夫を慕い片時も離れたくない子猫「ピーヤ」 こんなにも深い信頼関係が築けるなんて
ピーヤは人を怖がらない。来客があると二階から駆け降りて無邪気にあいさつをする。
窓に張り付いて
飢えや孤独とは無縁で、苦労知らずのお嬢さんだ。全身はツヤツヤと輝き、小走りすれば体中の肉がムチムチと弾んだ。
とにかく夫を慕った。風呂に入ると湯船の縁に座って上がるのを待っている。庭へ出れば窓にはりついて「ぴ〜や~」と大声で呼ぶ。片時も離れたくないのだ。
生後まもないヒナの状態から育てたのは初めての経験で、こんなにも深い信頼関係を築けることに驚いた。抱きかかえると腕の中でぐにゃりと力を抜いて全身を預けてくる。
人に育てられたピーヤは自分も人間だと思っているが、先住猫のくまはせっせとピーヤの毛繕いをしてやった。新入り子猫のピーヤの存在にイライラしないくまは立派だった。
迷い猫の貼り紙を見るたびに
ピーヤが来てから半年が過ぎた。このまま家の中だけにいれば心配はないが、そろそろ不妊手術を考え始める。
迷い猫の貼り紙を見るたびに心が痛む。穏やかに暮らしていたのに、何かのはずみでうっかり外へ出てしまったのだろう。
車の音に驚いて走ったり、いろんな匂いをたどっているうちに遠くまで行き、そのまま迷子になってしまう。
いくら気をつけていても、ピーヤがそうならないとは限らない。
猫の妊娠の成功率はほぼ100%だと聞く。行方知れずになり、いつのまにか産んだ子猫たちをぞろぞろと引き連れて帰還するピーヤの姿が浮かぶ。
かわいいけれど、それは困る。子猫の引き取り手を探すのは簡単なことではない。
気持ちは固まっていたが、本人の意志を確認できないままに命を左右することへの躊躇もあった。堂々巡りの末にとうとう決める。
まだ少女のピーヤに開腹手術は酷なことだ。「ピーちゃん、頑張ってね」。手術は一泊の入院となる。
出来ることなら付き添いたい気持ちを抱えたまま、ピーヤを先生に預けた。
目が合うと「ぴ~や~」
翌日の午後に迎えに行く。手術は無事に成功したと聞いて安心する。全身麻酔をした場合、まれにそのまま目覚めない事故もあるそうだ。
検診台に乗せられたピーヤと目が合うと、「ぴ〜や~」と小さく鳴いた。エリザベスカラーをつけた姿はふびんだ。頑張ったねえと、鼻先をなでる。
手術をした傷口をなめないように、カラーをつけたままの生活が始まった。首を左右に振ると、あちこちにぶつかり思うように歩けない。
数日間は家のどこかでカツン、コツンと音がしていたが、やがて首をクイっと上げたままヒラリとベッドに飛び乗ったり、階段を駆け上ったりできるようになった。
プロレスの特訓のおかげで飲み込みが早い、と夫は愛弟子ピーヤを褒めた。
もし無事に保護できたら
また子猫を見つけた、と友人から写真が届いた。ピーヤを保護した同じ空き家だ。チビ猫が2匹、警戒した様子でこちらを見上げている。
生後ひと月くらいだろうか。保護した時のピーヤよりも育ってはいるが、まだまだ小さい。
ピーヤと模様が一緒だから腹違いか同じ一族だろう。また見かけたら連絡をほしいと伝える。
くまとピーヤでうちは定員オーバーだ。もし無事に保護できたら、今度こそ子猫を欲しがっていた友人に託そう。
【前の回】猫のルールを知らない子猫の「ピーヤ」 そこで夫が教育係をかって出た
【次の回】新入りの子猫2匹 取っ組み合っていたかと思えばポトッと寝落ち、夜中は大運動会
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