保護した猫「ミー」を譲渡 恋しいけど忘れようとした矢先、わが家に戻ってくることに

 自宅アパートの前で保護した野良猫に「ミー」と名づけ、譲渡先を探していた一恵さん。不妊手術と同時に、おなかの中にいた子どもを奪ってしまったことに罪悪感を感じていたところ、友人から朗報が届いた。知り合いのBさん一家が、ミーを引き取りたいと希望しているという。

(末尾に写真特集があります)

ひと目で気に入った

 家族構成は夫婦と小学生の子ども一人と、ミーと同じぐらいの雌猫が一匹。この先住猫と友だちになれる猫を探していたところ、ミーの写真をひと目で気に入り、新しい家族として迎えたいそうだ。

 夫婦の人柄は友人のお墨付きだし、猫の扱いには慣れている。広いマンション暮らしと聞くし、ミーの新しい飼い主としては願ってもない人たちだ。

戸の近くにいるキジ白猫
「人間の目線はこのくらいなんだ」(小林写函撮影)

 実は、ペット飼育不可だった一恵さんのアパートだが、ミーの手術のことを大家さんに話すと「飼っても構わない」という許可が下りたのだった。大家さん自身、過去に猫を保護した経験があり、保護猫には理解があった。

 だが、1Kのアパート住まいの単身者で、猫を飼った経験のない自分よりも、ミーの飼い主としてふさわしい候補が現れた。一恵さんは、迷いをふっきった。

今頃どうしてる?

 ミーがBさん宅に引き取られてから1カ月が経ち、夏になった。

 ミーが一恵さんの部屋で過ごしたのは3日間ほどだが、この1カ月、ミーのことを思い出さない日はなかった。今頃どうしているのかと考えてばかりいる。

 ミーがいないと、狭い部屋が広く感じるし、時間ももてあまし気味だ。当人は自分のことなど忘れて、皆に可愛がられて幸せに暮らしているだろう。ミーのためにと思ってしたことなのに、別れた恋人にいつまでも未練を残しているような自分が情けない。なぜ引き取らなかったのだろうかとさえ考えた。

もう迷いはなかった

 友人を通し、Bさんに体をぴったりとくっつけて甘えるミーの写真も送られてきていた。これでよかったと気持ちに区切りつけ、ミーの使っていた猫トイレを処分しようとしていた矢先、友人から連絡が入った。

 Bさん一家にはすぐに懐いたミーだが、先住猫とうまくいっていないらしい。

棚の上の猫
「冷蔵庫のスイカが少なくなってる気がする。私が食べちゃったのかな?」(小林写函撮影)

 先住猫を追いかけまわし威嚇するのだという。おっとりした性格の先住猫はミーと仲良くしたいようだが、ミーが受けつけない。行動がエスカレートすると、ミーだけ別の部屋に隔離して、一人で過ごさせざるを得なくなる。これはミーにとっても、ミーが可愛いBさん一家にとっても大きなストレスだ。

 Bさん一家は、なんとかうまい方法はないかと考え、話し合った。行き着いた結論は「ミーちゃんは、自分だけを可愛がってくれる飼い主さんのところで暮らしたほうが幸せになれるのでは」というものだった。

 もう迷いはなかった。数日後、一恵さんはミーを迎えにBさん宅に向かった。

様子が変わっていて…

 ミーの面倒は一生自分がみる。初の猫飼育に不安がないわけではなかったが、ミーへの愛情がそれに勝った。

 しかし、1カ月ぶりに一緒に過ごすミーは、様子が変わっていた。

 以前は自分から甘えてきてのどをゴロゴロ鳴らしたのに、すり寄ってこなくなった。触らせてはくれるが、なでられるのは歓迎しないようで、避けようとする。

 キャットフードを十分に与えているのに、一恵さんが食事をしていると、テーブルにのって皿の上の食べ物に手を出そうとした。

手を伸ばす猫
「スイカにつられて入ってきたアリさん、一緒に遊ばない?」(小林写函撮影)

 手や足にかみついてくることもあった。ストレスが原因ではと思い、じゃらし棒で遊んで発散させた。しかし、疲れ知らずのミーは1時間棒を振っても満足しない。夜中でも一恵さんを起こして遊びをねだり、つきあっているうちに寝不足になった。

 ミーは以前に比べると、無邪気というか遠慮がなくなった気がした。

 身重ではなくなり、定住先も決まり、人間に愛敬を振りまく必要がなくなったからかもしれない。 

家族の時間

 ワンオペ猫飼育に疲れを感じはじめたとき、救世主が現れた。郊外の実家で暮らしていた妹の恵美さんが心配し、毎週末、遊びに来るようになったのだ。

 ミーの相手をしてくれたり、一恵さんの話を聞いてくれたりするだけで心が軽くなった。一人だったらイライラしてしまうミーの行動も、恵美さんが一緒だと笑いに変えられた。

 また、猫の相手に忙しく家に戻らない娘のため、母親も差し入れを持ってたびたび来訪した。ミーを囲んで過ごす家族の時間は、一恵さんとミーの関係を穏やかなものにしてくれた。

ひだまりで体を丸める

 季節は夏から秋へと移っていった。

 無防備におなかを見せて床に転がるミーと過ごす日々に安らぎを感じるようになっていた一恵さんだが、気になることがあった。

 日当たりだ。秋から冬の間、1階の一恵さんの部屋に陽が差し込むのは、午前中のほんのいっときだけになる。ひなたぼっこが好きな猫が快適に過ごせるのだろうか。

 ある日、ミーが猫の額ほどのひだまりにしがみつくように体を丸めている姿を見て、一恵さんは決心した。

 日当たりのよい広いところへ引っ越そう。恵美さんに話すと賛同し、2人で部屋を借りよう、という話に発展した。

 こうしてミーとの新しい生活を描きはじめたとき、ミーの体に異変がみつかった。

【前の回】 保護した野良猫、飼い主が決まるまで世話すると決めた すると猫に妊娠の可能性が…
【次の回】 わが家に戻ってきた猫「ミー」 なでているとおなかにしこりが…翌日病院へ

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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