片目をけがして鳴いていた子猫 幸せ願い「みちる」と命名

 草むらで鳴いていた小さな子猫は、片目をけがしていた。引き取った30代の主婦は、幸せが満ちあふれるようにと、「みちる」と名付けた。その出会いをきっかけに、主婦はボランティア活動を始めた。

(末尾に写真特集があります)

 2018年6月初旬、朝5時ごろのことだった。宇都宮市に住む黒川さんが自宅2階で寝ていると、裏の空き地の方から「ミーミー」と子猫らしき声が聞こえてきた。気になって、薄暗い中、懐中電灯を持って見に行った。雑草をかき分けて探したが、見つからなかった。

 午前8時ごろ、再び子猫の声がした。隣の家の庭を見ると、奥さんの足もとで子猫が鳴いていた。ガリガリに痩せ、左目から膿が出て、その周りに砂が固まっていた。

保護して約2週間後のみちる。あちこち探検できるようになりました 写真はいずれも黒川さん提供
保護して約2週間後のみちる。あちこち探検できるようになりました 写真はいずれも黒川さん提供

問題は夫の猫アレルギー

 すぐ保護したかったが、黒川さんの夫には猫アレルギーがあり、自宅で飼うのは難しかった。かわりに隣の奥さんが「うちでいったん預かるよ」と、飼い犬がかかっている動物病院に連れて行ってくれた。子猫は体重300グラムほど、生後約1カ月のメス。獣医師によると、左目はカラスにつつかれたらしかった。

 黒川さんは海外出張中の夫に、LINEで「かわいい子見つけちゃった」と経緯を伝えた。「俺のアレルギー次第だよな」と返事を受け取り、夫の帰宅を待った。

 その間も小4の息子と小1の娘は、何度も隣の家に子猫を見に行っていた。「うちにこの子がいたらいいのに」。黒川さんは「この子を家に迎えたら、最後まで幸せにする責任があるんだよ。あと、パパにアレルギーが出たら飼うことはできないよ」と言い聞かせた。

 発見から3日、帰国した夫とともに子猫に会いに行った。夫は子猫を手のひらに乗せてみたが、不思議とかゆくならなかった。「いけるんじゃない」と2人で顔を見合わせた。

 夫婦は宮城県出身の幼なじみ。夫は小学生時代、黒川さんが拾った三毛猫をなでただけで、鼻水がずるずる出るほどだった。隣の奥さんに「ご主人の体も大切だから、まずはトライアルという形でやってみては」と提案され、1週間の予定で自宅に連れ帰った。

 実は、もともと夫は猫好きだった。「俺の膝の上で寝ている」「指を吸っている」と子猫がかわいくて仕方ない様子で、一緒に過ごしてもアレルギー症状は出なかった。1週間のはずが、3日目には「うちの子にします」と伝えていた。

 子猫の名前は、黒川さんが考えた末、二度とつらい思いやひもじい思いをせず、毎日が幸せに満ちあふれるように「みちる」と付けた。家族として迎えることに決めた日の夜、赤ちゃんの命名のように紙に書いて発表した。「いいね」と家族みんなが言ってくれた。

摘出手術後、抜糸する前のみちる。「エクステしているみたいだね」
摘出手術後、抜糸する前のみちる。「エクステしているみたいだね」

ハンデをみんなで受け入れる

 子どもたちも「みちる」の相手をよくする。ある日、小1の娘がメロディをつけて歌っていた。

「おっはよーおっはよーみちるちゃん」

 黒川さんは「いい歌だよ、2番3番つくってみようよ」と声をかけた。

「にくきゅうぽかぽか おやすみね」「あしたもげんきにあそぼうね」

 そうやって娘が作った詩が、宇都宮市の夏休みのコンテストで銅賞をもらった。

 家に遊びに来た友だちが「みちる」の顔を見て「目、どうしたの」と言っても、その友だちや2人の子どもは引いたりすることはない。「ハンデのある子を素直に受け入れてくれている」と黒川さんはうれしくなるという。

「みちる」は左目のけがのため、距離感がつかみづらいようで、おもちゃで遊んで背中から着地したり、蛇口から水を飲もうとして顔が濡れてしまったりすることがある。それでもいたって元気で、誰にでもよく懐く。

 治療を続けた別の病院で、化膿した左目がいずれ腫瘍になる可能性があると指摘され、避妊手術と同じタイミングで摘出することになった。昨年11月30日に左目を手術。傷跡は黒い糸で縫ってあったため、つけまつげのように見えた。「ツイッギーみたいだね」とほめてねぎらった。

自宅で預かり中の小梅(左)とおかか
自宅で預かり中の小梅(左)とおかか

子猫をきっかけに世界が広がった

 黒川さんは「みちる」を迎えた日に、「みちる」のインスタグラムを始めた。

 実際に一緒に生活してみて、フード代やトイレの砂など、それなりにお金がかかることを実感した。個人ボランティアのインスタを見て、費用負担は大変だろうと思った。「いいね」ボタンを押すだけの日々がもどかしくなっていった。

 昨年11月、猫のTNRや保護活動をしている団体「宮ねこ会」が、保護した9匹の猫の譲渡や預かりを緊急募集する投稿を見た。黒川さんは預かるかどうか迷った。娘が「私の部屋を使っていいから、うちでお預かりしようよ」と言ってくれて、心が決まった。

 その月、譲渡先が決まるまでの慣らしとして、生後3、4カ月くらいのメス2匹を預かった。黒白でおにぎりっぽく見えたので、「小梅」と「おかか」と名付けた。

 ボランティアの「みぶ里親会」と「宮ねこ会」が主催する譲渡会に2匹を連れて行っては、新しい家族が決まるのを待っている。

 さらに1月からは、趣味の手芸を生かして、ハンドメイド作品を販売するサイト「ミンネ」で手作りのシュシュ首輪やおもちゃを販売し、実費を除いた売上を「宮ねこ会」に寄付し始めた。「家にいて出来ることを少しずつやりたいなと思って」

 それまでは、ゆかりのない新しい土地での生活に、孤独を感じることもあった。だが「みちる」を迎えてから、インスタやボランティアなどで出会いがあり、世界が広がった。

「みなさん、インスタのコメントで『みちるを助けてくれてありがとう』って言ってくれるけど、私からしたら、毎日を楽しくしてくれている『みちる』に感謝しているんです」
(高橋秀喜)

sippo
sippo編集部が独自取材した記事など、オリジナルの記事です。

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幸せになった保護犬、保護猫
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