老犬を介護する施設 コミュニティの中で犬にも飼い主にも効果
人が年齢を重ねると介護が必要になるように、犬も高齢になるとサポートが必要となります。横浜の中華街のすぐ近くに、屋内ドッグランや、ホテル、トレーニング、フィットネス、老犬の介護まで、犬向けのサービスを幅広く提供する犬と人のための大型複合施設「WANCOTT(ワンコット)」があります。その施設で、動物看護師の経験を生かし、老犬介護に携わる北島愛さんに、犬の介護の仕事について話を聞きました。
24時間体制でサポート
――なぜこのような大型施設につくることになったのですか?
今まで、ペット向けの施設はすべて「点」でした。例えば、医療であれば動物病院、宿泊はペットホテル、しつけはドッグトレーナーと縦割りだったのです。人と同じで、一貫して対応できる施設があれば、子犬からシニアまで、身体のことから行動までサポートでき、ワンちゃんにとっても、飼い主様にとっても快適ではないかと思い、このような複合的な施設に至りました。
――犬の介護は、どんな仕事なのですか?
24時間体制のシフト勤務で、それぞれのワンちゃんの体調や特徴に合わせたケアを行っています。いつ何があるかわからないこともあり、24時間スタッフ常駐の形を取っています。ワンちゃんの状態によって、夜中でも飲水・食事の介助や体位変換が必要だったり、排泄の介助が必要だったり、必要とするケアは様々です。寝たきりにならないように、筋力を維持するトレーニングをすることもあります。
寝たきりの子でも、できる範囲で身体を動かしてもらうようにしています。歩けなくても、犬として正しい姿勢で立つというだけでも効果はありますから。
食事は基本1日3回ですが、それぞれの状態に合わせて対応し、一日に摂取している水分の量も管理しています。また、時系列で出来事や状態をしっかりと記録しておくことで、ちょっとした変化にも気付けるようにしています。
他の犬と一緒にいることの効果も
――どんな人が利用するんですか?
ご旅行やご家族の入院など、介護の必要な愛犬を残して家をあけられないといったご事情でご利用される方が多いです。老化が進み動けなくなってしまう、夜鳴きがひどいなど、ご家庭での対応に行き詰まってからいらっしゃる方も多いですね。年代ではミドルからシニアくらいの方が多いでしょうか。
ワンちゃんに「ごめんね…」と言いながら預けに来られる方が多いのですが、全然そんなことはないんです。
実は犬も人と同じで、一人(1頭)でいるよりも、他の犬とコミュニケーションを取ることが良い刺激となり、元気になることが多いんです。一人で寝ているよりも、動けなくてもコミュニティの中にいることが重要なのは、人と一緒ですね。
また、自力で立てないような状態の子でも、無理のない範囲で、ご自宅ではできないようなリハビリやサポートをすることができます。
ワンちゃんには「心地よい時間」を提供できますし、飼い主さまにとっても介護の負担が和らぎ、双方にとって良い効果があるんですね。
――費用はどのくらいかかるんですか?
長期ステイで犬を預けた場合の相場は首都圏だと月5~10万円弱ですが、ここだと小型犬でも月12万円となっています。相場よりも割高ですが、その分施設やサービス、スタッフのスキルは充実しています。また、「預けっぱなし」「犬を手放す」という状態を作りたくないので、1カ月単位での契約更新制にしています。
死は前向きに受け止める
――仕事でうれしいのはどんなことですか?
ご利用いただいたワンちゃんと飼い主様が変わっていくことですね。
過去にお預かりした子で、たくさん刺激を与え、いろいろなケアをすることで、無気力な寝たきりの状態から、車いすで歩いたり伏せの姿勢を保てるようになった子がいました。今では施設の前まで来ると、喜んで吠えるようになったと聞いています。
また、飼い主様にも、話を聞いたり、アドバイスを受けたりすることで、前向きになっていただけることもうれしいです。
――死と直面するのは、悲しいですよね?
単純に悲しいという感じではないですね。前向きな気持ちのことの方が多いと思います。
ご利用いただく前には、必ず、細かい生活習慣から、急変したときに蘇生処置を希望するかまで、徹底してヒアリングをしています。積極的な蘇生を希望される人ばかりではないので、最後はご家族の要望を優先しますが、それまでにスタッフとしてできることは全てしています。常にスタッフがそばにいて、ワンちゃんを一人で逝かせるようなことは絶対にしません。
もちろん、お預かりすることで一緒に過ごして家族のような存在になるので、「本当にいなくなるの?」という寂しさは感じます。ただ、「本当にがんばったね!」「今までありがとうね!」という前向きな気持ちで見送ってきました。
ここをご利用いただくということは、ご家族に長い間愛されて、長生きしているということなので、「幸せだったね」という気持ちもあります。
共通して言えるのは、暗い気持ちではなく、やりきった感で明るい気持ちで送り出せるということです。飼い主様も預ける時点である程度覚悟している部分もあるので「本当にがんばりましたね!」と、受け入れて送り出すことが多いんです。
見送り方も大切で、思いを共有して前向きに見送ることで、視点を未来に向けられるのではないかと思っています。
――老犬と暮らす人たちに一言いただけますか?
預けなければならないやむを得ない事情がなくても「自宅以外で過ごす」という選択肢と、老犬ケア施設を利用することのメリットがあることを知ってもらいたいです。切羽詰まってからこういった施設を使うのではなく、元気なうちからつながりを持ち、気軽に相談できる場所を作っておくことで、普段は気づかないようなことに気づけたり、飼い主様のメンタルケアにつながったりする側面もあります。
ご相談だけでも構いませんので、ぜひもっとお気軽に立ち寄っていただけたらと思います。
(合田但)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。