猫が出られるようにベランダに網を張った 「せめて外の空気を」

   動物が苦手だった主婦が、ひょんなことから、子猫を引き取って飼うことになった。それまでは、猫は家の外とを行き来させて飼うものと思っていたが、時代は変わっていた。「一生家の中だけでは」とベランダに網を張って、猫を解放した。だが、これによって「譲渡不可」の“烙印”を押されることになった。

(末尾に写真特集があります)

   埼玉県蕨市で4匹の猫と家族で暮らす由美さんの家は、2階と3階のベランダ部分がゴルフ練習場のような緑色のネットで覆われている。

「猫が脱走しないように工夫しています。初めて網を見た方には驚かれますね(笑)」

   由美さん(52)に案内されて2階の居間にあがると、掃き出しの窓が円形にくり抜かれ、猫がベランダに自由に出られるようになっていた。ひなたぼっこをしていた茶白猫が「誰ですか?」というように窓の外から部屋をのぞく。

「誰か来たの?」。ベランダから居間をのぞく猫の「ぐーぐー」
「誰か来たの?」。ベランダから居間をのぞく猫の「ぐーぐー」

長女の同級生宅で保護された子猫

「あの子が最初に迎えたぐーぐーさん。4歳の男の子です。ぐーぐーが来て、生活が一変しました。もう猫のいない生活は考えられません(笑)」

 ぐーぐーが丸山家に来たのは4年前。当時高校生だった長女の同級生の家で、近所で産まれた野良猫の子が保護されていた。

「何匹かいたうち1匹だけもらい手がなくて、『処分されるらしいよ』と娘に聞き、可哀想だと思いました。ちょうどその頃、長男が猫の動画を観ているのを知り、猫のいる生活はどんな感じかな、ペットショップでなくて何か出会いがあればいいなと考えていたところでした」

   とはいえ、由美さんは子どもの頃から動物が苦手。引っ越してきた時、猫を飼っている隣の家に挨拶に行って「私は生き物が嫌いなので」と口にしたほどだ。それに迎えた子猫に何かあって、長女と同級生が不仲になっても困る……。そう戸惑いながらも、どこかで“縁”を感じ、子猫を引き取ることにしたのだった。

愛猫「ぐーぐー」と見つめ合う由美さん
愛猫「ぐーぐー」と見つめ合う由美さん

   ぐーぐーに初めて会った時、由美さんは「猫ってこんなに可愛いの?」と驚いた。さらに昨今の「猫の飼い方」についても衝撃を受けた。猫は外に出すものと思っていたからだ。

猫の飼い方の変化にびっくり

「ペットショップにフードやトイレを買いに行って、『猫はどこから外に出すんですか?』と店員さんに尋ねると、『今は室内で飼うんですよ』と言われて……。一生家の中で過ごすなら、せめてベランダで外の空気を吸えるようにしようと家族と話して、網を張ることにしたんです」

 家の床は総無垢材。その雰囲気に合うような天然木のキャットタワーや木製の食器台を夫が注文し、居間の扉に猫用ドアも付けた。そんな夫の姿にも由美さんは驚いたようだ。

「ぐーぐーを迎える時、夫は『オレは承知したけど世話はしない』と言っていたのに、いざ一緒に暮らし始めると、誰より可愛がって(笑)。家族の会話も増えたし、子どもが急に親離れして寂しく感じていたところに、ぐーぐーが来て、私の“持て余した母性”が満たされました」

自分で保護した2匹目の猫

  猫の魅力を知った由美さんの家では、ぐーぐーを迎えた1年後に、茶トラのオス猫「こむぎ」を迎えることにした。外で見かけた子猫が気になり、長女と長男と一緒に保護したのだ。

幼い頃の「こむぎ」と長女。家族みんなが猫を可愛がり、飼育に協力する
幼い頃の「こむぎ」と長女。家族みんなが猫を可愛がり、飼育に協力する

「捕獲器など知らずに、軍手をして手づかみで捕まえました(笑)。検査をしたらコクシジウムという虫がいたので隔離したのですが、トイレ消毒や投薬が大変なうえ、なかなか駆虫できず、ノイローゼ気味になりました。ようやく駆虫できてフリーにしたら、今度はぐーぐーがストレスから膀胱炎になってしまって。でも、そこで“療法食”の存在を知りました」

 先住猫を大事にしないといけないことも学び、「ぐーさん大丈夫、皆ぐーさんが好きだからね」と話しかけ、食事もこむぎより先にあげるなど気遣い、ぐーぐーの体調も安定していった。新入りこむぎとよい距離感を保ち、2匹はベランダで気持ち良さそうに過ごしていた。

   インターネットで猫の情報を得るようになった由美さんは、保護団体の存在を知り、3匹目を団体から譲り受けたいと思うようになった。ところが、そこで、思わぬ新たな“障害”にぶつかった。

我が家は譲渡不可物件?

「保護猫を迎えたくて2度ほど譲渡会に行ってみたのですが、いずれも『譲渡不可』と烙印を押されて……。原因はベランダの網。つまり猫をベランダに出している家はNGだというのです。ぐーぐーもこむぎもベランダに慣れていたので禁止は難しい。3度目に保護団体『ねこけん』を訪ねることにしたのですが、そこでダメならもう猫はあきらめようと思いました」

    ねこけんの譲渡会で、メス猫ほたるを見そめ、譲渡希望と同時にベランダを開放していることを告げると、ねこけんの代表が家まで様子を見に来て、猫が絶対に逃げないような網のとめ方を指示してくれた。

家の外からベランダを見上げると「ぐーぐー」が
家の外からベランダを見上げると「ぐーぐー」が

「ベランダに100本以上ある柵にひもを結び直しました。それでようやく譲渡の許可が下りて、ほたるを迎えました。この頃には野良猫の厳しい現実などもわかったし、もう少し猫のために何かできないかと思い始めて。そんな時に近所の個人ボランティアさんがsippoに載っていたのを見て、思い切って連絡してみたんです」

   そのボランティアの石崎さんにTNRの方法を教わり、今では譲渡会を手伝い、チャリティーグッズも作っているそうだ。猫中心の生活になった由美さんは、笑顔を浮かべてこう話す。

「昨年またメス猫を迎えて我が家は4匹の大所帯になりました。夫も子どもも協力的だし、私も猫を通じて世界が広がり、前向きになりました。猫のこともっと知りたいし、1匹でも幸せになってほしい」

 帰り際、ふと家を振り返ると、猫たちがベランダの網越しに見送ってくれていた。

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猫のブログ 「ぐーぐーさんと一緒」
インスタグラム @komuhotanon
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
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