娘から老夫婦に託された猫 甘え上手な“おじいちゃん子”に
子猫時代から飼っていた愛猫を手放さなければならない。人生にはそんなことも起こりうる。娘家族が泣く泣く託した猫は、両親宅になじみ、すっかり甘え上手な“おじいちゃん子”になっていた。
神奈川県横浜市のマンションで、「ぐり」(オス)と「ぐら」(メス)は暮らしている。同じ茶トラのきょうだいだ。もともとは娘あつえさん(49)の家族のもとで飼われていたが、訳あって2年前、実家に引っ越してきた。
「『ぐり』はいつも背中に乗ってくるんだよ」「『ぐら』はおやつを見ると飛んでくるわね」
父の栄司さん(77)と母の由美子さん(74)は2匹に目を細める。2人にとって初めての猫で、可愛くて仕方ないという。
「猫たちが来て家具はボロボロ、掃除も大変だけど、我が子同然ですよ」
絵本から抜け出たような子猫
もともと「ぐり」と「ぐら」があつえさんの家にやって来たのは6年前の7月。知人のカメラマンから「出先で子猫を見つけたけど飼える?」と相談されたのだという。
当時は、中学生の長女と、小学生の次女と長男、夫の5人で実家近くのマンションで暮らしていた。ちょうど子どもたちが猫を飼いたがっていた頃だったので、長男と子猫を見に行った。
子猫は3匹いたが、まだ目も開いていなかった。離乳した後に、2匹を迎え入れた。名前は子どもたちが絵本から取って付けたという。
「絵本から抜け出たように可愛くて。猫が来てから、次女と長男のケンカがぐっと減って、猫の力はすごいなと思いました」
相次ぐ問題、両親に猫を預ける
2匹はすくすく育ったが、慎重な姉の「ぐら」に比べ、弟の「ぐり」はやんちゃで、何度か騒ぎを起こした。
「ぐり」が6カ月の頃、玄関から出て、3階の非常階段から飛び降りてしまったことがあった。マンションに貼り紙をし、みんなで探して1日半後に無事に見つかった。健康に問題はなく、ほっとしたのもつかの間、また事件が起きた。家で植物を食べて中毒を起こしたのだ。
「私が仕事に出ている間、母に留守番に来てもらっていたんですが、“猫が変だ”と連絡をもらい、帰ると、鼻水とよだれがダラダラでした。すぐに救急病院に連れて行きました」
あつえさんは、店舗を持たないフリーのフローリスト。フラワーアレンジメントなどの注文を受けて作るのが仕事だ。市場から仕入れた大量の花を自宅の玄関や台所に置くことがあり、「ぐり」はそれを食べてしまったのだった。
「2日入院して、無事に家に戻りましたが、その後もいたずらが心配で。仕事で長く家を空ける時は、両親宅に預けるようになりました」
同じ頃、家族内では別の問題も起きていた。あつえさんと夫の間に軋轢が生まれていたのだ。
「猫が来る前から、夫とは少し関係が悪化していたのですが、だんだん家の雰囲気が悪くなり、夫の父が来た時に猫がシャーしたことも」
夫は2015年に長男を連れて家を出た。昨年、離婚が成立。5人で暮らしたマンションを手放し、あつえさんは長女と次女と別のマンションを探して暮らすことになった。
離婚に先立って一昨年、実家との間を行ったり来たりしていた「ぐり」と「ぐら」を正式に両親宅に託した。
のびのびと暮らす猫たち
「落ち込む事も多い生活の中で、天真爛漫な猫たちに支えられてきました。でも、猫が暮らすのは、両親と一緒がいいと思ったんです。花を食べた後に実家に預けることが増えて、猫たちもとても慣れていたので。特にやんちゃな『ぐり』が、不思議なほど父と仲良くなってしまったんです」
取材中も「ぐり」は、父の栄司さんの足元にすり寄ったり、一緒に遊んだり、そばから離れなかった。年齢を超えた友達のように見える。
2匹にすれば、子猫の頃からなじんだ場所と飼い主。むしろ自由に動き回れるスペースが広くなり、のびのびしているようだ。
健康診断や爪切りなどは、今もあつえさんが担当。家族みんなで2匹の猫を見守っている。
(ケニア・ドイ撮影)
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