を見ているように、鶏たちの行動は共感できるところだらけだ。
無数に殺され続ける鶏たち、見た目がどんなに似ていても、一羽一羽中身はぜんぜん違う。
ただ私たちが見分ける能力がないだけで、鶏は仲間をちゃんと見分けて行動している。
どうして鶏なら痛めつけても良い、鶏なら長く生きられない体に作り変えてもいいなんて、思う人がいるのだろう、どうして社会はそれを容認しているのだろう。
精肉コーナーの肉はどうやって作られたものか
孵化場で卵からかえり、先天性異常のヒヨコや汚れていたり小さすぎたり大きすぎるヒヨコが選別されて殺され、残ったヒヨコが箱に詰められて養鶏場にやってくる。
箱から乱暴に地面に放り投げられ、その日から約50日をそこで過ごすことになる。その日から、養鶏場では死ぬヒヨコが出る。従業員は、一日2~3回100メートル近くある鶏舎を往復して死んだり弱って育つ見込みのないヒヨコを集めつづける。
床に敷かれたおが粉で、ヒヨコたちは砂浴びをする。それができるのははじめのうちだけだ。次第に地面には糞尿がたまって砂浴びはできなくなり、給水器の付近はドロドロになったりもする。
本来鶏は120~150日かけて大人の大きさになるが、ブロイラーはたった40日で大人の大きさになる。欧米はこの時屠殺して鶏肉として販売するが、日本はその後更に10日長く育て、さらに1kg太らせる。
見逃されて苦しむヒヨコも
近年、先天性異常で生まれる肉用鶏=ブロイラーが増えてきているという研究がある。クチバシが曲がっていたり、足が多かったりする。このようなヒヨコは孵化場で選別され殺されるが、見逃されて養鶏場で苦しむヒヨコも多数いる。何の治療もなく、看護もなく、数千~数万のヒヨコが閉じ込められた環境で、先天性異常をもつヒヨコは生きることは難しく、死んでいく。
明らかな先天性異常を持っていなくても苦しむ。骨格形成が成長に追いつかず、40%が歩行困難になり、3%が立ち上がれなくなるという。歩けなくなったり立てなくなったりすれば、餌や水場にたどり着けずに餓死する。さらに1~4%が心臓疾患で死亡する。まだ赤ちゃんなのに。
30日を超えた頃から異常に重たい自分自身の体重に、ヒヨコたちはしんどくなり、ますます動かなくなり、それでも食欲だけは通常よりもあり、更に太らされていく。糞尿が敷き詰められた地面に足をつけ、重たい体重を支えていると、足とひざ裏が炎症を起こす。ただ赤くなるのではなく、黒く焼けただれた状態になる。当然激しい苦痛をもたらし、さらに歩けなくなっていく。
これらは全て、人間が、とにかく早く、大きく太っていくように、品種改変を繰り返してきた結果だ。
個別のヒヨコの治療は行われない。餌が無駄にならないように早めに殺すことだけが、苦しむ彼らを助ける方法だ。それ以外は、感染症が出ないように予防的に餌や水に抗生物質を混ぜたり、感染症が出れば鶏舎単位で抗生物質が投与されたりするのみだ。
ブロイラーという動物は、もはや自然の限界を大きく逸脱した状態まで作り変えられ、そして生きているだけで苦しむ。
せめてアニマルウェルフェアを
日本の肉用鶏の飼育はどうしてここまで悪化したのか……と途方に暮れる。農林水産省が示す密飼いの参考値は54kg/㎡(3kgの鶏が18羽、1㎡にいる状態)であるが、実際日本の養鶏場の多くはそのくらい過密状態で飼育している。この数値は国際的に見て異常だ。
ブラジルの平均的な飼育密度は28kg/㎡、タイ最大手食品企業CP foodsは33kg/㎡、EUは原則33kg/㎡であり、日本はあまりに乖離がある。
動物を詰め込みすぎれば、運動もできず、不衛生になり、病気や皮膚の炎症などが悪化していく。
動物自身の免疫力ではなく、ワクチンと抗菌剤に頼らざるを得ない畜産は、抗菌剤が効かない菌により人々の健康が脅かされるという薬剤耐性菌の問題と関わりが深い。2050年には薬剤耐性菌による死亡者数が、がんの死亡者数を超え1000万人になると予測されるほど重要な課題である。
抗菌剤の3分の2が畜産・水産業に使われているにもかかわらず、対策は遅れてきた。2018年のEU決議では、アニマルウェルフェアが低ければ病気の羅漢率が上がり、アニマルウェルフェアに配慮された飼育自体が病気の予防効果を持ち、抗菌剤を減らすことにつながるのだと強調された。日本政府はそのことを認めてすらいない。アニマルウェルフェアの遅れは市民としても大きな脅威だ。
欧米は今、鶏肉の福祉基準「ベターチキンコミットメント」が進んでいる。とまり木をつけ、自然光を入れ、飼育密度を30kg/㎡まで下げ、品種を改善し、屠殺方法をガスによるものにするといった内容だ。
すでに北米のバーガーキングなど345以上の企業が、2026年までにベターチキンに切り替えることを宣言している。
国産の鶏肉の薬剤耐性菌保有率が外国産の鶏肉よりも高いことが厚生労働省の調査で明らかになっているにもかかわらず、残念ながら日本は進んでいない。それでもできることはある。日本には基準が明確な地鶏(銘柄鶏ではない)があり、ブロイラーをやめて地鶏を選ぶことは重要な一歩になるだろう。
ベターチキンでは解決しきれない
私たちは肉用の鶏たちの50日の短い一生を、国内養鶏場で働いた元従業員からの緻密なレポートを元に、https://50DAYS.jpですべて明らかにした。50日は短いようで長く「早く殺してあげたい」という声も聞かれるほどだった。
元従業員の方は「結局の所、この養鶏というシステムがある限り問題は解決しない。」と言い放った。
養鶏場で働く人は悪人ではないし、虐待しようとしているわけでもない。ただ、ブロイラーという品種で、1羽500円という取引価格で、そして経済動物だからという言い訳をし続ける限り、ひどい状況にならざるを得ない。ベターチキンでは解決しないことはあまりに多い。だからこそ、畜産物の大量生産大量消費から離れなくてはならない。
食品ロスをなくすために多く注文しすぎない、たったそれだけでも助かる命があるだろう。
その注文を大豆ミートにしたらもっと多くの苦しみがなくなる。
1人でやるのではなく、1人でも多くの人が行動すれば、もっと解決に近づく。ついでに環境問題や食糧問題や防疫的リスクの解決にもつながる。
大量生産大量消費から離れることはそれほど難しいことではない。なにかできることがあるのではないか、考えてほしい。
私の家には肉用鶏を火葬した後の骨壺が一つある。隣には我が家にいた保護猫の骨壺が置かれている。猫の体重は2kgだった。肉用鶏の体重は5.5kgを超えていた。でも骨壺の大きさは、肉用鶏のものは猫の一回り小さい。
肉だけがぶよぶよと太り続け、でも骨は小さく、もろく、薄かった。
骨壺を見るたびに、涙が出る。
【前の回】 「アニマルウェルフェアアワード」を創設 動物たちのためになる行動を
(次回は12月14日に公開予定です)
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