盲導犬連れの転落事故 「僕だったかも」 ホームの怖さ同行体験
東京都港区の東京メトロ銀座線青山一丁目駅のホームで先月15日、盲導犬を連れていた男性(55)が線路に転落し、亡くなった。盲導犬を連れた視覚障害者がどんな生活を送り、街にはどんな危険があるのか。都心の会社に勤める男性の一日に密着した。
午前7時すぎ。豊島区の金子聡さん(49)の家を訪ねると、玄関で座ってエクルス(3)の手入れをしている最中だった。20代の頃から少しずつ視野が狭くなっていき、7、8年前にほぼ見えなくなった。今は一人暮らしで、ヨーグルトの製造販売「ダノンジャパン」(目黒区)で働いている。
家を出て路地に差し掛かると、エクルスが歩みを止める。「グッド。ストレート、ゴー」。音や気配で車が来ないことを確認し、金子さんが指示を飛ばす。
東京メトロ副都心線雑司が谷駅に着いた。エレベーターに乗ろうとした時、女性が「入れますよ、そのまま真っすぐで大丈夫」と声をかけてくれた。
この駅はホームドアがある。エクルスが線路側、金子さんがホーム側を歩く。「何の心配もなく歩けます」。白杖(はくじょう)を使っていた2008年ごろ、渋谷駅でホームを歩いていたら線路に転落。盲導犬を使うことを考え始めた。
降りるのは、会社最寄りの東急東横線中目黒駅。両側に線路がある「島式ホーム」だ。東横線側にはホームドアがあるが、反対側の日比谷線側にはない。「ホームはなるべく歩きたくない。犬が人混みを縫っているうちに、どっちが線路側か、分からなくなる」。白杖でも盲導犬を使っていても、「錯覚」が一番怖いのだという。
午後6時、仕事を終えた金子さんと再び合流した。この日は、2年前に始めたパントマイムの練習の日。地下鉄を乗り継ぎ、スタジオに向かう途中、何度も交差点を横断する。盲導犬に信号の色は判断できない。「今、赤ですね」。車の音に耳を澄ませ、信号の色を探る。黄で突っ込む車がいると混乱する。
横から男性がすっと赤信号を渡った。「今みたいな人にたまにつられてしまうんです。信号機には音響装置をつけてほしい」
仲間とパントマイムの練習をして、帰路に。銀座線田原町駅に向かった。死亡事故があった路線だ。金子さんは改札を抜けてすぐに立ち止まった。「銀座線はほとんどの駅でホームドアがないし、視覚障害者には本当に危ない。今回の事故は僕だったかもしれない」
事故を受け、「鉄道駅危険度マップを作る会(仮称)」を立ち上げた。ホーム幅や乗り換え難易度などを一覧にし、採点したものを共有できないか、構想を練っている。「国も鉄道会社もホームドアを造ることは進めていて時間の問題。それまでの間、自衛のためにできることから始めたい」。公開すれば、ベビーカーを押す人やお年寄りにも有意義だと考えている。
(根津弥)
■視覚障害者の「ありがとう」「困ります」
<ありがとう>
・気軽に「お手伝いしましょうか」「どうやったらいいですか」と意向を聞く
・横断歩道や駅のホーム、車内では特に声をかける。「赤ですよ」「青になりました」「席が空いてます」と声をかけるだけでも安心
・案内するときは、ひじか肩を軽くつかんでもらう。案内が終わったら現在地や状況を伝えて別れる
・危険が迫っていたら、「危ない」だけではなく、「盲導犬の人、止まって下さい」「白杖の人、右です」などと具体的に呼びかける
・バスや電車の列が進んだら、「前に進めますよ」などと教える
<困ります>
・盲導犬に声をかけたり触ったり写真を撮ったりしない。犬の注意がそらされてしまう
・無言で突然身体や白杖に触られるとびっくりする
・混雑している場所でぶつかられると、方向感覚を失ってしまう
・歩きスマホ、立ちスマホはぶつかって、お互いに危険
・慣れている場所では助けが必要ないことも。介助の必要性や方法は、相手の意向を大切に
(日本盲導犬協会などへの取材による)
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