駆け寄ってきた白黒のトイプーは心疾患 でも迎える覚悟を決めた

   先住犬の仲間を探して、保護犬の譲渡会に出かけた。まっしぐらに駆け寄ってきたトイプードルは、珍しい白黒模様。ただ、心臓に病気を抱えていて、去勢手術もできない状態だった。それでも女性は引き取る覚悟を決めた。

(末尾に写真特集があります)

   東京都目黒区のドッグカフェ。テーブルを囲むグループの中に、珍しい白黒(パーティーカラー)のトイプードルがいた。会社員の良江さん(55歳)が飼っている「蘭丸」(オス、推定年齢7歳)だ。

   隣にいたトイプードルが近づくと、蘭丸は照れるように目をそらした。

「この子は本当にビビリで、マイペース(笑)。でもお陰様で元気よ」

 良江さんの言葉に、仲間たちも笑顔になる。

   この日、集っていたのは、同じ保護団体から犬を引き取ったり、一緒に譲渡会などを手伝ったりする“保護つながり”の犬友。何でも話し合える間柄だ。

   良江さんは群馬県在住だが、蘭丸を連れて神奈川県の実家を訪れたので、帰る前にランチ会が開かれた。参加した犬の中には、蘭丸と一緒に崩壊したブリーダーから救出され、しばらく同じ保護部屋で過ごした“同窓犬”もいる。

「今日は6匹集まったけど、過去を持つ子も多いよね。蘭丸も痩せていたのよね……」

仲間とミニ同窓会。左からシュー、プリン、蘭丸、アネラ、そらまめ、レオ
仲間とミニ同窓会。左からシュー、プリン、蘭丸、アネラ、そらまめ、レオ

猛アピールをされて

 良江さんが、蘭丸と出会ったのは201411月。それ以前はメスのアメリカンコッカー「ひな」と、オスのトイプードル「しゃな」の2匹を飼っていたが、「ひな」が亡くなって「しゃな」の遊び相手を探したのだ。

「実家の近くで保護犬の譲渡会があることを知って、主催の団体に問い合わせたら、『しゃな』と同じシルバーのトイプーが参加する予定だと聞いて、出かけたのよね。そうしたら予想外の出会いがあって……」

 スタッフに指示されて犬のサークルに足を踏み入れたとたん、数匹が近づいてきた。その中をかき分けるように、まっしぐらに突進してきたのが「蘭丸」だった。良江さんの足に前脚をかけて、ここにいるよ、と積極的にアピールしてきたという。お目当てのシルバーの犬は不参加だった。

「その日はそのまま帰宅したけど、蘭丸のことがすごく気になってしまって……」

   パーティーカラーのトイプードルは珍しいせいか、譲渡会で“何の犬?”といぶかしがる人もいた。良江さんは一般的な色でないため、もらわれにくいのかもしれない、と思ったという。蘭丸が自分を選んで走ってきてくれたことも忘れられなかった。

   団体に連絡して「蘭丸を譲り受けたい」と告げると、先天性の心疾患(心室中隔欠損とファロー四徴症)の疑いがあると説明を受け、「治療を引き受けてくれる人」に託したいといわれた。蘭丸は推定1歳半だったが、心疾患のため去勢手術も受けていなかった。

   良江さんは「覚悟」を決めて、翌月、蘭丸を家に迎えた。

仲良しだった兄貴分しゃなと
仲良しだった兄貴分しゃなと

去勢ができない

「蘭丸は家に来るとおとなしくて、譲渡会の時の積極性がうそのようだった。なぜか若い女の子が苦手で、20代の娘が近づくと後ずさりして……。よく見ると耳(軟骨)が変形していたし、もしかしたら過去に虐待とかあったのかもしれない」

 動物病院であらためて検査を受けると、心臓にはやはり問題があった。何軒か回って去勢手術の相談をしたが、「(負担がかかるので)麻酔がかけられず、去勢は無理」といわれた。そこで、メス犬に会う時に気をつけたり、日頃から興奮させないように注意したりしながら、生活をすることにした。

   先住犬「しゃな」との相性は良好だった。

「『しゃな』は弟分ができたことが嬉しいのか、“よろしく”、と蘭丸について回っていた。蘭丸は戸惑っていたけど、3週間くらいしたら一緒に寝るようになったわ。オス同士でそんなにべったりはしないけど、兄貴と弟のいい関係になったな」

 お出かけにも慣れて、伊香保、草津、四万、八塩などの温泉に連れて行った。

大きく育った弟分茶々丸と「騒ぐと注意するんだ」
大きく育った弟分茶々丸と「騒ぐと注意するんだ」

弟分から兄貴分に…

 一昨年春、蘭丸が家に来てちょうど4年が過ぎた時、「しゃな」との突然の別れが訪れた。

「しゃなは当時14歳で、シニアだけど、まだまだ元気だった。ところが花粉症(アレルギー)の薬をもらいに病院に連れて行った時、病院の入り口で別の犬にいきなり吠えられて、心臓麻痺を起こしてしまった。すぐに先生に蘇生術を施してもらったけど戻らなくて……」

   落ち込む家族の横で、蘭丸も様子がおかしくなった。“しゃな兄ちゃんは? どこ? どこ?”というように鳴いて、部屋中を探して歩き回った。来る日も来る日も……。

「見ていてつらくなって、新しい犬の仲間が来たら気持ちが変わるかなと、保護犬のサイトを見たり、保護犬カフェに行ったりしてみたの。蘭丸は去勢をしてないので、同性のほうがいいかなと思って探したけれど、なかなか縁がなくて」

 ある日、たまたま目にしたトイプードルのブリーダーのサイトに、店に出せない子犬がいる、と書いてあった。問い合わせると、ヘルニアで“廃棄処分”になるかもしれないという。

「家族と相談して引き取ることにしたのだけど、とにかく陽気で無邪気。そんな子犬と接するうちに蘭丸も変わっていった。子犬が騒いだり私にじゃれついたりすると、“コラッ”と叱りつけて、頼もしい感じに」

   子犬はあっという間に成長したが、小柄な兄貴分の蘭丸に頭があがらないそうだ。

「元気でよかったね」久々に集まった仲間と(アンディカフェにて)
「元気でよかったね」久々に集まった仲間と(アンディカフェにて)

「さあ、ランチを終えたら、みんなでドッグランにいきましょう。蘭丸はのんびり歩くだけだと思うけど、よろしく(笑)」

 温かな犬仲間との時間がしばらく続いた。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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