一目ぼれのスコティッシュは、先天性疾患だった! 人気猫種の闇
猫種によって、かかりやすい病気や生まれ持った体質がある。ペットショップに残っていた「人気種の猫」を家族に迎えた後、その子の病気に気付いたら--飼い主は何を思い、どんな行動を取れるのか。爆発的な猫ブームの影にある、ある男性と家族と猫との、切ない物語をお届けする。
(末尾にフォトギャラリーがあります)
「あっ、可愛い子だなって……一目ぼれでした」
スコティッシュフォールドの冬子(雌・1歳10カ月)との出会いを、東京都内で母と2人暮らしの清志さん(47)が振り返る。1年7カ月ほど前の2014年11月13日、大手ペットショップで「見初めた」。
「入り口すぐのケージに、きょとんとした表情で入っていました。目が丸くて、青味がかったグレーと白の毛がすごくきれいで」
ケージには「ブルータビー&ホワイト(生後3カ月)、12万9600円」と掲げられていた。店員の女性に声をかけられた。
「お嫁入りが決まらず、少しお安くなっています。抱いてみますか?」
それで抱っこしたのが、運のツキだった。「目と目が合ったら、もう手放せない感じで」
スコティッシュフォールドはイギリス原産の猫で、垂れ耳が特徴だ。アニコム損害保険の人気品種ランキングでも8年連続1位と、大人気の猫種だ。ちなみに2位はアメリカン・ショートヘアで、3位がマンチカンだった(2016年2月発表)。
清志さんがこの店に来たのは、4年前にここから迎えたアメリカン・ショートヘアのルビー(4歳、雌)用のフードを買うためだった。他の子に心が揺れてしまうとは、思いもよらなかった。
「衝動買いはよくないけれど、猫の誕生日を見てあれ?と思った。店に行く1週間前に亡くなった、同居していた父と同じ、8月14日生まれ。これは運命だな、特別な猫だなって」
母と2人きりになった家は寂しく感じたし、ルビーの遊び相手も欲しいと思っていた。
うちの子にします!
清志さんが決めると、女性店員は「猫ちゃんよかったね」と言い、すぐに準備を始めた。販売契約書、健康診断証明書、健康カルテ(健康手帳)、マイクロチップ登録証、一度目のワクチンの証明書……たくさんの資料が清志さんの前に用意された。
「この子、少しひざの関節がゆるいですが、生活には支障がない程度です」
店員はそう言うと、販売契約書の備考欄の特記事項に「左右ひざゆるみ ご説明済み」と記した。ルビーも購入時にひざが少し悪いといわれていたが、成長とともに治ったので特に気にしなかった。店員は、さらに契約書の生体(成熟時)の大きさの目安欄に、体重4~8㎏、平均寿命10年~15年と書き込んだ。10年は短いのでは?と清志さんは思ったが、平均だからな、と気にしなかった。
「健康手帳には毎日の健康状態がチェックされていました。鼻水とせきに対する処置(風邪薬)が2回施されていて、あとは手書きで『削痩』と書いてありました」
たしかに少し体が細く痩せていたが、見かけは健康そうだ。「見ての通り、元気ですよ」と店員もほほ笑んだ。
生体の契約と同時に「安心ケアパック」への加入が課された。引き渡しから1年以内に病気や事故やけがで死亡した場合、獣医師による診断書を提出すると、代わりの犬猫が提供される、といった内容の保証だ。この料金と契約金(生体の価格)、またずっと店で食べていたというベビー用プレミアムフードや、すでに打ってあるワクチン費用などを合わせて、支払総額は16万2051円になった。会社員の清志さんはそれを翌1月にボーナスで払うことにした。迷ったのは健康保険への加入だった。
「結構な支払額になったし、その日に加入しなくてもいいかと思ってしまって。それも運のツキですね。店員さんにはその月のうちに、2度目のワクチンを打つようにいわれました」
幼猫はワクチンを2度打つことで、免疫がより確実になるとされている。
すべての手続きを終え、スコの子猫はタクシーで清志さんのマンションに向かった。その車中、清志さんは名前を決めた。
「胸元の毛が雪のように白い。季節もこれから冬だし、冬子にしようと。『冬子のブルース』という増井山太志郎の曲をラジオで聞いて気に入っていたんです(笑い)。遠くにいる女性を思う歌ですが、冬子、冬子~ってフレーズが耳から離れなくてね」
昭和歌謡が大好きな清志さんならではの命名だった。
冬子を見るや否や、清志さんの母親は「まあちびちゃんね」と気に入った。先住猫のルビーは最初こそ警戒したが、もともと穏やかな性質。冬子もおとなしいので、1日2日でお互いに慣れたようだった。こうして冬子は、家族になった。
その月末、清志さんはペットショップの店員に言われた通り、動物病院にワクチンを受けさせに行った。ルビーも診てもらっている、近所のかかりつけ獣医師だ。先生は検診しながら、にこやかに言った。
「もう可愛くって、思わず買っちゃったんですね?」
だが、聴診器を冬子の胸元に当てた先生の手がふと止まり、顔が曇った。「なんですか?」清志さんの笑顔も凍りつく。
「うーーん、心雑音が聞こえる。気になるので調べてみますか」
循環器を得意とする先生だったため、急きょ、超音波検査をすることになった。冬子の体に装置を当てると、……
「心臓の血液が逆流している。心臓弁膜症の可能性がありますね、先天性の」
心臓弁膜症は、心臓の弁に欠陥があり、血液を送り出す能力が落ちる病気だ。
「えーー、どうなるんですか? 治らないんですか?」
「まだ小さいのでなんとも。今後まめに、検査をしていきましょう」
検査費は1万6800円。清志さんは支払うと、ため息をついた。
なんでだよ、生活は始まったばかりなのに。ペットショップにも報告をしよう。でも店側は本当に知らなかったのだろうか?--いろいろな思いが巡る。
冬子よぉ。
1キロ台の小さな体を抱いて、清志さんは家路を急いだ。(②につづく)
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