ゴルフ場にいた小さな体の三毛猫 少女に見守られ家猫になる
3年前、生まれたばかりの子猫を拾って育てた少女が、中学生になり、今度はおとなの野良猫を保護した。先住のオス猫は温室育ちだが、新入り猫はちょっと野生的。さて仲良くなれる?登校の自粛が続いた春から初夏、少女は母親とともに猫の様子を見守った。
小学4年のときに子猫を保護
6月半ば、都内の一軒家にお邪魔した。この家を訪ねるのは3年ぶりだ。
「この子が新入りのおと。小柄でしょ?前に会ってもらったミーちゃんは、こんな大きくなりました」
中学2年のニイノちゃんが、リビングで出迎えてくれた。腕の中には小柄なキジ三毛、足元には黒猫ミーちゃんことミー吉(3歳)が、どっかり座っている。
「ミーちゃんも娘も大きく成長しました」と母親が微笑む。ミー吉は8.4キロになり、ニイノちゃんも、3年で背が十数センチ伸びたという。
ニイノちゃんは小学4年生の夏、手のひらに乗るほど小さなミー吉ときょうだい2匹を近所で保護し、反対するお父さんに頼みこんで世話をした。無事に育ったきょうだいを2つの家族に譲り、ミー吉を家に残し、先住犬のバニラとともに育ててきた。その様子を以前(ミー吉が生後10カ月の頃)取材させてもらったのだ。
「ミーちゃんは本当に穏やか。犬のバニラがふざけても怒らないし、ツンツンしてない」とニイノちゃん。
ミー吉は初めて飼った猫だったため、「猫ってみんなそうなんだ」と思ったのだ。ところが、そんなイメージががらっと変わる瞬間が訪れた。今年、ニイノちゃんは新たに猫を飼い始めたのだが、それはミー吉とまったく違うタイプだった。
ゴルフ練習場の茂みから鳴き声が
出会いは1月、寒い季節だった。ニイノちゃんが、幼稚園の頃から続けているゴルフの練習のため、打ちっ放しに母親と行った時、ネット裏の茂みからにゃあ、と声が聞こえた。
「ママ、猫がいるね」
「野良猫かしら、ゴルフ場で世話をしてるのかしら…」
その後も、打ちっ放しに行くたびに鳴き声が聞こえた。気になってフードを持っていくと、小さな猫が現れ、警戒しながらも少しずつ食べるようになった。
冬場に表にいるしゴルフ場で飼われているわけでもなさそう……。ニイノちゃんは“保護したい”と思った。母は賛成したが、父親には「ミー吉を優先しないと」と渋い顔をされた。
「パパはアレルギーがあり、ミーちゃんの時も反対した。でもミーちゃんが2歳の頃、パパがソファで寝たら隣に来て、髪の毛を“毛づくろい”してくれたって喜んで、それ以来ミー吉ファン(笑)。三毛猫も私が説得すれば大丈夫かなと思いました。だって外は寒いし可哀想」
今日こそ、という日にキャリーバッグを持ってゴルフ場にいくと、三毛猫はいつもの茂みではなく、駐車場のほうまで出てきていた。ニイノちゃんは小さな体を素手で抱き上げバッグにいれて、母親の運転する車で動物病院に連れていったという。
「子猫だろう」とニイノちゃんは思っていた。だが獣医さんは診察後に「2、3歳のおとなですね」と言った。首輪もないしチップもない。爪も伸びて肉球も硬いので「飼い猫でなくやはり外暮らしだったのでしょう」とも。
「結局そのままうちの子になったんですが、おとなだったから、“おと”と名付けました」
意外なものをトイレ代わりに
おとちゃんを迎えてから一カ月以上、ミー吉から離してニイノちゃんの部屋で育てた。警戒心が強くてすぐに窓辺に隠れたが、ニイノちゃんは慌てず見守った。
「ちょうど2月から(コロナ自粛で)学校に行かれなかったので、ゆっくり部屋やトイレに慣れてもらおうと思ったんです。でも最初はトイレでおしっこができず、事件が起きました」
トイレの砂は手つかずなのに、部屋のどこかからおしっこの臭いが漂う。どこ、どこ?母と一緒に探すと、おとちゃんは意外なものをトイレ代わりにしていた。
それは部屋にあった90㎝ほどの巨大な犬のぬいぐるみ。後ろ足のあたりがびしょびしょになっている。におうが洗えないので、母親がはさみで濡れた部分をカットした。
「後ろ足の次はお腹、胸、と濡れた布をカットしたら…結局、ぬいぐるみが顔だけになっちゃって(笑)。でも娘が誘導して、トイレできるようになりました」と母が振り返る。
少し経つと、鳴いたり、体をうねうねするなど“盛りがついた様子”が見られたため、避妊手術を受けさせた。その時に獣医師が「もしかしたら年齢は2、3歳より下かな」と言ったそうだ。ニイノちゃんの「子猫だろう」という推測が当たっていたのかもしれない。
ニイノちゃんは課題の勉強をしながら、おとちゃんに声をかけて、ごはんをあげたり一緒に遊んであげたりした。
そうしているうちに、おとちゃんの警戒心が解けて、だんだん家族に慣れていった。
次はいよいよ、ミー吉との関係だ。見合いをしてもし合わなければ、猫友が「引き取りたい」と言ってくれていたのだが…
ミー吉がお母さんになる
3月になっておとちゃんの体調が落ち着くと、ミー吉のいるリビングに時々連れていくようになった。ミー吉は皆の心配をよそに、スムーズにおとちゃんを迎えいれたのだった。
「ミーちゃんは最初、誰?という感じでおとに近づいていきました。でもシャーとかすることなく、そのうちにおとの横に寝そべったんです。その後もよく面倒をみるので、ミーちゃんはオスなのに“お母さん”みたいでした」
2匹が寄り添う姿に、ニイノちゃんは胸をなで下ろした。こうして、おとちゃんはこの春に正式な家族になった。
おとちゃんは敏捷で、落ちつきなく、高いところにすいすい登る。急に「ツーン」とおすましもする。いつだって温和なミー吉とずいぶん違う。
「冷たい~と思ったけど、猫ってこういうものなの?ママ」
「そうよ、おとちゃんは猫っぽいと思うわ」
ミー吉はねずみのおもちゃにすぐ飽きるが、おとちゃんはとことん狩りをして遊ぶ。食事の仕方も違う。
「ミー吉はごはんをゆっくり食べるけど、おとはすごい早さで、床に落ちたものも慌てて食べるんです」
母親はそんなおとちゃんをみて不憫に感じ、家に連れてきてよかったとつくづく思ったという。少し賑やかだけどあたたかな部屋で、お腹を満たしてもらえれば、と。
母の願い、娘の思い
ニイノちゃんがまだ赤ちゃんの頃、大型犬を飼っていたそうだ。母親はその時のことをよく覚えている。
「あの当時は娘にも手がかかって、十分に犬のケアをしてあげられなかったのではないかと今も心に残っていて」
50歳を過ぎた母は最近、娘の成長と共に自分も年を取った、と感じるという。そんななかで、「犬や猫はあと何年くらい生きてくれるかな」と考えるそうだ。
「とくに猫は長生きだし…みんな長生きしてくれたら、老老介護で今度こそしっかり最後までお世話をしたい。人よりも短命なぶん、大切にしてあげたいですね」
母がいうと、ちょっとおとなびた表情で、ニイノちゃんが言った。
「その時は私もお世話するよ。ミーちゃんにおとちゃん、あっ、ママのことも。ママのお世話がいちばん大変かもね」
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