「犬や猫と家族写真を」 福島の現実を知り、スタジオを開いた

 犬や猫も“家族”。愛犬や愛猫と一緒に、家族写真を撮ることをすすめる写真スタジオがある。そのきっかけは福島原発事故で、飼い主からはぐれた犬や猫たちの存在を知ったことだった。

(末尾に写真特集があります)

   東京都国立市に写真スタジオ「イヌとネコとヒトの写真館」はある。カメラマン・上村雄高さん(48)が一昨年、戸建ての自宅の一階部分を改装して開業した。

「写真の雰囲気が明るくなるようにフローリングに杉材を使いました。壁も自分で塗ったんですよ。撮影用ライトはなるべく自然に。かっこつけないで、シンプルに撮ることにしたんです。スタジオにも備品の椅子やオモチャがあるだけなんですよ」

スタジオ改築は自力で行ったそうです
スタジオ改築は自力で行ったそうです

出しゃばらず遠くから

   この日、スタジオで女性と飼い猫の撮影があった。

   広いスペースに猫と飼い主を案内し、しばらく猫と遊んでもらっていた。撮影用のスクリーンには薄いグレーを選んだ。猫は動じない性格なのか、興味津々でスタジオ内を歩き、椅子に登ったり下りたり。そのうち、ごろんと横になった。

「ダーちゃん、気持ちいいのかな」

 上村さんは、笑いながら猫の愛称を呼んで、離れた位置から200ミリの望遠レンズでシャッターを切る。次に、女性が嬉しそうに猫と遊んだり、なでたり、抱いたりする様子を撮っていく。

「飼い主さんがリラックスするとペットもリラックスするので、そんな状況を作るようにして、出しゃばらず遠くから撮る(笑)。猫や犬だけ記念にという方もおられますが、『一緒に撮りませんか?』とお勧めすることもあります。ペットと飼い主の“家族写真”は貴重です。楽しい思い出になる、大事なものだと思うので……」

記念撮影中の犬と猫
記念撮影中の犬と猫

福島を見て人生が変わった

 上村さんがカメラの仕事を始めたのは、今から10年前だ。それ以前、脱サラして個人で始めた玩具類の輸入業はとても順調だった。だが、ある時、こう思ったのだという。

「人々の物欲を満たすだけでなく、もっと本質的なことで人に『ありがとう』と言われたい」

   ちょうどその頃、テレビで難病を伝える番組を見た。

「人が知ることで、支援金が集まったり難病指定になったり、世の中が変わることがあるんだ、と心に響きました。写真を撮る、報道することで、現状を伝えたり、人の役にたてたりすることがあるのではないか」

   それで行動に移してしまった。当時37歳。写真は素人だった。1年間、写真学校に通い、カメラマンを名乗った。カメラマンとして特徴が必要だと考え、自宅の愛猫を撮ってブログに載せるようになった。

   すると、猫雑誌から声がかかるようになり、猫を中心に撮影する生活が始まった。それから3年経った時、起きたのが東日本大震災だった。上村さんの心も大きく揺れた。

「地震の後、福島に残されている犬や猫がいることを知って見に行きました。ボランティアさんが入って、動物たちは飢えをしのいではいましたが、家族と離ればなれになった状況を知ってショックでした。2012年から居住禁止だった飯館村に継続的に行き、犬や猫を撮り始めました」

   福島に通い出して、初めてやりたいことに出会い、お金以上のやりがいを感じたのだという。それまで乗っていたスポーツカーを、雪道にも強い四駆に買い替えた。

飯館村の空き家にいた子猫たち
飯館村の空き家にいた子猫たち

   福島での撮影を通じて、気にかかることがあった。震災後に別の場所に生活拠点を作ったのに、犬や猫を避難区域に置いたままのケースが少なくなかったのだ。

「犬や猫は待っていただろうに、避難解除後も飼い主と一緒に暮らせないだなんて…。犬や猫をもっと家族のように思う人が増えたらいいな、そういう社会になるといいなと。そんな思いをこめて、福島の撮影を続けているんです」

   ペットと死別した人から「もっと写真を撮っておけばよかった」という声も聞いた。

「ペットと飼い主一緒の記録を残してあげたい」「飼い主にとっても楽しい時代を思い出すきっかけになるだろう」。上村さんにそんな思いが募り、撮影のひとつのテーマが「家族」になった。

   飼い犬や飼い猫の家を訪れる出張撮影から始め、その後、自宅スタジオでの撮影、トリミングサロンでの撮影会も始めた。

上村さんと暮らす猫たち
上村さんと暮らす猫たち

自宅2階には多くの保護猫たち

 上村さんは福島に行くたびに、放っておけず猫を保護し、譲渡もしてきた。自宅2階には、現在10匹以上の猫がいるという。案内されて上がると、ふっくらと落ち着いた猫たちがソファに寝そべっていた。

「もともと近所で猫を保護していたのですが、飯館村から連れ帰った猫もいます。空き家に残された子猫を見つけたり、保護施設から預かったり……」

   この夏には、福島の帰り道に寄ったコンビニで、やせてふらふらしていた野良の子猫を見つけた。上村さんの後をついてきたので、そのまま連れ帰ったという。

2階には3部屋ありますが、1部屋は東京っ子と福島っ子のための伸び伸びスペース。みな仲良いです。もう1部屋は、どうしてもなじめない子の場所。いちばん狭い部屋で僕が寝ます(笑)」

   保護した猫たちは、上村さんにとって「大事な家族」だと話す。

「でも、福島などで飼い主を探している犬や猫はまだ多くいる。どの子にも家族が見つかり、人間が家族の写真を1年に1回撮るように、犬や猫もファミリーとして写真を撮ってもらえるといいな」

 スタジオの名前「イヌとネコとヒトの写真館」には、そんな思いが込められていた。

(撮影・上村雄高)

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上村さんのブログ「猫撮る」
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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