河川敷で保護されたボロボロな黒猫 今は仲間と平穏な暮らし

 虐待を受けた痕跡のあるボロボロの雌猫が、河川敷で保護された。傷を癒した猫を待っていたのは、同じくシニアの雄猫との平穏な暮らしだった。

(末尾に写真特集があります)

お気に入りの部屋で押しかけ同居

 黒猫うらんちゃんは、年齢不詳。小顔でスレンダーなので、子猫っぽく見えるときもあるが、結構なお年であることは間違いない。歯はほとんどないし、黒毛には白髪がかなり混じっている。爪も引っ込みにくくなっている。

 うらんちゃんのお気に入りの場所は、東京都郊外にあるこの家の、広々と明るい2階の部屋だ。真ん中にのびのび寝そべって、日がな一日まったりと過ごす。

 この部屋は、同じく黒猫で、13歳の雄猫ボンちゃんの専用部屋だったのだが、4週間前にやって来たうらんちゃんが押しかけ同居を始めた。うらんちゃんにとっては「大きいのがもう1匹いるけど、快適この上ないアタシの部屋」のようだ。

 飼い主の高橋真理さんは、そんなうらんちゃんが可愛くてたまらないといったまなざしを向けながら言う。

「うらんはボンを気にもとめてないけど、ボンはうらんのことが好きで、もっと仲良くしたいんです。まあ、お互いシニアなので『茶飲み友だち』といったところでしょうか」

白髪が目立つうらんちゃんは、いったい何歳?
白髪が目立つうらんちゃんは、いったい何歳?

けがを負った猫が現れた

 うらんちゃんは、保護団体「アリスの会」のボランティア・メンバーによって、都内の河川敷で3月に保護された。

 その時の状況を、保護した安田敦子さんはこう語る。

「この現場は人馴れしていない猫ばかりで、人を見るとパーッと散るんですが、その日は、大声で鳴きながら寄ってくる小柄な黒猫がいたんです。見かけたことのない子でした」

 間近に見て、敦子さんは目を疑う。これまで、ひどい状態の外猫には何度も遭遇しているが、その猫はとりわけひどかった。頭が腫れあがり、右眼球が飛び出していたのだ。

 すぐさま、病院へ。診察の結果、「頭部の異様な腫れ。おでこの一部が壊死。右眼球の飛び出し。前足の左右同じ位置にワイヤーか何かで縛られたような痕がある」ことから、「縛られて殴られるなどの虐待の可能性あり」とのことだった。

「不思議なのは、大きな声で鳴きながら寄ってきたのに、捕獲器で病院へ運ぶ間も、着いてからも、ずっと鳴かずに落ちついていたこと。助けを求めて近づいてきたとしか思えません」と、敦子さんは言う。

 飼い猫が捨てられ、人懐こいことが災いして、虐待被害に遭ってしまったことも考えられた。

「なんで隠れてんの」とボンちゃんを見やる、うらんちゃん
「なんで隠れてんの」とボンちゃんを見やる、うらんちゃん

傷も癒えて、譲渡先探し

 敦子さんはこの猫に、見送ったばかりの猫「アトム」の面影を見た。アトムはガリガリ状態で出遭い、家に迎えた保護猫第1号だった。

 敦子さんは、この猫に鉄腕アトムの妹の名から「うらん」と名づけた。感染症などの治療を終えて退院。頭部の腫れがひくと、さいわい眼球も引っ込んで、眼球摘出はせずに済んだ。

 うらんちゃんは、退院直後は壁に寄りかかりながらよろよろ歩いていた。椅子やソファにも乗らず、座椅子の上で、ひたすら寝ていた。あの日出遭わなければ野垂れ死んでいただろう猫が、敦子さんは「かわいそうで、かわいそうで、ならなかった」という。

 おでこの傷から膿も出なくなり、禿げていたところの毛も生えてくると、うらんちゃんは、みるみる愛らしい猫になった。

 さんざんつらい思いをしたはずなのに、いや、つらい思いをした末に救われた安堵からなのか、スリスリと人懐こい性格だった。

「ダメもとで譲渡会に参加させてみて、どうしても見つからなかったら、うちの子にする心づもりでした」

 そんなとき、アリスの会のブログでうらんちゃん保護のいきさつを知った真理さんから、問い合わせの電話がかかってきたのだった。

 偶然にも、真理さんと敦子さんは、11年前にアリスの会が立ち入り保護した多頭飼育現場の犬を、それぞれ1頭ずつ迎えた同士だった。話はすぐにまとまった。

夫妻から慈しまれる日々
夫妻から慈しまれる日々

2匹で楽しき老後

 真理さんは、ご主人とふたり暮らし。これまで長年、保護犬や保護猫を複数飼っていたが、次々と見送り、黒猫ボンちゃんの1匹になっていたため、相棒を見つけてやりたいと思っていた。

 だが、70代初めと50代という夫婦の年齢も考え、ボンちゃんと同じシニア猫を探していたのだった。

 うらんちゃんは真理さん夫妻にも、すぐに懐いた。平面移動しかしない猫だと、敦子さんからは聞いていた。それで、うらんちゃんは1階暮らしで、ボンちゃんは気が向いたときに2階から降りてくる形で、まずは2匹の生活をスタートさせたのだが……。

「やってきて、2日目、うらんがトントントンと階段を上っていったんです。以来、彼女は2階を我が物顔で使っています」と、真理さんは笑う。

 ボンちゃんは、自らあいさつしにいったものの、うらんちゃんに軽く猫パンチされてしまって、ご機嫌伺い状態なのだとか。

 それでも、同じ部屋で、いい塩梅にまったりくつろぐ2匹。夜は、真理さんを挟んで川の字で寝る。

「茶飲み友だちから始まって、そのうち、寒くなったらひとつ炬燵で暖まったり、並んで窓から同じ景色を眺めたりして、のんびり一緒に老後を楽しんでくれれば」と、真理さん夫妻は願う。

 保護した敦子さんからも、こんなエールが。

「今まで、お腹を見せて熟睡することなんてなかったでしょう。いつもご飯を探していたでしょう。これまで外で頑張った分、おうちでいっぱい甘えてね」と。

 うらんちゃんは今日も食欲旺盛。気分爽快の安心しきった風情で毛づくろいに余念がない。瞳にも毛並みにも、艶が出てきた。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」連載は8年目。

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猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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