腎臓病の猫とぽっちゃり猫、あげたいフードは別々 楽しみながら工夫重ねる女性の試み
ペットの健康を維持するには、適切な管理が必要だ。なかでも食事選びは大切なこと。だが複数飼いの場合、年齢差や病気などのためにフードをそれぞれの猫に合ったものに替える必要も出てくる。でもこれがなかなか難しい……。オス猫2匹のうち1匹が若くして腎臓病になり、フードのお悩みに直面しているお宅を訪れてみた。
年齢違いの仲良し2匹
都内の住宅地。茶と黒の2体の可愛い猫の「置物」が飾られた戸建ての玄関をあがると、置物によく似た茶トラ模様の猫が出迎えてくれた。
「この子がトラ、11歳です。もう一匹のクロは8歳で、今は別の部屋にいってます」
トラは人なつこく、健康だが肥満気味。クロはややナーバスで、腎臓病があり細身。飼い主の岡田結花さんが笑顔で説明してくれた。年齢違いのオス同士、とても仲良しだという。
犬派がすっかり猫好きに
岡田さんがトラを迎えたのは11年前。ペットサイトを通してボランティアから譲ってもらったそうだ。
「トラを迎える前に、庭から家に入ってきて飼った“初代トラ”を白血病で亡くして猫のいない生活が寂しくて…。また飼うなら同じ柄がよいねと家族で話して決めました。もともとは犬派でしたが、30代を過ぎて猫を室内飼いし、すっかりハマった感じです(笑)」
トラを迎えた3年後に、「黒い猫って魔力ありそう」と惹かれ、同じボランティアさんから迎えたのがクロだった。
「クロは生後3カ月で来ましたが、初日はケージでシャーシャー。トラは“これ何ですか?”って顔をして見ていました(笑)。オス同士は張り合ってケンカすることもあるようですが、トラの性格が穏やかだったせいか、しばらくすると2匹でくっつくようになりました」
窓辺で並んで寝たり、ストーブに2匹であたったり、むつまじい姿が見られた。ごはんタイムも一緒。少しむくむくしたトラには体重管理用の療法食を、クロには去勢後用の総合栄養食を用意した。トラは早食いの食いしん坊。クロのエサを気にしたので、2匹の間にお風呂のふたをついたて代わりに置くこともあった。とはいえこのころは、さほど困った状況ではなかった。
クロが7歳を過ぎてよく吐くようになり、その後、2匹のフード事情にもが影響が出た。
腎臓病とわかって
「ちょうどクロを迎えた年に娘が大学の獣医保健看護学科に入学し、動物看護師になったのですが、状態を話すと、すぐ調べたほうがいいと。それで病院を受診すると、クレアチニンとBUNの数値が正常値を逸脱し、エコー検査で腎臓が機能低下して形が悪くなっていることがわかりました。この時点で石がどの程度あるかわかりませんでしたが、左腎の機能は低下し、右腎は生かせそうだという判断でした」
腎臓は血液の中の老廃物をろ過し、尿を作る役目も担っている。腎臓病にかかると血液中の老廃物をろ過することができず、毒素が体内にたまって、様々な障害を引き起こしてしまう。
クロの場合、石があっても詰まる状態ではなかったが、先生に「もともと腎臓の機能が弱いのかもしれないが、このまま放置すれば1年持たない」と言われたという。
「あと10年は生きてもらわなきゃね、と勧めて下さった治療は2つ、尿管を切開してつなげて尿を出す手術と、管付きポートを埋め込むSUBシステム(膀胱バイパス手術)です。娘のいる病院に行って再度エコー検査をすると、石の量や大きさからして、今後うまく尿を流すために後者のほうが良いのではという判断で、娘のいる病院でバイパス手術を受けました」
手術は成功。術後のレントゲンでは腎臓内の石が流れたお陰で腎臓の形も正常の状態近くになったという。冷静に仕事としてクロの世話をする娘から、入院中の様子も聞くことができた。1週間後に退院したあとは、最初の検査をした病院で定期検査をするようになった。
フードジプシーになる
岡田さんは病気が判明してからクロのケアに尽力。補液(水分補給などのための皮下輸液)のセットも用意し、壁には「今日は点滴日」という看板も。
「退院後しばらくは血液検査を月1度、今は2カ月に一度。補液は手術前からして、今は週4日、家でしています。腎臓病になると痩せやすくなるし、食事管理も大切。従来のフードを腎臓病の療法食に切り替えることが必要でした。ところがあまりおいしくないようで……」
