高層ビルの猫部屋に島生まれの猫2匹 犬猫同伴出勤も認める会社
カルカンなどペットフードで知られる米国の食品メーカーの日本の拠点「マース ジャパン リミテッド」(以下マース)は、15年前からオフィス内で猫を飼っている。社員が犬や猫を同伴して出勤することも制度化した。そんなペットフレンドリーな会社を訪ねてみた。
品川駅の東口からつながるビジネス街。港区港南にある高層ビルの7階に、マースジャパンリミテッドのオフィスはある。2016年に目黒から移転してきた。
ビジネス街を見下ろすキャットルーム
会社の受付を入ると、ガラス張りのきれいな猫部屋「キャットルーム」があり、2匹の猫の姿が見えた。
「茶白柄が『きなこ』で推定5歳、黒白柄のおひげ模様の子が『ちょび』で推定4歳。ともに男の子です」
広報・渉外部の中村由帆さんに案内されてキャットルームに入ると、2匹そろって「だあれ?」というようにこちらを見た。きなこが猫柱に飛び乗り、ちょびは窓辺に移る。
「桜の季節はビルの間を花びらが舞うのですが、猫たちはそれを楽しそうに見ています。この場所に彼らを迎えて4年目ですが、環境にも慣れてすっかり“シティボーイ”ですね」
島から船に乗ってやって来た猫
マースは、以前の目黒のオフィスでも2匹の猫を飼っていたが、引っ越し前に定年を迎え、今は終の住処で暮らす。きなことちょびは、2代目なのだという。
「弊社は“ペットのためによりよい世界を実現する”という使命を掲げており、2005年から日本でも、猫や犬と一緒に働くことができる制度(ペットフレンドリーオフィス)をとり入れました。先代猫の1匹が保護猫だったのですが、新たな猫について決める役員を交えた会議で、『やはり保護猫が(社風に)合うのでないか』と提案したところ、満場一致で賛成となり、どこから迎えようか、とさらに話し合いました」
その際、浮上したのが小笠原諸島(東京都小笠原村)の「ノネコプロジェクト」だった。2005年に小笠原諸島で野生化した猫が海鳥を捕食する問題が起こり、猫と鳥の両方を守るため東京都獣医師会が島と協力して始まった活動だ。猫を本土まで船で運び、健康診断、治療、避妊去勢、人慣れ訓練をへて譲渡する。
「東京都獣医師会に『相性のよい2匹を紹介してほしい』と相談し、預かり先の動物病院でお見合いしました。きなこは父島で、ちょびは母島で捕獲された猫でしたが、一緒に仲良く過ごしていました。迎える前に名前の募集と人気投票をしたんですが、社員のワクワク感が高まりましたね。社長による命名式は、皆で猫型ドーナツを食べてお祝いしました」
社員を癒やし、会議にも参加
譲渡された2匹はすぐに会社のキャットルームに慣れたという。日々どんな暮らしをしているのか、猫の世話を担当する総務部門の大熊美代子さんに聞いた。
「朝夕2回、2匹それぞれに合ったフードをあげます。ちょびは木の実や虫を食べていたのではないかと言われましたが、今はどのキャットフードでも食べますね。きなこは5キロを超えた時には低カロリーフードにしました。トイレ掃除も日に2回しますが、粗相は一度もない。ノネコはふつうの猫と変わりないですね」
猫の食欲や排泄の様子を毎日ノートに記録して健康管理するほか、3カ月に一度は猫議会を開き、獣医師免許を持つ社員に「最近少し太り気味」など相談する。どちらが排泄したかわかるようトイレが映るようにカメラを置くことも猫議会で決めた。こうしたきめ細かいケアで、ずっと健康を保っている。
猫たちの存在は社員の励みになっている、と大熊さんはいう。
「夕方の食事をとった後、キャットルームは消灯しますが、夜、帰る時にガラス越し猫を見ていく社員は多いですね。私も嫌なことがあっても、きなこたちの寝顔を見るとふーっと落ち着きます(笑)。総務部門としては、命を預かっているので、責任も大きく感じています」
ちなみに休日は、ペットシッターに日に2回、給餌とトイレ掃除を頼んでいるという。ペットホテルはストレスを感じやすく、2匹を預けると、戻ってから、ニャーニャー「文句をいう」からだそうだ。
キャットルームの隣にある会議室で取材を続けていると、カタカタと頭上で音がした。白黒のちょびがつながっているキャットルームからやって来たのだ。中村さんが「いつもの光景です」と笑顔で見守る。
「この部屋で会議がある時はみな楽しみにしていて、社外の方も『写真撮っていいですか?』とニコニコされて、雰囲気が一瞬にしてなごむんです」
ちょびは愛嬌ある顔でパソコンをのぞき、バッグの匂いを嗅いでから、キャットルームに戻っていった。足取りは軽く、楽しそうだ。きなこやちょびは島の生活をすっかり忘れてしまったことだろう。
ペット同伴に交通費支給
この日、別の部屋には1匹のミニチュアダックスフンドがいた。お客様相談室の根本さんが、立川市の自宅から連れてきた愛犬「伊万里」(メス、10歳)だ。
「そばにいると、やはり落ちつきますね」と根本さんはにっこり。
このペット同伴も、2005年から「ペットフレンドリーオフィス」の一環で認められたものだ。同伴時の交通費や駐車場代の一部は会社から支払われる。制度の発足以来、毎月約5匹の犬がやって来るという。猫もOKだ。
予約制で1日3匹まで。エレベーターでの移動は「貨物用」を使い、頭から尾まで覆うキャリーにいれる。オフィス内ではリードを付けるか、貸し出すサークル内にいれるのがルールだという。
伊万里もリードにつながれて、根本さんが仕事をする足元でくつろいでいた。根本さんが伊万里を抱きあげ、同伴のよさを説明する。
「私の仕事は主にフードの相談に乗ることですが、電話でお叱りを受けることもあるし、ペットが亡くなったお話をされるお客様もいらっしゃいます。一緒に悲しむとつらくなるのですが、一本の長い電話が終わって、犬の頭をなでることで救われるんです。ペットがいると、交流のない他の部署の方が気軽に声をかけてくれるのもいいですね」
伊万里と一緒にオフィス内を歩くと、「可愛い」「後で遊ぼう」と優しい声がかけられた。
(撮影:小林郁人)
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