知っていますか? 多くの淘汰を伴うヌードマウスの生産現場
全身の毛がなく地肌が見えているだけで痛々しく感じられるヌードマウス。胸腺がなく免疫力が失われているがために、多くの動物実験に用いられています。腫瘍の移植などに拒絶反応を示さないので、実験には都合がよいのです。
今では遺伝子操作によって多くの免疫不全マウスがつくられていますが、ヌードマウスは、そういった遺伝子操作でつくられたものではなく、突然変異で生まれたものでした。無毛の個体に、後から胸腺がないという特徴があることがわかったのです。
感染症にも弱く、通常の環境では寿命が短いヌードマウス。実験動物としての生産販売は、いったいどのように行われているのでしょうか。実験動物生産会社であるチャールズリバーのお話をもとに、まとめてみました。
■飼育管理は徹底した汚染排除
飼育環境は、いわゆるバリア施設です。クリーンな環境をつくり病原菌を入れないことはもちろんですが、常在菌でも致死的感染を起こすヌードマウスをわざわざ繁殖してふやしているのですから、徹底した汚染排除が行われます。
徹底した衛生管理
・清掃を徹底する。特に菌が繁殖しないよう、ホコリの除去に神経を使う。備品類は、減菌できるものはできる限り全て、使用ごとに減菌。
・全飼育ケージにフィルターキャップが付いている。キャップは、体毛のないことによる体温低下も防ぐ。
・マウスを扱うときは、手で触れずにピンセットを使用(手は手袋をしていますが使わない)。
給餌給水は?
・飲み水は、フィルター除塵、紫外線殺菌が行われたものを搬入し、次亜塩素酸を入れ、再フィルター除塵後、自動給水にて与える。
・餌は、ペレットを高圧蒸気減菌して与える。
■繁殖方法
有毛で生まれた子のオスは不要なので殺処分
・同居開始は、オスメス共に8週齢。1対1の常時同居方式。
・ヌードマウスになる遺伝子は劣性遺伝であり、オスはヌードマウスを使うが、メスはヌードマウスの遺伝子は持っているが毛の生えた個体を使う。
・出産後7日目に「哺育調整」を行う。つまり、間引きである。系統ごとに1匹のメスに哺育させる子どもの数の上限が決められており、それ以上子どもが生まれた場合は淘汰する。
・繁殖をさせた場合、ヌードマウスとそうでない子(有毛の正常個体)の両方が生まれることになるが、哺育を継続する子は、成長後に繁殖用の親として使う子と、販売用にするためのヌードの子である。
・マウスの新生児は毛がないが、生まれたての子でも、ヌードであるか有毛であるか見分けることができる。
・21日目に離乳を行う。離乳した子の行き先は、ヌードのオスは繁殖用動物か販売用、メスは販売用。
・有毛の個体は、オスは使い道がなく殺処分、メスは繁殖用に使う。
・平均分娩間隔は29.5日。メスは、ほぼ1カ月に1度出産させていることになる。
・平均産子数は、6.3匹。内訳はヌードの子が3.1匹、正常3.1匹。哺育中の損失率(死亡率)は、ヌードの子で5.2%。最終的に1回の出産でヌードマウスが平均3.08匹得られていることになる。
■ヌードマウス飼育で起きる問題
ヌードの子は水が上手く飲めない!
・正常(有毛)の子を1匹入れておくことで、ヌードの子も給水ボトルの口の場所がわかるようになる。
・理由は、嗅覚が弱く、水がどこにあるかわからないせいではないか? ヌードの子だけだと、水が飲めず死ぬ。
・餌も、離乳直後は撒き餌にしているが、体がまっすぐでないと食べられない。がりがりに痩せることも散見される。
体に傷があるだけでも殺処分!
・販売用ヌードマウスは、体に傷がついたら殺処分である。
・8週を過ぎると、ヌードマウスは体に傷がつきやすい。爪で傷つけてしまう。そのため、通常、販売は7週齢までである。
・もし8週齢を超えるヌードマウスがほしいという要望が顧客からあった場合は、単独飼育で対応する。
・出荷準備時の外見異常発見率は、傷がオスで1.9%、メスで1.2%。そのほか、尾曲がり、尾切れ、耳切れ、指異常、膣未開口などで殺処分される。
通常の実験動物の生産も似たようなものではありますが、弱い免疫不全の動物をわざわざ繁殖し販売を行うということは、それだけで多くの犠牲をともないます。また、飼育環境も自然な動物のそれとは大きく乖離したものです。
動物実験を支える、こうした裏側の現実についても、広く知られるべきでしょう。
参考文献:
「免疫不全マウスの生産及び飼育管理」第63回JALAS Charles River Conference配布資料, 2016年5月18-20日
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