腎機能が低下するとリンが排出されにくくなり、そのリンが腎臓の状態を悪化させる。また腎臓機能の低下で塩分と水分の調整がしにくく血圧が上がりやすくなり、腎臓への負担を増やしてしまう。そのため腎臓病用の療法食はリンとナトリウムの制限がされている。
「リンやナトリウムが少ないフードは(うまみがなく)猫もおいしくないと感じるのか、クロはあまり食べようとしない。腎臓病持ちの猫は食も細く痩せるので、苦労する飼い主さんが多いと思いますが、私も療法食のパッケージ裏を見ながら端から合うものを探すフードジプシーになりました(笑)」
まずそうなものをいかに食べさせるか、そんな悩みのなか、岡田さんは娘からある方法を聞いたという。それは“移し香作戦”。茶こし袋(素材はポリエステル等)に、市販のおいしそうなフードを入れて、療法食と同じ容器に入れて香りを移すことだった。
「工夫することで、フードを少しずつ食べてくれるようになりました。でももうひとつ問題があって。それは、トラがクロのフードを食べたがることでした」
2匹に必要なのは逆のフード
腎臓病用のフードは通常より高カロリー。カロリーが低いと体内のたんぱく質がエネルギー源として使われることもあり、カロリーが高めのものが多い。食の細いクロにはこれをあげたい。
一方、太め男子のトラにはカロリー低めの体重管理用フードを続けてあげている。これ以上太ると「糖尿病などが心配」という親心から、高カロリーのものは極力あげたくないのだ。
「クロにはどんどん食べてほしい、トラにはこれ以上太ってほしくない、フードの内容が逆。だから同時にお皿を並べず、クロのお皿は(よく乗る)棚の上に置くようにしました」
留守用にはカメラ付きの自動給餌器を二つ離して置いているが、思うように食べてもらえないこともある。2匹がリビングにいればトラにクロより1分くらい前に給餌し、その間にクロにあげることができるが、時間になってクロがその場にいなかった時に後から給餌すると、トラがまたぱくぱく食べてしまうことも……。
結局、2匹が違う種類や違う量のフードを食べる場合は、「現場で見届けるのがいちばん」と、岡田さん。
クロは療法食のほかに、獣医師に勧められた腎臓に負担がかからないようなサプリメントを2種類飲んでいる。一つは冷蔵庫保管して、一日2度あげるという。
「サプリを動物病院用ちゅーるに混ぜてあげていたのですが、飽きてきてしまったので、ネットで鳥の胸肉やささみを主体とした高栄養ペーストを探しました。とにかくいろいろ、うちの子の状態に合うもの、よさそうなものを探し回っています(笑)」
猫のことをもっと学びたい
工夫と努力にこたえるように、クロは手術してから体調を維持している。獣医師にも、「この数値ならいいですね」といわれているそうだ。
岡田さんはフードに限らず、いろいろな猫の情報に詳しい。2年前に「ねこ検定」の上級に合格。猫のセミナーに出て、講義をする先生に積極的に病気の質問もする。
ケアは大変そうだが、「楽しくやっている」と岡田さんは話す。今の猫を深く思う気持ちは、初代トラや以前飼っていた犬との付き合いも影響しているそうだ。
「初代トラは家猫なってまもなく白血病になり、余命宣告されたのですが、その時、高度医療にかかるか、抗がん剤を試すか、緩和ケアか、安楽死か4択を先生に提案されました。家族と相談して抗がん剤を試しました。やがて食欲が落ちて、病院で食べさせてもらい、おなかを満たした状態でお別れをしました。でもその時は知識があまりなかったんです。以前飼っていた犬もフィラリアで若くして亡くし、知識がなく後悔が残りました」
先代猫や犬に対する気持ち、突き動かされた経験があるからこそ、学びたい意欲がわいたのだ、という。
「動物を飼う時はその生態を熟知して、病気予防や病気になった時に徹底的にその病について勉強するというスタンスになりました。飼い主としてある程度の予備知識があれば、気になることがあった時、これを先生に言われるかな?と推察できるし心の準備もできます」
猫たちを抱き寄せ、岡田さんは優しくほほ笑んだ。
「この子たちは玄関にあるような置物ではなく、大切な命。人より早く老いが来るのだし、人生まるごと愛していきたいです」
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