頭に大ケガをした子猫 目は見えずとも「必ず輝きが戻る」

 駐車中のトラックの下で、頭をケガした子猫が見つかった。瀕死の状態だったが、たまたま居合わせた男性に保護され、治療を受けた。目が見えないなど障害は残ったものの、猫好きな夫婦に引き取られ、「必ず輝きが戻る」と大切に育てられている。

(末尾に写真特集があります)

駐車場のトラックの下にいたケガした子猫

 2019年9月、兵庫県内のコインパーキングに駐車してあったトラックの下に、ケガした子猫がいるのが見つかった。見つけたのは、すぐそばに駐車した男性。最初はぬいぐるみか本物の猫か見分けがつかなかったが、近づいて確認すると、子猫だった。だが、微動だにしない。死んでいるのかと思って触ると、弱々しく動いた。顔の下に血だまりができていた。

 男性は躊躇なく子猫を抱き上げ、妻に電話して、かかりつけの動物病院に連絡してほしいと頼んだ。しかし、あいにくその病院が休診日だったので、保護活動をしている妹のところに1時間かけて連れて行き、妹と一緒に保護活動をしている人がかかりつけの病院で応急処置をしてもらった。いったん家に連れ帰ったものの、夜に容体が急変。対応してくれる動物病院に駆け込んだ。

 子猫は頭蓋骨が陥没し、おでこに浮腫があり、抑えると痛がって鳴いた。血液と空気が入っていて、点滴をしながら収まるのを待つしかない状態だった。ほかの臓器に損傷はなかったものの、患部は頭部のため、脳や目の機能が回復するかどうか分からなかった。

 事故に遭った可能性もあるが、頭部だけ負傷していたので、人に虐待、遺棄された可能性も否定できなかった。

 子猫は、命はとり留めた。脳に異常は認められなかったが、目が見えていない可能性もあった。保護スタッフからハワイ語で「幸運」という意味の「ラキ」という名前をもらった。

みんなでごはん、右から2番目がラキちゃん
みんなでごはん、右から2番目がラキちゃん

4匹以上は飼わないと決めていたが…

 兵庫県に住む輝葉(てるは)さんの夫は、家の階段から転落する事故で半身不随になってしまっていた。それが、好きだった猫を飼い始めると、少しずつ心の健康を取り戻し、杖をつけば歩けるまでに快復した。その後猫好きが高じて、譲渡してもらうなど数が増え、すでに4匹の猫を飼っていた。

 ある日、輝葉さんはフェイスブックで保護団体「猫まみれ実行委員会」の譲渡会が開かれることを知った。「これ以上猫を増やさない」と決めていたので、募金だけしに行こうと軽い気持ちで出かけた。

 その譲渡会で頭をケガして保護された子猫ラキちゃんもいた。可愛らしかったので、すぐにもらい手が決まるだろうと、夫婦で話していた。

 だが、しばらくして保護団体のブログを見ても、まだ譲渡先が決まっていなかった。輝葉さんは気持ちを抑えられず「会ってみたい」と、保護団体に連絡した。

 2019年10月、輝葉さんは子猫ラキちゃんに会いに出かけた。保護団体のスタッフから、ラキちゃんは「目が見えず、耳も聴こえないかもしれない」と説明された。「ぬいぐるみ感覚じゃなくて、ちゃんと世話をしてくれる人に譲りたい」とも言われた。

ミルちゃん黒姫ちゃんと井戸端会議
ミルちゃん黒姫ちゃんと井戸端会議

先住猫とすぐに仲良く

 翌週、1週間のトライアルが始まった。すぐに先住猫のメイちゃんが見に来て、クンクンと匂いをかぎ、ラキちゃんを舐め、一緒に遊びだした。「先住猫がこんなに仲良くしてくれるのは、初めて見た」と保護団体スタッフに言われた。ラキちゃんもすぐにキャットタワーに登ったり、トイレに行ったりした。

 ただ、猫じゃらしで遊ばせようとしてもつかめず、目が見えていないことが分かった。耳もあまり聴こえていないらしかった。獣医師からは「将来、てんかんなど脳の病気を発症するかもしれない。先のことを考えるより、今のこの子を見てあげてください」と言われた。

 輝葉さんは、この子には絶対に輝きが戻ってくるという意味で、ラキに「来輝」という字をあてて、名前にした。

 先住猫メイちゃんは、子猫の来輝ちゃんをすっかり気に入り、トイレまで一緒に入る。来輝ちゃんは障害をものともせず、部屋を走り回り、キャットタワーのてっぺんまで登るようになった。

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渡辺陽
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。朝日新聞社sippo、telling、文春オンライン、サライ.jp、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。FB:https://www.facebook.com/writer.youwatanabe

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この連載について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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