子猫を迎えたら、心やさしき兄猫がダウン 回復へ「長男を優先」

 偶然出会った子猫を引き取って1年8か月。立派に育った、その“長男”に続き、もう1匹迎えようと決めた夫婦のもとに、いたずら盛りの子猫がやってきた。優しい長男は二男をすぐに受け入れ、仲良く遊んでいた。だが、ある日突然、体調を崩してしまった。原因は意外なものだった。

(末尾に写真特集があります)

 小穴誠さんと優佳さん夫妻が、近所の遊歩道で見かけた猫「ごん太」(3歳)を家に迎えたのは2015 12月だった。それまで夫婦2人だった生活をさらに楽しくしてくれた。そんなある日、優佳さんがこう提案した。

「ごん太の妹を迎えない? 迎えるなら、保護猫がいいわよね」

 小穴さんは、「ごん太」に遊び相手ができるのはよいことだ、と同意した。そして昨夏、2人は都内の百貨店で催された保護猫の譲渡会に出かけた。その会場で、優佳さんは、薄いクリーム色の生後2か月ほどの子猫に釘づけになった。

家に迎えた頃、小さかった栗太郎
家に迎えた頃、小さかった栗太郎

「かわいい! この子にする」

 その猫は希望していたメスではなく、オスだった。

「妹でなく、弟だけどいいの?」と小穴さんが確認すると、優佳さんは「ピンときたの」と答えた。ボランティアの女の子にも「とっても人懐こい、いい子ですよ」と勧められ、家族として迎えることを決めた。

 ボランテイアが付けていた名前は「小三治」だったが、新しい名前で新生活を送ってほしいと願い「栗太郎」と名付けた。栗の和菓子のような色だったからだ。

 譲渡会で見初めてから約1か月後、栗太郎が家にやって来た。

栗太郎をおんぶするごん太
栗太郎をおんぶするごん太

最初から意気投合

 当時を優佳さんが振り返る。

「最初から2匹は仲が良かったんです。連れてきた途端に『ごん太』が喜んで、“うわぁ”と万歳するように、両前足を上げたんですよ」

 栗太郎はケージに入れていたが、翌朝、ごん太はケージの前で“早くおいでよ!”と言わんばかりに“出待ち”をしていた。ケージを開けると、すぐに2匹で遊び、ごん太は栗太郎をなめてあげた。ただ、時々甘噛みをし、そこから格闘になることもあった。甘噛みが度を越して、栗太郎の首が締まりそうなことも……。

「『噛んだらだめ!』と叱ったら、ごん太がしゅんとしてしまった。それでも相性は大丈夫そうだから、来て間もなかったけれど、2匹だけで留守番を任せて、夫婦で2030分ほど買い物に出かけたりもしました」

爪とぎの上で仲よく昼寝中
爪とぎの上で仲よく昼寝中

ごん太に起きた異変

 だが、栗太郎が家にきて2、3週間たった頃、ごん太に異変が起きた。小穴さんが実家に出かけ、優佳さんが家に1人でいたある晩、ごん太が何度も激しく吐いたのだ。さらに、いきむあまり、肛門から体液の漏出まで見られるほどだった。

「ごん太が大変!と夫に連絡をしたら、タクシーを使って病院に連れて行きなさい、と。遅い時間でしたが、先生が対応してくれました」

 獣医師は、膀胱にカテーテルを入れて尿を出し、吐き気止めを処方し、そのまま入院させた。嘔吐の症状や排尿障害がおさまり、ごん太は1週間後には退院できた。ところが家に戻ると、再び吐いたり、おしっこがうまくできない症状が出た。そこで再び病院へ。

 小穴さんが首をかしげる。

「病院ではけろっとしているのに、家では吐いて、グターッとなる。その症状とともに入院と通院を繰り返したんですが、先生も『よくわからない』と仰る。どうやら、うれしい思いと、ストレスの両方で“身体が対応できない状況”だったようです。『遠足が楽しみで待ち切れない子どもが発熱するようなものでしょう』とも言われました」

栗太郎を優しく舐めてあげるごん太
栗太郎を優しく舐めてあげるごん太

ごん太を優先し愛情を示す

 1人息子として可愛がられていたところに、やんちゃな栗太郎が登場し、フードを横から食べられたり、オモチャを横取りされたり。ごん太は怒ることもなく、兄らしく受け入れたようにも見えたが、実はこらえ切れない思いもあったのかもしれない。

「栗太郎をボランティア先にお返しするほうがいいかと相当悩みましたが、先生から、『ふたりの相性は文句なく良いはずなので、引き離す必要はないだろう……でもこれからは、ごん太と一緒に過ごすことを優先する時間も作ってあげてください』と言われました」

 そこで、先にごはんをあげたり、たくさん褒めてあげたり、ごん太を優先するようにした。すると、それから頻繁に嘔吐するようなことはなくなった。

「ごん太は繊細。私たちがもう少し気を配ればよかった。ごめんねっていう気持ちでした。猫も人と同じ、心配りが大事ですね」と優佳さんはいう。

 あれから数カ月たち、ごん太は落ち着き、二男も兄を上回る食欲ですくすく育って、体格はほとんど変わらなくなった。

「猫たちは夜、廊下でくっついて寝ています。寝る前にはごん太が栗太郎を優しくなめてあげます。そんな姿を見ているとこちらも幸せな気持ちになります」

優佳ママに抱かれる栗太郎。身体が大きくなっても甘えん坊(庄辛琪 撮影)
優佳ママに抱かれる栗太郎。身体が大きくなっても甘えん坊(庄辛琪 撮影)

 小穴さんの実家への帰省時に、ごん太と栗太郎も連れて行く。それで高齢の母にも笑顔が増えたという。猫と暮し始めてから、優佳さんにも変化が起きた。保護活動に大きな関心がわいたのだ。

「うちの子ばかりでなく、すべての動物の幸せを願わずにいられません。虐待する人はもっと厳しく罰してほしいし、動物が愛され、動物も動物好きな人たちももっと幸せになれるような社会になって欲しい。実は里親探しの自走型保護猫カフェ「ネコリパブリック(中野店)」でも仕事を始めました。毎週月曜日と木曜日(14時~17時)に猫のケアやお客様の対応をしています。どうぞいらしてください」

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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