愛犬連れに人気の旅スポット 豪族を救った忠犬伝説が残る寺
江戸時代後期の18世紀中ごろに建てられたとみられる山門の下から法楽寺(兵庫県神河町中村)を見上げると、約250もの石段が境内へ向かって一直線に延びている。一瞬ためらったが、意を決して杉やヒノキの木々の間を上り始めた。息を切らしながら境内に着くと、左右に向かい合った白黒2匹の犬の石像が目に入った。寺は「播州犬寺」とも呼ばれている。
神河町教育委員会によると、この寺と犬にまつわる話が鎌倉時代後期の仏教史書「元亨釈書(げんこうしゃくしょ)」などで紹介されている。時代を経るなかで「2匹の黒犬」が「白黒2匹の犬」に変わるなどしているが、大筋は次のように伝えられている。
7世紀中ごろ、現在の神河町福本付近に、枚夫長者(まいぶちょうじゃ)という豪族が住んでいた。子どもはいなかったが、2匹の犬を子どものようにかわいがった。その頃、都であった戦に長者も加わり、しばらく家を留守に。その間に長者の妻と家来が結託し、やがて帰ってきた長者を山へ狩りに誘い出し、殺そうと考えた。山中で家来が長者を弓矢で襲おうとしたとき、2匹の飼い犬が家来に飛びかかり、長者は命を救われた。
感激した長者は2匹の愛犬の死後、私財を投じて寺院を建立した。「粟賀犬寺」と呼ばれ、法楽寺の前身にあたるとされる。
寺には多くの文化財が残っている。江戸中期の享保年間に建てられた本堂、17世紀中期に建立されたとされる春日社(かすがしゃ)は県指定文化財に。山門や絵馬、鐘楼などは町指定文化財になっている。町教委の竹国よしみ学芸員は「町内でも屈指の歴史がある寺の一つ」と評価する。近くの福本遺跡では奈良時代の瓦を焼く窯5基が見つかっており、竹国さんは「福本遺跡でつくられた瓦が、当時の法楽寺で使われていた可能性もある」とみている。
「山の中の清浄(しょうじょう)な空気を感じて頂けたら」と話す新弘正(あらたこうしょう)住職(53)に、山中の小高い丘まで案内してもらった。周囲の山林には人が川から運んできたとみられる石が点在している。「枚夫長者の古墳という言い伝えもあるけど、はっきりしたことは分かりません」
秋には紅葉の名所としても知られる寺には、遠方から愛犬と一緒に訪れ、首輪につける交通安全と健康長寿のお守りを求める飼い主も多いという。新住職も犬が好きで飼い続けており、今は6歳のオスのシバイヌを飼っている。静寂の中、犬の石像を見つめていると、子どもの頃に飼っていた愛犬を思い出した。
(森直由)
車で播但連絡道路の神崎南ランプで下りて、国道312号を北へ進み「粟賀」の交差点を右折。次の交差点を左折し、橋を渡ってすぐ右側に寺への入り口がある。約250段の石段を上らなくても、山の中腹にある寺の駐車場まで車で行くことができる。
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