完全室内生活の猫もワクチン接種は必要? 獣医師に聞く、接種しておくべき3つの理由

目次
  1. そもそも「猫の混合ワクチン」とは?
  2. 室内生活の猫もワクチン接種をしたほうがいい3つの理由
  3. 猫のワクチンの疑問、聞いてみた
  4. 信頼できる獣医師と相談のうえ、定期的なワクチン接種を

 感染症予防のワクチン、うちの愛猫に必要? 室内生活をしているとこんな疑問を持つ飼い主さんは少なくないかもしれない。

 猫に優しい診療、治療で評判の苅谷動物病院グループの白井活光総院長は「予防という意味では、ワクチンは接種したほうがいいですね」ときっぱり。その理由と、混合ワクチンで予防できる感染症などを白井先生が徹底解説!

 人間の新型コロナウイルス感染症でも関心が集まっているワクチン。ウイルスや細菌を無毒化もしくは弱毒化したものなどを体内に入れることで、ウイルスと闘う免疫力を獲得する。

 生まれたばかりの子猫は、生後すぐに飲む母乳の中に含まれる母親からの免疫「移行抗体」によって守られているが、移行抗体はその後消失してしまう。

「基本的には生後6~8週齢からワクチンをスタートし、その後、4週ごとに3回、多い子猫で4回に分けて接種します。16週齢ぐらいで移行抗体が消失するとされており、十分な効果を得るためには、16週以降までにしっかりと接種する必要があります」(白井先生)

ミルクを飲む子猫
ワクチン接種のスタートは6~8週齢から

 その後も定期的に接種を続けることで、免疫力が持続する。免疫力が落ちる高齢の猫も、体調や持病を獣医師に相談した上で接種が望ましい。

①室内生活でもウイルスの感染リスクはある

 完全室内生活ならウイルスに感染することはないのか? 白井先生はこう解説する。

「たとえば保護ボランティアをするなど、外で他の猫に触れたり、排泄物が靴などについたりすれば、人が家の中にウイルスを持ち込んでしまうこともあります。愛猫をホテルに預ける機会が多ければ、当然、他の猫から感染する可能性もある。多頭生活の場合は、1匹が持っていれば他の猫に感染することも。室内生活でも感染リスクはあるのです」

②感染症には「予防」はできても「治療」できないものもある

 猫の混合ワクチンで予防できる感染症とは? 5種混合ワクチンを例に、予防できる感染症について、解説してもらった。

●猫ウイルス性鼻気管炎

 猫ヘルペスウイルスによって発症する。結膜炎や鼻水、くしゃみ、発熱など風邪症状が出る、いわゆる「猫風邪」と呼ばれている。ヘルペスウイルスは他の猫に接触しなくても、外に出なくても、外で他の猫に触れたりした人間が家の中に持ち込む可能性も。治療してもしきれず、季節の変わり目や、ホテルに預けられるなどストレスがかかった時に症状が出てしまうこともある。

●猫カリシウイルス感染症

 猫ウイルス性鼻気管炎同様、くしゃみや鼻水、発熱などの風邪症状が出る。さらに症状が進むと、口内炎や舌に潰瘍(かいよう)などができるほか、悪化すると二次的に肺炎になる場合がある。また、近年、海外では病原性が強く致死率が高い、全身感染を引き起こす強毒全身性猫カリシウイルスが報告されている。

●猫汎白血球減少症

 猫パルボウイルスによって発症し、腸炎、白血球の減少を引き起こす。感染力が強く、特に子猫や老猫など免疫力が低い猫の場合、命に関わることもある。ペットショップやブリーダーなどで感染が広がることがある。

●猫クラミジア感染症

 猫クラミジア菌の感染により発症する。目ヤニや結膜炎など目の症状、くしゃみ、鼻水などの風邪症状がある場合に検出される。感染している猫に接触すると感染する可能性が高い。ペットショップや保護施設などで広がることがある。

●猫白血病ウイルス感染症

 感染するとリンパ腫や白血病など血液系の腫瘍になることがあり、発症すると高い確率で死亡する。幼猫ほど感受性が高いため感染リスクが高い。野良猫など劣悪な環境で暮らしていると感染することがある。唾液(だえき)から感染するため、陽性猫を含む多頭生活でじゃれあったり同じ食器を使ったりすることで感染が広がることも。発症すると治療法がないため、ワクチンで免疫力をつけることが最善の予防になる。

他の猫を毛繕いする猫
猫白血病ウイルスは唾液(だえき)から感染する

【関連リンク】予防できる猫の感染症について詳しく知りたい方はこちら

③ワクチン未接種だといざというとき困ることも

 ワクチンを接種していないと、いざという時に困ることも。ペットホテルなどではワクチン接種を条件にしているところも少なくない。

 その目的は、ワクチンで予防できる病気を施設に持ち込ませないことと、猫にとってペットホテルはストレスがかかり免疫力が低下するため、感染症に感染する可能性があり、感染予防のためにワクチン接種を行う必要があるのだ。

「免疫力を上げるためにも、少なくとも預ける1週間前には接種しておくべきでしょう」(白井先生)。

 ほかにも、ワクチンで予防できる感染症に未接種で発症した場合、保険金の支払いが免責になるペット保険もある。

 また、災害時に一緒に避難した場合、他の猫が持っているウイルスに感染する危険も。災害が頻発する今、予防の意味でも混合ワクチンは接種しておいたほうが安心、安全だ。

「うちの子も、他の子も守る。人間の新型コロナウイルス感染症と同じで、それが公衆衛生の考え方ですね」と白井先生は話している。

キャリーケースの中の猫
ペットホテルに猫を預けるときは、少なくとも1週間前までにワクチン接種を

●3種、4種、5種……何種を接種したらいい?

