最愛のお姉ちゃんを失い、ヤンチャ犬が消沈 家族の励ましで蘇る

   犬も仲間を失うと、喪失状態に陥ることがある。その白いミックス犬は、子犬時代から一緒に過ごした大好きな“お姉ちゃん”のチワワに先立たれると、食べ物がのどを通らぬほど意気消沈してしまった。その状態から立ち直らせたのは、家族の励ましだった。

(末尾に写真特集があります)

   東京都文京区。学問の神様・湯島天神へ続く階段を、白い犬がピョンピョンと駆け上がる。

「ミルキー! あわてないで」

   佳奈さん(42)がリードを引いて呼ぶと、いたずらそうに振り向いた。ミルキーは推定7歳のオスのミックス犬。湯島天神の裏手にある佳奈さんの実家の飼い犬だ。佳奈さんはしょっちゅう実家を訪れては、ミルキーを散歩に連れ出す。

「いつも落ち着きがなくて。でも見違えるほど元気になったんです。一時は死んでしまうと思うほど弱っていたので、元に戻って嬉しい」

1歳の頃のミルキー。幼い頃から明るいキャラだった
1歳の頃のミルキー。幼い頃から明るいキャラだった

先住チワワのパートナーとして迎える

   ミルキーが佳奈さんと出会ったのは、7年前。佳奈さんはまだ独身で、実家にはメスのチワワ「りんご」(当時7歳)がいた。

「うちはずっとチワワを飼っていたのですが、3匹いたうち、ほか2匹が亡くなったら、りんごが一気に老けてしまって……。1匹になってしまって寂しいのかと思い、りんごに仲間を迎えたいと思ったんです」

   りんごは、友人宅で生まれ、譲り受けた犬。佳奈さんは次に迎える犬もペットショップではなく、知人のもとで生まれたり、誰かに保護された犬がいいと思っていた。

「ネットで検索していたら保護団体ミグノンに保護犬がいることを知り、たまたま家の近くで譲渡会があったので、『おとうさんやおかあさんがいない犬を見に行こう』と、めいっ子たちや母を誘って見にいったんです。そこにいたのが生後3カ月ほどのミルキーでした」

りんご(左)に寄りそうミルキー(4歳頃)。いつも後を追いかけていた
りんご(左)に寄りそうミルキー(4歳頃)。いつも後を追いかけていた

 ミルキーはマルチーズとヨーキーのミックスで、破綻したブリーダーのもとからレスキューされた犬だった。物怖じしない様子が気に入り「りんごのパートナーにいいね」と申し込むと、ミグノンの代表も「初めての保護犬なら、子犬が育てやすいかも」と勧めてくれて、お見合いが成立した。

お姉さん犬を見習って育つ

   ミルキーは迎えた初日から先住のチワワりんごに大接近した。

「『遊ぼう、遊ぼう』と近づいて。りんごは『なんなの、このキャッキャした男』みたいに引いていましたが(笑)」

 佳奈さん一家は、先住犬を優先して「ごはんでも、何でもりんごから」とルールを決めた。ミルキーは「なんだ、しょうがねえなぁ」という風に順番を待ち、ごはんを嬉しそうにパクパク食べた。

「言葉は悪いけど、ちょっとおつむが足りないのかなと思うくらい、ミルキーは無垢で元気で、やんちゃ坊主(笑)。りんごはお姉さん気質なのか、1カ月もすると、幼いミルキーを受け入れて、そばで寝るようになりました」

りんごがいなくなり落ち込むミルキー(5歳頃)
りんごがいなくなり落ち込むミルキー(5歳頃)

   一方のミルキーは何でもりんごの真似をした。りんごがシーツでおしっこをすると、ミルキーは匂いを嗅いで、続けてそこでするようになり、トイレトレーニングもばっちり。ミルキーはりんごの後を追って、順調に育っていった。

先住犬との突然のお別れ

 それから1年、2年と、平穏に仲良く2匹で暮らし、佳奈さんは結婚して実家を出た。しかし4年経った頃、12歳目前だったりんごに異変が起きた。お客さんが来て、喜んで飛びつこうとした時、心筋梗塞を起こしたのだ。

「半身不随になり、そのまま入院しました。当初はトイレも食事もできなかったのですが、数日経つと少しずつ柔らかなものを食べられるようになり、家に戻れるかもしれないというくらい回復したんです。ミルキーも『お姉ちゃん、まだかな』というようにそわそわしていました」

 りんごの入院中、佳奈さんの母が誕生日を迎えた。りんごの不調から一度は取りやめようとした誕生会だったが、退院が決まったので、前日に家族や友人が集まってお祝いをした。みな順番に会を抜け出して、近くの動物病院に入っているりんごを見舞い「がんばったね」と声をかけた。佳奈さんも「家に帰れるね」と話しかけた。

   だが、その夜、りんごの容体が急変し、亡くなってしまったのだ。

   冷たくなって戻ってきたりんごを、ミルキーは無邪気に迎えた。一般的に犬は、死を深く理解できなくとも“違う様子”にすぐ気づくといわれる。だが、ミルキーはいつもと変わることなく、尾を振ってりんごの亡骸に近づき、ペロペロと舐め、ぺたりと添い寝をしたという。

「ミルキーは火葬場でも、『まだ寝てるの?』というように、不思議そうに棺の中に顔を近づけていました」

1匹になった現実を知り、落ち込んだミルキー

   ミルキーが元気を失ったのは、りんごの火葬を終えてからだ。

佳奈さんとお母さんとお散歩して嬉しそうなミルキー
佳奈さんとお母さんとお散歩して嬉しそうなミルキー

   ようやくお姉ちゃんがいないことに気づいたのだろうか、ひどくしょんぼりして、食事をしなくなった。昼間はひとりで留守番、順番待ちだった食事も自分だけ……その変化を受け入れられないようだった。

「あんなに、『おやつ、おやつ』『ごはん、ごはん』と騒いでいた子が、ほとんど食べない日もあって。おやつを細かく刻んで食事にふりかけるなど、いろいろ試したのですが、どんどんやせていきました」

  幼い時から、りんごの後を追いかけてきたミルキーが、“後を追う”のではないかと心配した佳奈さんは、頻繁に実家に戻っては泊まり、ミルキーに寄り添い、努めて明るく声をかけた。

「ほらミルキー、ごはんよ」「ほらミルキー、散歩いこう」「ひとりじゃないから、みんないるから」

   その声にこたえるように、ミルキーは元気を取り戻していった。

「ミルキーは、周りの人間が盛り上げることで、やっと乗り越えることができました。今も毎日、家族で『ミルキーは?』『元気』なんて、LINEでやりとりしています。今は母と暮らして、ヤンチャぶりを発揮しています。ずっと元気でいてほしいな」

 湯島天神をお参りしていると、佳奈さんのお母さんがやって来た。その姿を見つけたミルキーは、子犬のように目を輝かせてはしゃいでいた。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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