スコ猫が先天性疾患、保険金が出ない? 店と病院は「ぐる?」

お気に入りの場所でくつろぐ冬子。いつもの椅子の上
お気に入りの場所でくつろぐ冬子。いつもの椅子の上

 ペットショップで売られていた人気種の猫スコテッシュフォールド。耳折れの愛くるしい姿に一目ぼれして家族に迎えた後に、病気が分かった。治るかどうかは分からず、不安な上、飼い主の男性は、ペット保険に未加入だった。猫の命は? 治療費は? この先、どうなるのか。

(末尾にフォトギャラリーがあります)

「もしもし? この前そちらで子猫を購入したんですけど、もともと病気があったみたいなんですよ」

 清志さんは、冬子を求めたペットショップに電話をかけた。動物病院で心臓に問題があると告げられた翌朝のことだ。ふだんは穏やかな清志さんの口調が、ついきつくなる。

「近くの動物病院にワクチンを打ちに行ったんですが、先生が聴診器を当てて『心雑音が聞こえる』というので超音波検査をしました。そうしたら血液が逆流していた……ひょっとして、知っていて売ったんですか」

 ペットショップでもらった「健康診断証明書」(店の系列の動物病院による証明書)には、平成26年9月30日に「専属獣医師が視診、触診、聴診による健康診断を一頭一頭実施、定期駆虫、マイクロチップを装着した」と記されていた。そして、母子手帳のような「健康手帳」には、10月1日から11月13日(販売日)までの健康の記録がつけられていた。系列病院で売ってよしというお墨付きをもらい、直後に店頭に出した、と読み取れる。

 店頭に出ている間の記録には、10月2日に「鼻水(風邪薬を10月9日まで投与)」、10月18日に「咳(風邪薬を10月26日投与)」とあった。特記事項には、触診で膝蓋骨(しつがいこつ)の左右のゆるさが「有」、痩せていることを示す「削痩」と書かれていた。だが、心臓のことは何も書かれておらず、購入時にも聞かされていなかった。「人懐こい、いい子ですよ」と、それまで世話をしていた女性店員に言われただけだ。

「今後のこともあるので、いろいろと相談したいんですよ。例えば保険のこととか」

 清志さんが電話口で畳みかけるように言うと、男性店員は口ごもった。

「今、担当者がいないんで……あとでこちらからお電話します」

 いったん電話が切れて、夕方、清志さんの携帯が鳴った。電話の主は朝に話した店員だった。

「こちらの病院の9月時の検査では、心疾患は見当たらなかったようです」

「でも買って1週間しか経ってないんです。病気の猫を売ったことになりますね」

「それはまあ、そういうことになるのかもしれません。でも交換は、できません」

 あたりまえだ、物じゃないぞ。冬子自身を気にいって家族に迎えたのだ。清志さんは泣きそうになりながら続けた。

「購入当日、保険には入らなかったんですが、今からでも入れますか」

 今後検査などが続くなら、少しでも医療費の負担を軽くしたかった。

「入ることはできますが、病気の補償など詳細は各保険会社が決めていることで……基本的には、保険に入った後で分かった病気にしか、保険金は支払われないと思います」

 時すでに遅しか。そう思いながら、清志さんは数社の保険会社のパンフレットを取り寄せた。でも仕事が忙しく約款を読み込む時間がない。とりあえず買った店に行き、購入時に勧められた保険に入ろう。それが手っ取り早い。次の日曜にペットショップに行くと、冬子のいたケージには、すでに新しいスコが入っていた。

「あらどうかされました? 猫ちゃんお元気ですか?」

 女性店員が清志さんに気付いて、明るく声をかけてきた。冬子の世話と購入時の担当をしていた店員だ。男性店員に電話で話した心臓病の件は聞いていないようだ。いや、店のスタッフは知らないのかもしれない。店員も、知らない(聞かされない)まま、世話をしていたのかもしれない。

お気に入りの場所で、お座りポーズの冬子
お気に入りの場所で、お座りポーズの冬子

 店先でもめるのも嫌で、心臓病のことには触れず、清志さんは言った。

「保険に加入することにしました」

 清志さんが店で契約したのは少額短期保険。店員から説明を受け、月払い2520円のプランに加入した。保険金支払い限度額は、1カ月目で20万円(=補償割合100%)、2~12カ月目に80万円(=補償割合80%)となるものだ。その場では読みきれないほど大量の重要事項説明書をちらりと見ると、「先天性疾患等補償特約付」とあった。特別な措置をとってもらえるのか、と一瞬期待した。

 帰宅して、冬子の昼寝姿を横目で見ながら保険会社に連絡をすると、その期待はすぐさま打ち破られた。こう言われたのだ。

「お客様が購入したペットショップと契約している動物病院の専属獣医師が、心臓病と認めていなければ適用されません」

 ぐるなのか?

