猫の保護を「持続可能な事業」に 出発点は愛猫の看取りだった

目次
  1. 長く活動を続けるために
  2. 危篤の猫の病院でも仕事、過呼吸に
  3. 直接保護しなくても出来ることがある

  コーヒーや雑貨の販売などで、持続可能な事業として、猫の保護活動に取り組んでいる団体が東京にある。善意の寄付だけに頼っていたのでは、いずれ立ちゆかなくなりかねない。そんな思いで事業を立ち上げた女性の出発点は、会社員時代に相次いで愛猫を見送ったつらい記憶だった。

(末尾に写真特集があります)

 東京都世田谷区のビル3階に、猫や犬を保護・譲渡している一般社団法人「LOVE & Co.(ラブコ)」のオフィスはある。現在は子猫から成猫まで13匹を保護している。

 フロアは20畳ほどの広さ。ソファやテーブルで猫たちがくつろいでいる。棚にピョーンと飛び乗る猫もいる。

大雪の日に保護された雪見を抱く矢沢さん
大雪の日に保護された雪見を抱く矢沢さん

  デレクターの矢沢苑子さん(44)が説明する。

「従来のシェルターのイメージを変えたくて、”オフィスで保護猫を保護”している“というスタンスにしています。自宅や預かりさん宅にいる子を含めると、全部23匹になります。他にも部屋がありますよ」

 案内されて奥に行くと、扉付きの部屋にケージが並び、小さな黒猫が入っていた。保護されて間もない猫や、隔離が必要な猫が過ごす場所だという。

「ここは元々、犬のホテルやトリミングサロンなどのために作られたビルなので、音が漏れにくい二重窓や、滑りにくい床になっているんです」

 矢沢さんは2016年春、猫の保護活動に“うってつけ”のこの物件と巡り遭い、仲間の今井友美さん(44)らと3人で、LOVE&Co.を立ち上げた。念頭に置いたのは、事業の持続可能性だった。

「保護活動は寄付に頼ることが多いですが、寄付が集まらなければ、潰れてしまうことがある。長期的に持続させるために、自分たちが得意なことで事業を回して、その利益で保護活動を支えることを目指しました」 

 今までに保護した猫の数は68匹で、うち48匹が“卒業”したという。

僕の名は「演歌」、嫁や仲間を紹介するよ
僕の名は「演歌」、嫁や仲間を紹介するよ

 保護活動を支える事業の要は、コーヒーのチャリティー販売だ。矢沢さんらは以前、コーヒーの売り上げの一部をシェルター設立に充当する事業「Buddy Coffee」に携わっていた。その経験を活かし、新しい商品「LOVE ME COFFEE」を作った。

「“コーヒー1杯がフード1杯になる”という考えで、家族の募集も兼ねて、保護猫の写真をコーヒーのラベルにしました。保護にはお金がかかるので、猫たちにモデルになってもらったわけです。ラベルに載る子はそれぞれハッシュタグを持っていて、検索するとインスタグラムやツイッターなどにつながり、日々の様子を見ることができます」

 ほかにTシャツやカップやお皿など、チャリティー商品を企画、販売している。質やデザインにもこだわりがある。

「保護猫が可哀そうだからと仕方なく何かを買うのではなく、本当にこれが欲しいなと思って買ってもらえるように、お洒落なグッズを作るようにしています。日曜日にグッズだけ買いにいらっしゃる方もいますよ」

 扱うアイテムは約30種類と多い。棚の一角には、ポップな骨壺カバーもある。

「メモリアルグッズはLOVE & Co.ではなく、私自身が個人で立ち上げた『ethicolorful』というブランドです。もともと私の愛猫たちのために作りました。振り返れば、今の事業のすべてが、一緒に過ごした子たちへの思いから広がったことなんです」

たれ目が可愛い演歌の嫁メロデイ(LOVE & Co.提供)
たれ目が可愛い演歌の嫁メロデイ(LOVE & Co.提供)

 矢沢さんは20代前半に自宅でノンノンというメス猫を飼い始め、4年後にはミ二ラというオス猫を迎えた。楽しく暮らしていたが、ノンノンが12歳になった時にがんになった。鼻腔にできたがんが肺にも転移して余命宣告された。

「ノンノンはがんの前にも闘病していました。仕事が忙しかったので、私の疲れやストレスを肩代りしたのかもしれません。毎朝、これが最後かもと思いながら仕事に出かけ、帰って来て、ほっとする日々が続きました。そしてノンノンを看取った1カ月後、ぴんぴんしていたミニラが同じように肺がんになって、後を追うように逝ってしまったのです」

 その当時、矢沢さんはベンチャー企業でエンジニアとして勤務していたが、ミニラの危篤が、自分が手掛けたシステムのリリースの日と重なった。上司の許しを得て会社から病院に駆け付けたが、仕事への責任からミニラにずっと寄り添うこができず、廊下で泣きながら作業を続けた。

「看取った後、会社で過呼吸になりました。心配した上司に『生きるために猫を飼うべき』と言われ、ペットショップに連れて行かれそうになりました。私は保護猫じゃないと嫌なので、ネット検索して、健康そうな2匹の子猫を迎えたんです。ところが、白血病を発症して、またしても闘病……」

 2匹のうち1匹の子猫を生後3カ月で失った時、矢沢さんは会社を辞めた。

「病床の猫に寄り添えない仕事って何だろう?」と疑問がわいたからだ。もう1匹の子猫も8カ月で逝き、矢沢さんの家には4つの骨壺が並ぶことになった。その骨壺をながめていて、ある違和感を覚えたという。

「もっと可愛い入れ物はないのかと。調べても見つからないので、自分で作ることにしました。羊毛で骨壺カバーを作ったのですが、こういう風に可愛くして手元に置きたい人は他にも多いのでないかと思い、メモリアルグッズをオーダーメイドできる仕事を始めたんです」

棚に並ぶ魅力的アイテム…の間に猫ちゃん
棚に並ぶ魅力的アイテム…の間に猫ちゃん

 矢沢さんの気持ちは外にも向かった。会社を辞めた時、それまでできなかった外猫の保護活動を餌やりさんと一緒にして、家族募集のポスターなども作った。そこでまた気づきがあったのだという。

「直接猫に関わらなくても、パソコンが得意であれば、告知のような作業が猫助けになるんですね。皆、誰でも参加しやすく、チャリティーができたり、奉仕ができたり、間接的でも猫のためになる……。メモリアルグッズを作る一方で、そのアイデアを具体化したいと思っていた頃、チャリティーコーヒー(Buddy Coffee)の仕事をしていた今村さんに出会って、今に至ったんです」

 LOVE & Co.は保護猫の家族を直接探すだけでなく、物作りをする人や、ワークショップで講師をする人、プログラマーなど、ボランティアのメンバーを募集している。

「保護活動をする人を増やす“ロールモデル”にしたいんです。一時預かりさんと、保護場所を探す人をつなぐ、プラットフォームのサイトも作りたいと思っています」

 話を聞いている間、何匹もの猫が矢沢さんの側に来て、すりすりと甘えた。

 オフィスで一緒に過ごした猫たちが卒業する時は、寂しくないのか尋ねると、矢沢さんは首を横に振った。

「初めて猫を譲渡した時は涙がボロボロ出ましたけど、インスタなどでその後の生活を載せて下さる方が多いので、それを見ると安心します。猫たちは家族に出会って落ち着くと、どんどん顔が変わるの。その幸せそうな顔を見ることが、今の私の幸せです」

(撮影:庄辛琪)

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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