事故で3本足になった沖縄の猫 一人暮らしの女性と幸せをつかむ

   沖縄出身のサビ猫は、交通事故で後ろ足が不自由になり、性格もシャイだった。だが東京で行われた譲渡会に出ると、若い女性に「この子が好き!」と一目惚れをされて……。今ではハンデキャップをものともせず、マンション暮らしを満喫している。

(末尾に写真特集があります)

   東京都新宿区。会社員の堀井さん(33)が暮らす高層マンションを訪ねると、サビ柄の「ちろまる」(推定11カ月)が、テーブル下から、こちらをうかがうように見ていた。

「最近、やっとシャーシャーをしなくなったんです」

   書棚にはマンガと小説がぎっしり。ゲームも大好きなのだという。

「ちろまるという名は、ゲーム『ドラゴンクエストⅤ』に出てくる猫のようなモンスターの名前“チロル”と、マンガ『おじさまと猫』に登場する“ふくまる”とをかけ合わせたものなんです」

窓枠に前足をかけて外を眺めています(提供写真)
窓枠に前足をかけて外を眺めています(提供写真)

譲渡の審査待ちでハラハラ

   出会いは今年8月。どうしても猫を迎えたくてネットで情報を探している時、たまたま新宿の京王百貨店で開かれる保護猫譲渡会のことを知った。一人暮らしをする前、実家で4匹の猫を飼ったことがあるが、おとなになって、自分の責任で飼うのは初めてのことだった。

「一人暮らしをして8年目ですが、20代の頃は忙しくて猫を飼えなかったんです。30代になって少し余裕ができて、やっとこの時がきた! とわくわくして譲渡会に行きました。たくさんいた中で、いちばん可愛いと思ったのがこの子でした」

 当時の名前は「モネ」。ケージに「3本足」と貼り紙がしてあった。

「ちろまる」は、沖縄で交通事故に遭い、動物愛護管理センターに負傷猫として収容されていた。現地のボランティアが引き出して、東京へ緊急空輸。保護団体「ねこかつ」が引き継いで動物病院に連れていくと、重症のため、やむなく左の後ろ足を付け根から切断する処置を受けたという。

   堀井さんはハンデが気にならなかった。以前、友人が1本の足に障害がある猫を飼っていたが、不自由なく過ごしていたのを見ていた。目の前にいる「ちろまる」が愛らしかったし、1歳近い月齢も魅力だった。仕事のため留守番が長くなる日もあったため、幼猫よりは成猫に近い猫を求めていたのだ。

   しかし、譲渡希望の申込書を書いているうちに「自分は選ばれないかも」という思いにかられたという。譲渡会場に来ている人は、家族連れやカップルが多く、ボランティアにも「もっと条件がいいところが見つかれば、そちらが選ばれるかも」と言われた。

「相棒の猫がほしいんだけど、一人暮らしは不利なのかな……」

   申し込みをしてから7日、10日と時間が過ぎ、堀井さんの心はだんだんと諦めモードになった。連絡があったのは、2週間目だった。

「今回選ばれなくても絶対猫を迎えたいと思い、猫が過ごしやすい空間を作るため、部屋の模様替えの買い物に出かけたんです。そこに『お願いしようと思う』と、『ねこかつ』から連絡があって。嬉しかったですね! つい買い物の量も増えてしまいました(笑)」

 猫用のベッドや棚、皿を買い、テーブルもこたつに買い替えた。テレビやソファの位置を替え、都心が一望できる窓側を猫コーナーにして、キャットタワーも組み立てた。

堀井さんに抱かれる「ちろまる」ちゃん
堀井さんに抱かれる「ちろまる」ちゃん

猫風邪で里帰り、そして再会

 そして9月初旬、環境を万全に整えた部屋で、念願のトライアルが始まった。

「ちろまる」はかなり警戒して、おやつを与えても見向きもしなかった。5日経ったころ、鼻水やくしゃみがひどくなった。だが、動物病院に連れていこうとしても、逃げ回るので捕まえることができない。「ねこかつ」に相談すると、「治してから改めて届けます」と代表が動物病院に連れていってくれた。

   それから2週間して、「ちろまる」が帰ってきた。

「このまま戻らないのでは? なんて心配もしました……。でもこのマンションの部屋を覚えていたのか、バッグから出てきて、床の匂いを嗅いで、すぐにトイレにもいったので、記憶は完全にリセットされたわけではないんだな、とホッとしました」

“やり直し”の生活は、順調だった。2日めにおやつをあげると、おでこを堀井さんの手にすりっとつけた。3日めには、少し体を触らせてくれた。

「ちろまる、おはよう」

「シャー」

「ちろ、帰って来たよ」

「シャー」

   そう威嚇されながらも、日に日に距離は近づいていった。3本足ながら、走るのは速く、窓際に組み立てたキャットタワーの上にも軽々と上った。

「トイレは自分で入れますが、ときどきおしっこが床にこぼれたり、右の後ろ足にかかったりする。でも、きれい好きで、すぐに自分で汚れてしまった足もなめるし、粗相しても、床を拭いたりマットを洗ったりすればいいこと」

 おおらかな堀井さんだが、食事には注意しているという。

後ろの左足を失ったけど、動きは俊敏です
後ろの左足を失ったけど、動きは俊敏です

太りすぎを気にかけ、食事ノートを記録

「ちろまる」は、家に来た頃は警戒して堀井さんの目の前で食事をしなかったが、今は「バリバリ」と大きな音をたててドライフードを食べる。気にしているのは、太ってしまうことだ。肥満になると、足に負担がかかるので、食事内容とカロリーを毎回ノートにつけているのだという。

「最初のうちは2回同じドライフードが続くと嫌がる傾向があるように見えたので、毎食カロリーを見ながら別の種類に替えていました。夜になると、朝はどれをあげたっけ? と私が忘れることもあるので、ノートが欠かせない(笑)。おやつをあげたり、便が出にくかったりする時も記録します。実家の猫は歯磨きが嫌いで、そのせいか歯周病になったので、そのあたりも気をつけています」

   細かくカロリーが記された食事ノートを見せてもらっていると、目にもとまらぬ速さで「ちろまる」が机の下から出てきた。そのままサーッと窓際へ走っていく。確かに、ハンデがわからないくらい俊敏だ。堀井さんがその姿を見守るようにしていう。

「ごはんの要求かと思ったら、なでろって頭を出すこともあるんです(笑)。生活は始まったばかりなので、ゆっくりと慣れてほしいですね。寒くなったら、一緒のお布団で寝たい。中に入ってもいいのよ」

「ちろまる」は窓辺に座って、夜景を見下ろしながら、「OK」というようにシッポを振った。

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藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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