スコ猫は先天性疾患だった 避妊手術に冬子は耐えられるか?

超音波の検査をした後の冬子。かかりつけの動物病院の診察台の上で、獣医師と=2016年7月
超音波の検査をした後の冬子。かかりつけの動物病院の診察台の上で、獣医師と=2016年7月

 ペットショップで売られていた人気猫のスコテッシュフォールド。耳が折れた愛くるしい姿に一目ぼれして家族に迎えた後、病気だったと分かった。治るのか心配しているうちに発情期を迎えて……飼い主の決断は? その後の猫の様子は?

 

(末尾にフォトギャラリーがあります)


 ルル~ルル~


 冬子がのどの奥を震わせるようにして鳴いている。ごろごろと床に転がって体をよじるようにして、また、ルル~ルルと、ちょっとつらそうな感じで。


「なんだか様子が変だな」


 飼い主の清志さんが首をひねった。2015年6月、冬子が家に来て半年。生まれて9カ月ほど経っていたので、発情の兆候が現れていても不思議ではなかった。


 可愛いから子どもが欲しい気持ちもあった。でも3月に2度めの超音波検査をしたとき、獣医師からは「体が弱いし繁殖は難しい」と言われ、諦めていた。ならば早く避妊手術をしたほうがいいのか。ペットの飼育本にも、メスの場合は避妊手術をすることで乳がんや子宮・卵巣の腫瘍(しゅよう)の病気を予防できると書いてある。


「冬子、もうオトナになったのかな」


 清志さんが同居する母親に聞くと、え~まさか、と笑われた。


「こんなチビちゃんなのに、それはないでしょ」


 母親がそう思うのも無理はない。冬子の体重は2.5キロ前後のまま。清志さん宅でこれまで飼ってきたどの猫よりも小柄で、外見はいつまでも子猫のようだった。少し様子を見ることにしたが、夜鳴きはだんだんひどくなった。


 最初の兆候から1カ月後の7月中旬、かかりつけの動物病院に相談に行った。獣医師はうーん、とうなった。


「性衝動によるストレスで食欲不振になっているとは思うのですが、このままやせると心配です」


 体重は2.32キロ。体力をつけるため、少量でも栄養の取れるフードを与えるよう指示された。避妊手術は発情期を過ぎた7月下旬の土曜に決まった。朝、冬子を病院に預け、清志さんが仕事が忙しい間に手術をしてもらう予定だった。


 ところが当日、会社に着くや否や、携帯が鳴った。動物病院からだった。


「何かあったんですか?」


「いえ、手術はこれからです。心臓のほうは大丈夫ですが、事前の血液検査で肝臓の数値が少し高かったので確認です。承諾を得ないと手術ができないので。どうされますか」


 どうするって聞かれても。このままだとストレスで食べられない。ストレスそのものも体に負担だろう。大声で鳴き続ける姿を、見ている清志さん自身もつらかった。


「お願いします」


 祈るような思いでそう言った。きっとがんばれる。


 居住する区から避妊手術の助成金が出たが、血液検査などを含めて費用は3万2千円ほどかかった。

 

避妊手術後、1泊してから帰宅した冬子。腹帯をしている。清志さんのシャツの上でくつろいだ=2016年7月
避妊手術後、1泊してから帰宅した冬子。腹帯をしている。清志さんのシャツの上でくつろいだ=2016年7月

 幸い、冬子は無事に手術を終え、麻酔から覚めた。病院に一泊して、家に戻ってきた。小さい体にぐるぐると腹帯をした冬子は、清志さんが脱いだシャツの上で甘えるようにくつろいだ。


 1週間後に抜糸をした頃には、食欲も戻ってきた。


「心臓のほうは、また年内に調べましょう」


 獣医師にそう言われ、清志さんは了解した。


 手術後、冬子はよく食べるようになった。早くも9月には体重が3キロを突破。ルビーとの体格差が縮まってきた。骨格がしっかりしてきたようだった。


 そのため、清志さんは心臓の超音波検査を受けさせないまま、3カ月、6カ月……と間を置いてしまった。


「保険が利かないから、ではなかったんですが。容体が落ち着いていたので、つい安心して……」


 1年ほど過ぎた今年6月末頃になって、また冬子の食欲が落ち始めた。どことなく元気もない。病院に電話をすると、連れて来てください、と言われた。


 仕事の合間を縫って、7月16日に清志さんは冬子を動物病院に連れて行った。筆者も同行した。


「すいぶん、大きくなりましたねえ」


 冬子を見るなり、獣医師は驚いたように言った。聴診器を胸のあたりに当てた。


「心雑音は、あります。超音波も調べましょう」


 モニターを見ながら、先生が清志さんに説明する。

 

写真①冬子の心臓の超音波画像=2016年7月
写真①冬子の心臓の超音波画像=2016年7月

 枠の部分が左心房、その枠の左端が僧坊弁だ。(写真①参照)


「冬子ちゃん、前よりはよくなってきています」


 その声に、清志さんの顔がぱっと明るくなる。先生が続けて説明する。


「成長とともに心臓が大きくなり、もともと細かった大動脈の入り口のあたりが開いてきたので、(僧坊弁部分の)逆流がほとんど今はなくなっている。逆流があっても心配はないレベルです。比べてみましょう」

 

写真②逆流のため血流は乱流していた
写真②逆流のため血流は乱流していた

 そう言うと、先生は以前の画像を見せた。(写真②参照)


「2014年11月。左心房には逆流のためカラフルな色に映る乱流がみられました」


 続いて、2015年の3月の写真。(写真③参照)


「僧坊弁の逆流が減って、左心房の乱流も軽減しています」

 

写真③逆流が減って、血流が安定したことを示す超音波画像
写真③逆流が減って、血流が安定したことを示す超音波画像

 画像を見た清志さんが聞いた。


「じゃあ、このまま治るってことですか?」


「よい方向に行っています」と先生。今回の食欲不振は「急激な暑さのせいだろう」との見立てだった。ただし、「念のため、今後も検査は続けましょう」と、釘を刺された。


 この病院には他にも、ペットショップで購入し、心臓が悪くて通院している純血種の猫がいるそうだ。その猫は生まれつき心房中隔がないのだという。


「冬子ちゃんの場合は雑音があって検査に至りましたが、その猫は最初、心雑音の症状がなかったんです。心臓病は(見つけるのが)難しいケースもあります。子猫の体が大きくならなかったり、口を開けて呼吸するようだったりしたら、超音波で検査をするといいと思いますよ」

 

体重も3キロ台で安定した冬子=2016年5月
体重も3キロ台で安定した冬子=2016年5月
冬子の体重は避妊手術後にようやく増えた
冬子の体重は避妊手術後にようやく増えた

 命に関わる深刻な事態を乗り越えたことに清志さんはほっとした。「心臓が落ち着いてよかったです」。でも今また、新たな悩みがあると打ち明ける。今度はどんな?


「大きくなるにつれてそっけなくって……。猫はツンデレというけど、このコはツンツンするばかりで、デレーがないんです」


 冬子ぉ、もっと振り向いてくれよお。


 清志さんと冬子の物語は、まだ始まったばかり。


 8月14日、冬子は無事に2歳の誕生日を迎える。甘い生活が、より永く続くことを祈りたい。


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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は16歳の黒猫イヌオと、2歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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