猫は僕らを映し出す鏡 「猫が教えてくれたこと」の魅力
イスタンブールは2度訪れたことがあり、その美しさに魅了されたが、このドキュメンタリーで、東西文化が混淆(こんこう)する古都の“守護神”とされる猫の存在には不覚にも気づけずにいた。野良猫たちのチャーミングな点描のみならず、猫となると人が饒舌(じょうぜつ)になりがちな理由を解明してくれる点でも見応えのある逸品だ。
猫の言葉はわからないが意思疎通はできる、猫の振る舞いは優雅で女性らしい、猫は神の存在や人間が神の代理人であることを認識できる……等々とイスタンブールの住人らが思い思いに猫を論じ、それらは図らずも彼ら自身についての語りともなる。人は猫を介して自らの人生や哲学を言葉にし、社会問題について語る。猫は僕らを映し出す鏡であり「代理人」なのだ。
猫は隙間を見つける名人だ。塀の隙間をすり抜け、隠れ家めいた隙間で子育てをする。たとえ人目についても猫が日光浴をする場はエアポケットめいた隙間と化す。あるいは、猫は僕らに潜む野性=動物性の名残である。野良猫についつい見惚(みほ)れてしまうのは、僕らの失われた野性がその瞬間に目覚め、慈しみや郷愁に誘われるからではないか。
映画が進むにつれて都市開発が野良猫から隙間を奪う現状への嘆きが増える。だからといって、窒息しそうな都市空間の現在や僕らに残る小さな野性の消滅への危惧や批判……といった大仰で武骨な物言いでこの文章をまとめたくはない。
あくまでも女性的な優雅さで(?)、本作とそこに生息する猫たちを愛(め)でること。映画の中での誰かの主張によれば、動物を愛せない人は、人を愛することもできないのだから……。
(北小路隆志・映画評論家)
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