元野良猫「ぽんた」が登った!家猫になっていく姿がうれしかった

 ぽんたが家に来て3週間が過ぎ、年が暮れようとしていた。

(末尾に写真特集があります)

 ダイエットは順調だった。ぽんたを抱いて体重計にのり、そこから自分の分を引くという方法で体重を測ると、開始から1週間で100gが減っていた。

 夜中、「ナオーン」とせつない声を上げながら、部屋の中を駆け回ることもなくなった。代わりに、朝の6時ごろに「なー」と元気な高い声で鳴き、食事をねだるようになった。

 ぽんたは、1日のほとんどを私の部屋の、おもにクローゼットの中でじっとして過ごしていた。

 午前中は食事あと、しばらくリビングにいたり、台所にやって来て日なたで毛づくろいをするが、その後は引っ込んでしまう。食事とトイレ以外はほとんど出てこない。私は、リビングのテーブルで仕事をしていることも多いため、なんとなくつまらなかった。

 夕方から夜にかけてはリビングに現れるが、石油ストーブがついているとすぐに出て行ってしまう。ストーブのファンが回る音なのか、灯油のにおいのせいなのか、理由はわからないが、石油ストーブが嫌いなのだった。

 夜中に走り回っていたときは、チェストや、ダイニングテーブルの上に飛び乗っていたのに、昼間はソファより高いところには登らない。

「猫ってもっと動くはずだけど、ぽんたは寝てばっかりで、大丈夫なのかな、内臓が悪いんじゃないかな」と心配性のツレアイは言った。

 病院で検査をしたばかりだし、それはないだろう。ただ、外で暮らしていたときは生命の危険と隣り合わせだったとはいえ、刺激のある日々を送っていたに違いない。それに比べれば、変化のない室内の生活は退屈で、ひょっとしたら、人間でいう「うつ気味」かもしれない。

捕まえても食べられないのに、夢中で追いかける(小林写函撮影)
捕まえても食べられないのに、夢中で追いかける(小林写函撮影)

 そう考えた私は、ぽんたが少しでも楽しく暮らせる空間を整えるため、猫グッズをそろえることにした。

 まずは、おもちゃ、じゃらし棒だ。ペットグッズショップへ行き、カラフルなタオル地の魚の先に、リボンがついた釣りざお式のものを1本購入した。

 じゃらし棒はただやみくもに振ればよいわけではない、ということを、私は飼育書を読んではじめて知った。「猫の狩猟本能と狩りの衝動を引き出すため」に、小鳥やネズミなど「獲物」の動きに似せた動きを作り出すことが重要のようだ。

 購入した夜、寒々としたリビングのソファの上にいるぽんたの目の前で、振ってみた。反応は鈍い。しかし、飼育書に書いてあるやり方に従い、毎日続けているうち、次第にぽんたは飛びかかるようになってきた。1週間後には、じゃらし棒を振ると、夢中で部屋の中を走り回るようになり、やがて、私がじゃらし棒に手をかけると、腰を落として臨戦態勢に入るようになった。

見晴台の上で、まったり。「また写真、撮るのー」(小林写函撮影)
見晴台の上で、まったり。「また写真、撮るのー」(小林写函撮影)

 また、猫は高いところから部屋の中を見下ろしたり、窓外をながめるのが好きだという。そこでキャットタワーを買うことを考えたが、ツレアイに「部屋が狭くなる」と反対された。もっと簡易的なものはないかとインターネット上で探したところ、「猫専用の見晴台」なるものを見つけ、購入。

 これは、はしごを立てかけたような形状の、高さ1メートルほどの台で、猫が乗るための天板を窓や壁につけて使用する。中間には登りやすいようにステップ台もある。

 見晴台が届き、早々に組み立てると、隣家の庭や通りが見えるリビングの窓辺に置いた。しかし、ぽんたは、台の前を行ったり来たりするだけで、乗ろうとしない。私が抱えてのせても、すぐに鳴いて降りたがる。

「そろそろ外の眺めはいいや」(小林写函撮影)
「そろそろ外の眺めはいいや」(小林写函撮影)

 そのような日々が続き、気に入らないのかなと、あきらめかけたある日。台をじーっと見上げていたぽんたが、天板の上に一気に飛び乗る姿を目撃した。廊下にいて、何げなくリビングに目をやったときのことだった。

 私は、見晴台の上のぽんたを背後からそっと携帯で撮影し、「ぽんた登った!」とメッセージをつけて外出中のツレアイに送った。

 その日から、見晴台はぽんたのお気に入りの場所となった。朝起きると必ず飛び乗り、午前中はずっと、ときには夕方にも、外を眺めるのが日課となった。

 だんだんと、家猫らしくなっていく姿が、私にはうれしかった。

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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