動物看護師の細やかな心配り 飼い主の心をなごませ、犬や猫の不安をやわらげる

 病院の第一印象は、最初に対応してくれたスタッフで決まることが多い。

 私が、慢性腎臓病を患う愛猫ぽんたのセカンドオピニオンを求めて隣町の病院を訪れたとき、受付で対応してくれたのは動物看護師の菜々子さんだった。

(末尾に写真特集があります)

きっといい病院だ

「こんにちは!はじめてですか?今日はどうされました?」

 年齢はおそらく20代。きゃしゃな見た目で、いまどきの女の子という雰囲気だが、明るくきさくな応対に、やや緊張気味だった私の気持ちはほぐれた。

 初診問診票に記入をし、待合室のソファに座り、彼女がなじみの飼い主たちと交わす会話に耳を傾ける。

「○○ちゃん、今日はどう?ごはんをあまり食べない?そっか、それは心配だね。診察の前に先生に伝えておきますね」

「△△ちゃん、その後、おなかの調子は?少しは回復した?よかった!じゃあお薬しばらく続けましょう」

診察台の上の猫
「電光石火の給餌、いきます!」(小林写函撮影)

 若いのに、まるで「下町のおかあさん」のような安心感のあるハキハキとした受け答えが、待合室の空気をなごませ、風通しをよくしていた。くだけた口調でも、年上の相手に対して、礼節をわきまえている。

 きっといい病院だ、と私は思った。

 その日から、ここはぽんたのかかりつけの病院になった。

多岐にわたる仕事

 菜々子さんは、動物看護師になって今年で8年目だ。

 動物看護師専門学校を卒業後、実家から近い都内の大手動物病院に就職した。動物看護師が20名近く在籍する病院で先輩たちからみっちりと仕込まれ、3年間勤めてひと通りのことができるようになったとき、同じ病院に勤務する獣医師の1人が独立開院することになり、働かないかと誘われた。

 開業当初、1人だった看護師は現在5人に増えた。菜々子さんはそのリーダーだ。

 病院の規模によって多少違いはあるものの、動物看護師の仕事は多岐にわたる。

 保定に代表される診療時の獣医師のサポートのほか、各種検査、薬の調剤、手術の準備や補助、器具の片付け。入院中や、ペットホテルに滞在している動物たちのケアや食事の世話、ケージの掃除。菜々子さんのようにトリマーの資格を持つ場合は、トリミングも行う。病院内の清掃や消毒も動物看護師の仕事だ。

くつろぐ猫
「ジュジュです。菜々子さんに長くかわいがってもらっています」(小林写函撮影)

 受付、電話対応、会計業務も重要だ。菜々子さんが前に勤めていた病院ではこれらは専門のスタッフが行い、動物看護師の仕事ではなかった。今の病院では誰から教わるでもなく、どうしたら飼い主に喜ばれるかを自分で模索した。

 獣医師には話せなくても、看護師になら話せることはきっとある。そう考え、声をかけやすい雰囲気づくりを心がけた。

「会計時の対応が丁寧だと飼い主さんは満足してくださる。だからお見送りまで気を抜かないようにしています」

猫は千差万別

 診療時は、犬より猫のほうが気をつかうのだそうだ。

 犬は、怖がっていても抱っこをすれば落ち着く子が多い。しかし猫は緊張したままのことがほとんど。だから、診察室の扉の前では、いつもちょっと身構える。

 中に入った瞬間に、診察台にいる猫の表情はもちろん、耳の向き、体の動き、後ずさりしたかどうかなどのささいな行動から、性格や気分を判断する。そうして、どういう接し方をするのがふさわしいのかを、瞬時に決めるのだという。

 声をかけたほうが落ち着く子もいれば、逆の子もいる。なでられるのが好きな子もいれば、そうでない子もいる。

「猫ちゃんは、本当に千差万別。判断がはずれてしまって、反省することもあるんですけどね」

遊ぶ猫
「ムムです。菜々子さんと同じおてんば娘です」(小林写函撮影)

 入院中に世話をしていた動物が、病院で亡くなると、つらい。

「私は感情移入しやすいほうなので、人目をはばからずに大声でワーワー鳴きます」

 だが、動物が亡くした人が新しい「家族」を連れ、笑顔で病院に来てくれると、悲しみは喜びに変わる。

2匹が待つ部屋

 現在、一人暮らしをしている菜々子さんの家にはジュジュとムムという2匹の猫がいる。ジュジュはオスで、実家で中学生のときから飼っている猫。ムムはメスで推定3歳、病院に来るなじみの飼い主から、保護した子猫の1匹を譲り受けた。

 シニア猫のジュジュと、まだ若いムムは決して仲がよいわけではないし、猫たちが好き放題にするので、家具はあちこちほころびている。

 それでも1日の仕事を終え、2匹が待つ部屋に戻ると、ほっとする。

 動物看護師に飼われている猫は幸せだ。体調管理は万全だし、ちょっと具合が悪くてもすぐに気がついてもらえる。

 爪切りだって、猫に苦痛はないだろう。私は、抵抗されてぽんたの爪切りがうまくできなかったので、治療のついでに菜々子さんにお願いをしていた。その手際のよさに、いつも見ほれていた。

「実は、うちの猫たちの爪切りはできないんです。嫌がってかわいそうなので……。本当はしたほうがいいのですけど」

 そう苦笑いする菜々子さんは、動物看護師ではなく、飼い主の顔をしていた。

【前の回】 わが家に戻ってきた猫「ミー」 なでているとおなかにしこりが…翌日病院へ
【次の回】 倒れている野良猫を見つけた 先のことはわからないけど、動物病院へ運ぶと決めた

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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