「心雑音を見落としていたかも知れないじゃないですか」

「しかしそういう決まりですので。そもそも心臓疾患がわかった後の加入では当社の補償はできません」

「膝蓋骨脱臼のレベルが1なんですが、それは適用されるんですか?」

「はい。今後かかる風邪などにも保険がおります。パンフをよく読んでみてください」

 清志さんはため息をついた。他の保険会社はどうだろう。先天性疾患が考慮されるかもしれないと思い、取り寄せていたパンフをよく見てみた。「保険期間中に獣医師の診断により『初めて』発見された先天性異常に限り補償」、「治療に関して1万まで補償(けがのみ)」……いずれも、今から入ったとしても、清志さんと冬子の状態では保険金は下りない。

 心臓に関しての治療費は実費すべてを負担しなくてはならない、ということだ。不安が募った。幸い、近所にいるかかりつけの獣医師は循環器に詳しい。彼がいたからこそ病気が分かって、病状に気をつけられる。その先生は海外にまでチームで心臓疾患のオペに出向くと言っていた。その腕前こそがお守り、保険だ、と清志さんは自分に言い聞かせるようにした。

ペット保険の契約内容。「保険期間の開始前に発生した先天性・遺伝性の傷害・疾患については、保険金をお支払いできません」とある
ペット保険の契約内容。「保険期間の開始前に発生した先天性・遺伝性の傷害・疾患については、保険金をお支払いできません」とある

 清志さんはその後、月に1度ほどの割合でかかりつけの動物病院に通った。冬子の爪切りをして聴診器を当ててもらい、経過観察を続けた。

 先住猫のルビーと冬子が追いかけっこをしていると、ああ心臓は大丈夫かな、とハラハラする。だが、2匹が一緒にいる姿を見るだけで気持ちが和んだ。ルビーのためにも新たな家族を迎えて良かった、と。

 翌15年の3月、2度目の超音波検査を受けた。家に来てからの4カ月で、冬子の体重は800グラムほど増えて、2・44キロになっていた。体が大きくなるとともに内臓が育ってきたこともあり、心臓の状態は少し良くなっているようだった。

 ちょうどその頃、清志さんは職場の同僚に冬子の写真を見せていて、「可愛い顔のスコね。この子の子ども欲しいな、産めないの?」と聞かれていた。心臓が悪いとどうなのか。

「あの、冬子って子ども産めたりしませんよね?」

 検査のとき、念のため獣医師に尋ねた。「難しいでしょう」と、即答された。

 繁殖なんて無理でもいい。とにかくこのまま健やかに育つことを祈るだけだ……だがそれから3カ月経もしないうち、清志さんを次の試練が襲うことになる。冬子に異変が起きたのだ。

ルビーに毛繕いされる冬子(左)
ルビーに毛繕いされる冬子(左)

 それまでほとんど鳴かなかった冬子が、「ルル~ルル~」とのどの奥にこもるような声で繰り返し鳴き始めた。ごろごろ寝転がったかと思えばお尻を舐め、普段より臭いのきつい尿をトイレ以外の場所でし始めた。初めての発情期を迎えていた。

「様子が変だと思ってはいたんですが……。体も小さいし、ピンとこなかったんです」

 子どもも諦めていたし、避妊手術そのものは受けさせるつもりだった。だが手術には全身麻酔が必要だ。心臓に爆弾を抱える猫は、全身麻酔に耐えられるのだろうか。とはいえ、発情のストレスも体に負担になっているはずだ。つらそうにルル~と鳴いている冬子に、ルビーが心配そうな面持ちで近づき、体を舐めてやっていた。

「しばらくして一度落ち着いたんですが。だんだん食欲不振になってしまって……」

 冬子ぉ、大丈夫かよ。

 この子は麻酔に耐えられるのだろうか? (③に続く)

【関連記事】

・①一目ぼれしたスコティッシュは、先天性疾患だった! 人気猫種の闇

・③スコ猫は先天性疾患だった 避妊手術に冬子は耐えられるか?

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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