「老犬ホーム」という選択 犬も飼い主も高齢化の中で

高齢化社会の波はペットにも押し寄せています。動物医療の発達はペットの寿命を延ばした一方で、以前はなかった介護の問題をもたらしました。そこで登場したのが「老犬ホーム」です。老犬ホームは、様々な理由で、自宅では世話できなくなった愛犬を預ける場所です。
(ライター 福田優美)


 

(写真は本文とは関係ありません)
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 1匹の犬が、健康で充実した一生をおくるためには、どのくらい費用がかかるのか? シーンごとに犬の飼育にかかる費用について解説するこのシリーズ、第10回は「老犬ホーム」です。老犬ホームは、動物介護士や愛犬飼育管理士らペットの専門家が、飼い主に代わって高齢の犬たちの世話をする施設です。老犬ホームって実際はどんなところ? 預けるにはいくらくらいかかる? 詳しく見ていきましょう。

 

 動物医療が進んだおかげで、犬の平均寿命は小型犬が15歳、中型犬が14歳、大型犬が12歳と、ぐっと延びました。さらに長生きすることも珍しくありません。長寿化は、飼い主にとっては喜ばしい半面、がんや難病、認知症など、これまで犬の世界にはなかった問題を生みました。

 

 千葉市にある「老犬ホーム 花園牧場」には現在85頭の犬がいます。24時間空調管理された犬舎は4棟。おおまかに老犬、要介護犬、小型犬、大型犬に区切られ、犬舎内は2~3平方メートルずつの空間に柵で仕切られています。相性の良い犬や症状や年齢が近い犬同士が数頭ずつ、同じ柵内で寝起きします。外への出入りは自由にできるので、犬たちは好きな時に日光浴ができます。

 

 職員15人の中には、動物介護士やトリマーなど動物関連の有資格者もいます。そのうち日中に勤務に就くのは7人。これだけ人手があっても、「すべきことはたくさんある」と、代表の高梨久枝さんは話します。

 

「大変なのはやはり要介護の子ですね。排泄ができないワンちゃんはおなかの圧迫や肛門マッサージをします。食べられない子はシリンジを使って給餌(きゅうじ)するので、一度の食事に1時間近くかかることも珍しくありません。寝たきりの子は、床ずれ防止のために1時間に1回くらい体位を替えるので、体重が40キロを超える大型犬となると重労働です」

 

 1日2度の食事に加えて、それぞれ異なる投薬、体位転換やおむつ交換などを日々繰り返す犬の介護は、人間の介護と同じく、気力と体力を要するものです。花園牧場では年間の預かり費用約36万円(体格により異なる)以外に、実費として、かかった医療費、ペットシーツやおむつなどの雑費、療法食などの特別食代などを、それぞれの飼い主に請求します。

 

 認知症を患っている犬の場合、健康で自由に動き回れれば徘徊や粗相、夜鳴きなどを繰り返すこともあります。こうなると、飼い主が自宅で一緒に住み続けるのは難しくなります。

 

「夜鳴きは都心部、特に集合住宅で犬を飼っている人にとっては最も切実な問題です。最初は夜中に犬を連れだすことで寝不足になり、次第に、ご近所に迷惑をかけることが精神的な苦痛になるそうです。中には引っ越した先でも同じことが起きたという方もいらっしゃいます」

 

 そう話すのは、千葉県九十九里市で「老犬ホームとペットホテル 九十九里パーク」を営む石川慶秀さんです。石川さんは老いた愛犬のために2200坪の土地を購入し、ドッグランなどの施設を造っていましたが、愛犬は完成前に他界。その後の2015年に開業した九十九里パークでは現在、動物関連の有資格者5人が働いています。

 

