階段上れぬ大型犬に添い寝し、介護 「まだ、そばにいなさいよ」

自宅の庭で小次郎と真理子さん
自宅の庭で小次郎と真理子さん

 ペットも年を取ると、不調が表れ、時に介護が必要になる。特に大型犬は身体が大きい分、飼い主の負担も大きい。高齢のラブラドール・レトリーバー「小次郎」の老いと、“笑顔”で向き合う女性に、シニア犬と暮らすコツを聞いた。

 

(末尾に写真特集があります)

 

 海から近い、神奈川県鎌倉市の住宅街。庭に囲まれた一戸建て住宅を訪ねると、黒いラブラドール・レトリーバーの「小次郎」(オス、13歳6カ月)が玄関で迎えてくれた。


「最近、こじ君は後ろ足の関節が悪く、段差の上り下りが難しくて」


 飼い主の和田真理子さん(67)が、愛犬のお尻を両手で押すと、小次郎は“どっこいしょ”という風に上り框(かまち)を越えた。そのままゆっくりと奥のリビングまで歩き、フローリングの床にごろんと寝そべった。とても大きな身体をしている。

 

一緒に寝ている和室で
一緒に寝ている和室で

「体重は32㎏で、若いころとそう変わりません。でも名前を呼んでも、ほとんど聞こえていないようだし、口の周りに白い毛が増えましたね」


 大型犬は小型犬や中型犬より年の取り方が早く、13歳は、人の年齢では90歳を超えている。今でも散歩に出かけるが、歩く距離はぐっと短くなった。


「前は1時間かけて鎌倉山のほうまで行きましたが、途中で止まったら私1人で抱いて戻れないので。近ごろの散歩は家の周囲だけ」

 

 

◆先住のレトリーバーの看取り

 小次郎が和田家に来たのは13年前。大阪の知り合い宅で生まれ、飛行機で連れてこられた。その時、和田家には4歳になる黄色のラブラドール・レトリーバー「金太郎」もおり、一家の生活は2匹の大型犬を中心に回ることになった。4人家族(真理子さんの夫、夫の母、息子)だが、大人が“2人”増えたようだったという。


「それまでも犬はいましたが、室内飼いは、金太郎と小次郎が初めて。大型犬も初めてなので戸惑いましたが、おとなしくて面倒見のよい先住の金ちゃんが、後から来たこじ君をしつけてくれたので楽でしたね。2匹を連れて職場に行ったり、旅行に行ったり。寝る時は2階の寝室のベッドで2匹に囲まれる逆ハーレムでした(笑)」


 先住の金太郎はほとんど病気をしなかったが、5年前の春先、12歳の時に足腰が悪くなり、6月に膀胱炎になったのを機に、寝たきりになった。お漏らしをしてしまうため、リビングにペットシーツと布団を敷いて真理子さんが一緒に寝た。傍らで、小次郎も添い寝をした。


「食欲は落ちなかったので、支えて食べさせて、身体が汚れたり床ずれができたりしないように、1時間おきに両足をもって体を動かして。思えば、あの時はほとんど寝ずの介護でしたね」

 

金太郎が晩年、愛用したバギー
金太郎が晩年、愛用したバギー

 介護が始まって2か月後、金太郎は自宅で家族に見守られ眠るように息を引き取った。

 

 

◆小次郎に起きた変化

 小次郎に変化が起きたのは、その後だった。急にわがままになって甘えだし、真理子さんの後を離れなくなったのだ。台所、トイレ、脱衣所と、どこにでもついて来る。そんな生活がしばらく続いたが、3年ほど前、急に2階について来ることができなくなった。


「白内障が進んで見えづらくなり、怖くて上らなくなったようです。それまでは鳴かなかったのに、用があって私が2階に上がると、下からウオンウオン吠える。大型犬は声が大きいですからね。同じ町内に住む私の妹に、『こじちゃん鳴いてたねー』なんていわれるほど。かといって30㎏以上の体を抱いて、2階に連れていくこともできないし……」


 困ったのが、寝床だった。いつも2階で一緒に寝ていたので、急に小次郎だけ下、というわけにいかないのだ。離れて寝ようとすると呼び続ける。そこで真理子さんは、自分の寝室を一階に変えることにした。


「2階の夫とは別寝にし、玄関脇の客間で小次郎と寝ることにしたんです」


 真理子さんに家を案内してもらうと、小次郎もゆっくりついてきた。もともと、床の間に掛け軸をかけて囲炉裏を中央に置いていたという立派な客間。だが囲炉裏は隅に片づけられ、座卓に真理子さんの日用品をこまごまと置いている。洋服ダンスがないため、服を鴨居にかけてあった。


「2階に服を取りに行くと鳴くので、季節に必要な分をかけているんです。初めは簡易ベッドにしたんですが、そこにすら飛び乗れなくなり、布団にしました。最近、シングルの羽毛の掛け布団を買いました。なんか私、この家に下宿しているみたいね(笑)」

 

クマ出没? 庭で遊ぶ小次郎
クマ出没? 庭で遊ぶ小次郎

 どこまでも明るい真理子さんだが、これから本格的な介護が、この部屋で始まる可能性がある。心構えを聞くと、こんな答えが戻ってきた。


「大切なのは怪我をしないこと。こじ君は体が黒いので、暗闇でうずくまっていると、人が躓くことがある。私はバレエで鍛えているので大事には至らないですけどね。夫は私より腰が弱いし、息子も多忙だし、日々の介護は私しかできないので、注意しています」


 もちろん、小次郎の怪我にも気をつけている。黒くて見えづらいため、夕方の散歩時に、自転車がぶつかってきたこともあったそうだ。それ以来、暗い時間の散歩時は“目立つ服”を着せているという。


「お互いに必要なんだもの、長生きしてほしいわ……。だから今、小次郎に言い聞かせているんです。まだまだ、そばにいなさいよ。最後までちゃんとお世話をするから、もう少しいなきゃだめですよって」

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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