災害救助犬、がんばるワン! 団体活動開始から20年
昨年、活動開始から20年を迎えた「NPO法人災害救助犬静岡」(静岡県菊川市)。4月に起きた熊本地震の被災地にも救助犬を派遣するなど、近年も各地で活躍している。6月には県警との間で迅速な救助活動を目指す協定を締結。その役割への期待が高まっている。
9月、倒壊家屋に見立てた小屋や複数の障害物が置かれた菊川市の訓練場。メスのシェパード、イーナが、木の箱に向かって何度もほえ続けていた。
救助犬静岡の顧問で犬の訓練士の杉山和平さん(64)がイーナの背を軽くたたきながら「よしよし、ほえるんだぞ」と声をかける。災害現場の行方不明者を想定し、臭いだけを頼りに木の箱に隠れている人を探し、ほえさせる訓練だ。
全国災害救助犬協会(富山市)によると、救助犬とは嗅覚を使って行方不明者を捜索する犬を指す。特定の捜索対象者の臭いや足跡を追う警察犬と異なり、救助犬は不特定多数の不明者の薄い臭いをかぎつけ、そこから濃い臭いを追うという。救助犬になるには各団体の審査基準に基づいた試験に合格する必要があり、救助犬静岡では現在、独自の試験に合格した犬が14頭いる。
救助犬静岡が活動を始めるきっかけは、1995年1月の阪神大震災だった。直後に海外から来日した救助犬の活動を知った杉山さん。自身も警察犬などを育ててきた経験を生かし、全国災害救助犬協会の取り組みも参考に同年3月から犬への訓練を始めた。97年には団体を設立。2000年に「災害救助犬静岡」としてNPOの認証を得た。
その後、11年の東日本大震災の被災地や、14年に広島市で起きた土石流災害の現場などでの行方不明者の捜索を通じ、現場経験を積んできた。
熊本地震の際は、本震の翌日の17日に杉山さんらメンバー7人が救助犬9頭と現地入り。18日に県警とともに行方不明者の捜索をした。メスのラブラドルレトリバーの華(10)と複数の救助犬が反応を示したため、重機で土砂やがれきを撤去。メスのラブラドル、ジュリ(7)が現場の臭いを確認すると「ほえた」(杉山さん)。すでに意識はなかったが、土砂の中から女性を見つけることができた。
県内でも南海トラフ巨大地震など大規模災害が予想されており、救助犬静岡と県警は6月、協定を結んだ。県警は災害発生時、救助犬静岡に救助犬の出動要請ができ、両者間で捜索活動の情報共有なども進めることになった。
締結の背景には、東日本大震災の教訓がある。被害の範囲が広くなると、行方不明者にたどり着くまでに時間がかかり、人命救助は難しい。県警災害対策課の佐々木康広次席は「犬の嗅覚を頼りに捜索場所を絞り込むことで救える命が増える可能性がある」と期待する。
救助犬静岡は過去の災害現場で、救助犬に対する認知度の低さや関係機関との連携不足などが原因で、被災地に入ることが難しく、効率的な捜索活動ができなかったこともあった。杉山さんは協定で活動しやすくなるとみており、「救助犬の必要性がようやく認められてうれしい」と話す。
一方で災害現場に似た訓練場所がなかなか見つからず、本番想定の訓練が難しいといった課題も残されている。「生存者をはじめとする行方不明者を少しで早く捜索できるよう、場所を探しつつ訓練に励みたい」と杉山さん。「救助犬の認知度はまだ低い。行政を含む多くの人に、救助犬への理解を深めてもらいたい」と願いを込めた。
(北川サイラ)
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