 施設は24時間態勢で、石川さんが毎日泊まり込んでいます。都会では見られない全面芝生の広々としたドッグランや、徒歩数分で海、山、川のいずれにも行ける自然豊かな立地は、犬たちが最期の時を迎えるのにふさわしいと思えます。朝夕の食事の合間に毎日行く散歩は、その日の天気や犬たちの状態によって距離やコースを変えるそうです。「温暖な気候と澄んだ空気、それに仲間たちが大勢いるおかげか、犬たちはここへ来て元気を取り戻すようです」と、石川さんはうれしそうに話します。

 

 現在いる32頭の犬のうち9割は終身預かり。終身の場合、預かる時点で蓄犬登録上の名義を飼い主から石川さんに変更します。そうすることで、狂犬病予防注射などの知らせが直接石川さんに届くからです。

 

 年間の預かり費用は36万円。犬種や体格、介護の度合いによって金額に違いをつけていません。おむつなどの雑費は預かり費用に含まれますが、医療費は別精算です。

 

(写真は本文と関係ありません)
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 老犬ホームとはいえ、そこにいるのは老犬だけではありません。東京都大田区の「東京ペットホーム」にいる犬の3割は、飼い主の高齢が原因でここに来ました。中にはまだ老犬とはいえない年齢の犬もいます。

 

「飼い主が高齢者の場合、足腰が悪くなったので散歩に連れ出せない、高齢者施設への入居が決まったけれど犬は連れていけないなどの理由で、泣く泣く愛犬を連れて来られるかたもいらっしゃいます」と、代表の渡部帝さんは話します。

 

 高齢の飼い主の中には、最後まで看取るつもりで犬を飼い始めたけれど、予想以上に犬が長生きしたため面倒を見きれなくなったという人もいます。また夫婦ともに高齢の場合、夫婦のどちらかが要介護状態になりペットの介護にまで手が回らなくなった、ということもあるようです。

 

 羽田空港近くにある東京ペットホームは、都内や他府県からも通いやすく、こまめに愛犬に会いに来たい飼い主には向いていると言えそうです。犬たちが日中を過ごすプレールームには大きな窓があり、日がたっぷり差し込むようになっています。

 

 渡部さんは「入居前のカウンセリングは大切です。ワンちゃんがどういう状態なのか、介護がどこまで必要なのかをしっかりお伺いし、それぞれに合ったプランをお伝えします。ただし、ワンちゃんの症状はたえず変わるので、しゃくし定規にルールを決めるのではなく、状況に応じてその都度話し合いが必要です。その点でも、飼い主さんにはなるべくワンちゃんに会いに来てあげてほしいですね」と話します。

 

 東京ペットホームでは年間の預かり料とは別に10万円を預かっておき、医療費など個別の出費はここから引き、足りなくなればまた徴収する、という精算方法をとっています。また、預かり料は飼育費のみで、排泄の手伝い、強制給餌、毎日の投薬などの介護費用は含まれません。介護が重度の場合は一日上限1500円、軽度の場合でも同500円程度が別途必要になります。

 

まとめ

 飼い主が一人暮らしや共働き、高齢夫婦の場合、認知症や寝たきりの犬を24時間世話するのは現実的に困難です。老犬ホームに預ける選択を考えた時、ある程度まとまったお金が必要なことは間違いありません。一方で、預けるには、ワクチンの接種記録があることや、嚙み癖や伝染病を持っていないこと、下限年齢(若すぎる犬は終身ではなく一時預かりになる)など、施設ごとに条件が規定されています。さらに、劣悪な環境でただ預かるだけの悪徳業者がかつて立件されたこともあり、お金めあての「悪徳施設」ではないのか、本当にきちんと愛犬をケアしてくれるか、施設の質を見極めることも大切です。

 

 大切な愛犬の命を第三者に預けるのか。事前にきちんと準備をしておくだけでなく、施設はなるべく多く見学し、ケアのレベル、雰囲気やスタッフとの相性を確認して、熟考の上で最期のすみかを決めましょう。

sippo
sippo編集部が独自取材した記事など、オリジナルの記事です。

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