スコ猫は先天性疾患だった 避妊手術に冬子は耐えられるか?
ペットショップで売られていた人気猫のスコテッシュフォールド。耳が折れた愛くるしい姿に一目ぼれして家族に迎えた後、病気だったと分かった。治るのか心配しているうちに発情期を迎えて……飼い主の決断は? その後の猫の様子は?
(末尾にフォトギャラリーがあります)
ルル~ルル~
冬子がのどの奥を震わせるようにして鳴いている。ごろごろと床に転がって体をよじるようにして、また、ルル~ルルと、ちょっとつらそうな感じで。
「なんだか様子が変だな」
飼い主の清志さんが首をひねった。2015年6月、冬子が家に来て半年。生まれて9カ月ほど経っていたので、発情の兆候が現れていても不思議ではなかった。
可愛いから子どもが欲しい気持ちもあった。でも3月に2度めの超音波検査をしたとき、獣医師からは「体が弱いし繁殖は難しい」と言われ、諦めていた。ならば早く避妊手術をしたほうがいいのか。ペットの飼育本にも、メスの場合は避妊手術をすることで乳がんや子宮・卵巣の腫瘍(しゅよう)の病気を予防できると書いてある。
「冬子、もうオトナになったのかな」
清志さんが同居する母親に聞くと、え~まさか、と笑われた。
「こんなチビちゃんなのに、それはないでしょ」
母親がそう思うのも無理はない。冬子の体重は2.5キロ前後のまま。清志さん宅でこれまで飼ってきたどの猫よりも小柄で、外見はいつまでも子猫のようだった。少し様子を見ることにしたが、夜鳴きはだんだんひどくなった。
最初の兆候から1カ月後の7月中旬、かかりつけの動物病院に相談に行った。獣医師はうーん、とうなった。
「性衝動によるストレスで食欲不振になっているとは思うのですが、このままやせると心配です」
体重は2.32キロ。体力をつけるため、少量でも栄養の取れるフードを与えるよう指示された。避妊手術は発情期を過ぎた7月下旬の土曜に決まった。朝、冬子を病院に預け、清志さんが仕事が忙しい間に手術をしてもらう予定だった。
ところが当日、会社に着くや否や、携帯が鳴った。動物病院からだった。
「何かあったんですか?」
「いえ、手術はこれからです。心臓のほうは大丈夫ですが、事前の血液検査で肝臓の数値が少し高かったので確認です。承諾を得ないと手術ができないので。どうされますか」
どうするって聞かれても。このままだとストレスで食べられない。ストレスそのものも体に負担だろう。大声で鳴き続ける姿を、見ている清志さん自身もつらかった。
「お願いします」
祈るような思いでそう言った。きっとがんばれる。
居住する区から避妊手術の助成金が出たが、血液検査などを含めて費用は3万2千円ほどかかった。
幸い、冬子は無事に手術を終え、麻酔から覚めた。病院に一泊して、家に戻ってきた。小さい体にぐるぐると腹帯をした冬子は、清志さんが脱いだシャツの上で甘えるようにくつろいだ。
1週間後に抜糸をした頃には、食欲も戻ってきた。
「心臓のほうは、また年内に調べましょう」
獣医師にそう言われ、清志さんは了解した。
手術後、冬子はよく食べるようになった。早くも9月には体重が3キロを突破。ルビーとの体格差が縮まってきた。骨格がしっかりしてきたようだった。
そのため、清志さんは心臓の超音波検査を受けさせないまま、3カ月、6カ月……と間を置いてしまった。
「保険が利かないから、ではなかったんですが。容体が落ち着いていたので、つい安心して……」
1年ほど過ぎた今年6月末頃になって、また冬子の食欲が落ち始めた。どことなく元気もない。病院に電話をすると、連れて来てください、と言われた。
仕事の合間を縫って、7月16日に清志さんは冬子を動物病院に連れて行った。筆者も同行した。
「すいぶん、大きくなりましたねえ」
冬子を見るなり、獣医師は驚いたように言った。聴診器を胸のあたりに当てた。
「心雑音は、あります。超音波も調べましょう」
モニターを見ながら、先生が清志さんに説明する。
枠の部分が左心房、その枠の左端が僧坊弁だ。(写真①参照)
「冬子ちゃん、前よりはよくなってきています」
その声に、清志さんの顔がぱっと明るくなる。先生が続けて説明する。
「成長とともに心臓が大きくなり、もともと細かった大動脈の入り口のあたりが開いてきたので、(僧坊弁部分の)逆流がほとんど今はなくなっている。逆流があっても心配はないレベルです。比べてみましょう」
そう言うと、先生は以前の画像を見せた。(写真②参照)
「2014年11月。左心房には逆流のためカラフルな色に映る乱流がみられました」
続いて、2015年の3月の写真。(写真③参照)
「僧坊弁の逆流が減って、左心房の乱流も軽減しています」
画像を見た清志さんが聞いた。
「じゃあ、このまま治るってことですか?」
「よい方向に行っています」と先生。今回の食欲不振は「急激な暑さのせいだろう」との見立てだった。ただし、「念のため、今後も検査は続けましょう」と、釘を刺された。
この病院には他にも、ペットショップで購入し、心臓が悪くて通院している純血種の猫がいるそうだ。その猫は生まれつき心房中隔がないのだという。
「冬子ちゃんの場合は雑音があって検査に至りましたが、その猫は最初、心雑音の症状がなかったんです。心臓病は(見つけるのが)難しいケースもあります。子猫の体が大きくならなかったり、口を開けて呼吸するようだったりしたら、超音波で検査をするといいと思いますよ」
命に関わる深刻な事態を乗り越えたことに清志さんはほっとした。「心臓が落ち着いてよかったです」。でも今また、新たな悩みがあると打ち明ける。今度はどんな?
「大きくなるにつれてそっけなくって……。猫はツンデレというけど、このコはツンツンするばかりで、デレーがないんです」
冬子ぉ、もっと振り向いてくれよお。
清志さんと冬子の物語は、まだ始まったばかり。
8月14日、冬子は無事に2歳の誕生日を迎える。甘い生活が、より永く続くことを祈りたい。
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