 混合ワクチンには「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」があり、コアワクチンは猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症を予防する3種。コアワクチンに猫白血病ウイルス感染症を追加した4種、さらに猫クラミジア感染症を予防する5種などもある。選ぶポイントは、「猫をどこから迎えたか」と「どんな環境で暮らしているか」。

「他の猫との接触が少なく、単頭生活の場合、3種を接種しておけばいいでしょう。保護猫を迎えた多頭生活の場合や、今は1匹でも今後保護猫を迎え入れる可能性があるならば5種を。迎える子はもちろん、先住猫についても、お互いの感染予防の観点から接種したほうがいいのです」(白井先生)

●ワクチンには副反応があるの?

「ワクチンは体にとって異物ですから、それに対して反応が強く起きると、さまざまな副反応が出ることがあります」と白井先生。代表的な反応は、元気がなくなる、発熱、注射した部位の痛み、下痢や嘔吐などの消化器症状など。「できれば接種後3日間ぐらいは様子を見てあげてください」

 深刻なのはアナフィラキシーショック。重篤になると命に関わることもある。接種から遅くとも数十分以内に呼吸困難やじんましん、チアノーゼ、嘔吐、血圧低下、ショック状態に陥ることも。病院で接種後はしばらく様子を見て、何か起きたらすぐに対処してもらう必要がある。

 ただし、最近のワクチンは、副反応が出ることはとても少ないので、リスク回避よりも免疫獲得の効果を優先する方がいいだろう。

 また、ワクチンだけが原因ではないが、注射部位に肉芽腫や線維肉腫などの腫瘍ができる可能性も。現在、獣医師の間では接種部位を考慮する動きがあるという。「以前は背中に注射しましたが、そこに腫瘍ができてしまった場合、切除が難しいため、脇腹や後ろ脚、尻尾などに打つ。世界的にそのような考え方になっています」と白井先生。

ワクチン接種を受ける猫
腫瘍ができてしまった場合を考え、後ろ足や尻尾などにワクチンを打つ

 そうした腫瘍でなくても、免疫反応で注射部位が腫れることはある。しかし、若く健康な猫の場合、なかなか動物病院に行かず、気付いた時には大きくなってしまっていることも。接種部位を覚えておいて、シコリなどになっていないかチェックするといいだろう。

「病院では接種箇所をカルテに記録するので、ワクチン後に気になる場合やしこりを見つけた場合は診察してもらうといいでしょう」(白井先生)

●ワクチンは毎年打つ必要があるの?

 ワクチン接種は生後6~8週齢から始め、移行抗体がなくなる16週齢後まで3~4回接種することが推奨されている。「その後、ワクチンの効果を上げるためにブースターとして、半年後にもう一回接種するのがいいと推奨されています」と白井先生。

 その後は、生活環境や感染リスクによって接種する。「多頭生活や新しい猫を迎え入れる、あるいはホテルに預けるなど、他の猫と接触する可能性があるならば、1年ごとに接種しましょう。感染リスクの低い場合は3年ごとなど、生活環境によって異なるため、かかりつけの獣医師とよく相談して接種プログラムを決めましょう」と白井先生。

 特に猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症はワクチンの効果が持続しない可能性があるので、毎年接種が安心だ。 

●ワクチンは高額なの?

 混合ワクチンの価格は動物病院が決めるため、価格はそれぞれ。高いか安いかは飼い主それぞれの価値観にもよるが、発症してしまった場合の治療費のほうが高額になるケースがほとんどだ。

「大切な猫が病気になって苦しむことが飼い主にとっては一番つらいことです。予防できる病気は予防してあげる。それこそがワクチンの目的なのです」(白井先生)

ワクチン接種を受ける猫
大切な愛猫を病気の苦しみから守るために、ワクチン接種で予防を

 ウイルスを完全遮断することは室内生活でも難しく、感染症を予防するためにも大切な愛猫にはワクチン接種は必要だ。

「どこから猫を迎えたのか、1匹だけなのか多頭生活なのかなど、生活状況や環境によって、何種のワクチンをどのぐらいのタイミングで接種するか。日頃からかかりつけ獣医に診てもらい、体調や持病なども含めて相談するといいですね」と白井先生。そして、こう続けた。

「大切な愛猫をウイルスから守り、病気の苦しみから守る。ワクチンはそのための予防策。信頼できる獣医師と相談した上で、定期的な接種をおすすめします」

白井活光獣医師
苅谷動物病院グループ総院長。獣医学博士。1998年日本大学大学院卒業。同グループ「三ツ目通り病院」や「葛西橋通り病院」の院長を歴任。2015年から現職。日本臨床獣医学フォーラム副会長。専門分野は総合臨床。
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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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