猫ブームなぜ? 「冷笑的な『猫から目線』は現代的」
猫人気が高まっている。ペットとして飼う人が増え、創作の世界でもキャラクターに使われる。猫キャラだらけの現代だからこそ、1905年に生まれた「吾輩は猫である」の語り手の猫に共感できるのかもしれない。
飼い猫は犬よりも増えている。一般社団法人ペットフード協会(東京都)によると、昨年の推計飼育数は犬が991万7千匹、猫が987万4千匹。犬が200万匹多かった5年前から逆転しそうな勢いがある。
「猫が魅力的なのはミステリアスな行動を楽しめるところ。ハンターとしての野性を維持したまま、ペットとして家にいる。野性モードに入ると、次々と謎めいた行動を引き起こす」
そう話すのは『ねこはすごい』(朝日新書)で猫の身体能力から魅力を説いた北九州市立自然史・歴史博物館の山根明弘学芸員だ。
文学の世界でも古くから猫は身近だった。「源氏物語」では部屋中を引っかき回した結果、女三宮と柏木の密通の端緒を作り出し、「枕草子」には天皇の愛猫として位をもらった猫が出てくる。文献に描かれた猫の姿を追った著書『猫の古典文学誌』(講談社学術文庫)がある甲南大の田中貴子教授は「犬と違い、猫は自由の象徴だった」と話す。
「吾輩」と同様、勝手に家に出入りして、えさだけもらっていく。だが最近はペット化が進み、より人間との距離は近づいた。「ペット化されることで人が猫を観察するようになる。謎めいた行動をつい人と話したくなり、会話が促進され、猫好きが増えていく」
人の言葉を操る「吾輩」のような擬人化も進む一方だ。定番のドラえもんや「ゲゲゲの鬼太郎」の猫娘、最近でも「妖怪ウォッチ」のジバニャン、彦根市のゆるキャラ「ひこにゃん」ら、新キャラが次々と登場している。
なぜ猫キャラは増え続けるのか。精神科医の斎藤環さんは「猫は記号化になじみやすい。猫耳、猫目、肉球など、パーツだけでも判別できる」と説く。犬は犬耳、犬目とは言われない。犬種によって形状の幅が広く、一概に記号化できないのだ。「パーツだけで猫と認識される強みがあるので、他の要素とも融合させやすく、様々なキャラクターにしやすい」
さらに犬との違いは、猫世界を失わないまま人間世界に入り込んでいること。「吾輩」は、超越的に世間を批評する存在として描かれる。先生のひざで丸くなりながら人間の話を聞いていたと思ったら、外に出て猫同士の情報網からいろんなゴシップを集めてくる。「もし『吾輩』が犬だったら、人間世界の批評ではなく、もっと人間に寄りそう物語になるでしょうね」
「吾輩」の一段上から世を眺める批評性は、現代人にも通じるところがある。「ネット住民も、斜に構えて冷笑的な視線を持っている。共感するところもあるのではないでしょうか」
(高津祐典、野波健祐)
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