ペット保険はお得? 動物病院は全額自己負担
動物医療の発展とともに、これまで治療が難しいとされていた病気が治せるようになってきました。ただし、飼い主にとっては、治療レベルとともに医療費も上がっていることが心配の種です。動物病院で、請求額が想像以上に高かったという経験のある人も少なくないでしょう。「ペット保険」は、医療費の一部、あるいは全額を負担するものです。
(ライター 福田優美)
1匹の犬が、健康で充実した一生をおくるためには、どのくらいの費用がかかるのか? シーンごとに犬の飼育にかかわる費用について解説するこのシリーズ、第9回は「ペット保険」です。保険は、加入して月々の支払いをする代わりに、万が一の時には負担が軽くなります。愛犬の医療保険は入った方がお得かどうか。保険料や加入条件、支払い方法などについて、数社を比較してみます。
人間と違い、動物には公的な健康保険制度がありません。人間の場合は、医者にかかると、自己負担は原則3割(75歳以上なら原則1割)、高度医療の手術を受けても高額医療費制度で一定額に抑えられます。ですが、動物病院ではすべてが自由診療で、全額自己負担になります。
価格は病院ごとに異なり、一度の通院でも診察料は1千円~3千円と幅があります。検査をしてもらったり薬を出してもらったりすれば1万円ほどかかります。これが長期間の通院や手術、高度医療ともなると、数十万円から100万円以上の高額にもなる恐れがあります。このため作られたのが、動物が病気やけがをした場合、医療費の一部または全額を保険会社が補償する、掛け捨ての「ペット保険」です。補償額は50%が一般的ですが、契約内容によっては90%や100%まで補償されます。
ペット保険最大手の「アニコム」が契約者にアンケートした調査では、1年間で犬にかかる総費用は平均35万9151円。うち、病気やけがの治療費は8万912円、ワクチンなど予防費は2万8311円でした(2014年)。保険に入っている(同じ調査での保険料支出は平均3万8052円)人ですら、治療費にこれだけ要したのです。
日本のペット保険の歴史は共済から始まりました。2008年の保険法改正時に無許可共済が禁じられると、損害保険会社と少額短期保険会社だけがペット保険を取り扱えるようになりました。現在では、保険会社4社と少額短期保険会社10社がこれを販売しています。
日本で飼育されている犬猫は、日本ペットフード協会によると推定約2千万匹。そのうちペット保険に加入しているのは「約5%です」と、アニコム常務取締役執行役員の平井聡さん。同社の契約者は約60万人に上ります。
業界2位の「アイペット損保」広報の涌井沙織さんも、「2年前まで加入率は2~3%だと言われていました。ここ数年で加入者の数は増えています」と言います。同社の契約者は22万人。業界1、2位の両者合計で、ペット保険市場の8割を占めます(犬猫合計)。アニコムの平井さんによると、「ペット保険先進国であるイギリスの加入率約25%を考えると、日本でも今後さらに増えると予想されます」とのことです。
両者では、契約者の6~8割はペットショップで購入する際に加入するそうです。一方、ペットショップで加入を見送ったり、譲渡などペットショップ以外のルートで犬を迎えたりした人は、インターネット販売の少額短期保険会社を申し込む場合が多いようです。
少額短期保険の一つ「ペットメディカルサポート」の経営企画室次長の松井浩次さんによると、同社の強みは保険料の安さです。「インターネット販売のため安く設定できている」といいます。
では、実際に保険に加入していれば、どれくらいの金額が補償されるのでしょう。ここではアイペットで過去にあった実際の保険金請求例でみてみましょう。
1歳のミニチュア・ダックスフントが、椎間板(ついかんばん)ヘルニアの手術を受けた事案です。入院5日と手術1回で診察費が合計27万9千円になりました。契約者は、かかった医療費の70%分の金額を補償する「70%補償プラン」に加入していたため、19万5300円がアイペットによる保険でカバーされ、自己負担は残りの8万3700円で済みました。それまで支払っていた保険料は月々2850円(70%補償プラン、1歳のミニチュア・ダックスフントの場合)でしたから、かなり得をした計算になります。手術という事態は、愛犬にも飼い主にも精神的には大打撃だったでしょうが、保険に入っていたおかげで、経済的な打撃は3分の1以下で済んだわけです。
アイペットの涌井さんによれば、契約者からは、「以前飼っていた犬は骨肉腫で闘病し、亡くなるまで100万円を超える医療費がかかったので、新しい犬は迎える時に保険に加入した」「保険に加入していたから、高額の手術に踏み切ることができた」といった声が届くそうです。
飼い犬が何歳の時に保険に加入するのかは、各社とも0歳時が最も多く、順に1歳、2歳と下がっていきます。若い間は体が不安定で、病院に世話になる機会が多く、保険の必要性を痛感するからでしょう。若くて好奇心が旺盛だからこそ誤飲やフローリングで滑っての骨折など、けがをしやすいのも理由のようです。
ですが、犬も人間と同じく年を取るほど病気をしやすくなります。そのため、年を経るごとに保険料は高くなる傾向にあり、また7歳や10歳といった年齢を上限に、新規加入は出来なくなります。医療費がかさむから保険に入ろうと思った時には、すでに愛犬は年をとりすぎていて加入できない、という事態もありえるのです。
また、ほとんどの保険会社では、避妊・去勢手術や、ワクチンは補償対象外です。人と同じように、すでに発症している持病があれば加入できない場合もあります。保険料や支払い方法だけでなく、細かい規定は各社・商品によって異なりますので、よく比べてみましょう。
以下は、「実際にかかった医療費の50%(または記載の上限金額)を負担するプラン」です。ご参考までに。
※最安値は0または1歳、最高値はそれぞれの平均寿命年(小型犬15歳、中型犬14歳、大型犬12歳)
※生涯の保険料は平均寿命で想定
※生涯の保険料は年次払いの金額で計算
※各社とも、保険料は犬種ごとに設定。小型犬、中型犬、大型犬とは、ミックス・雑種の場合の体重ごとの区分(設定体重は各社で異なる)
※成長に伴う体重差は考慮せず、それぞれのクラスの0歳時の保険料から計算
※ペットメディカルサポートは、いずれも、書類申し込み、特約なしの場合の金額
まとめ
これらの他にも、手ごろな料金設定のものから補償範囲の広いプランまで、様々な保険が販売されています。例えばアイペット損保では、少額の通院は補償対象外にする代わりに、高額の手術と、手術を含む入院に特化して、保険料を抑えた「うちの子ライト」というプランが最近人気といいます。また、ペットメディカルサポートの「PS保険」は、事故で歩行が困難になった場合に車いすの費用を最大10万円まで支払う「車いす補償」が自動(無料)でついています。
ペット保険は必要か不要か。その保険料は安いか高いか。答えは愛犬の健康度によって変わりますが、万一の時の安心を買いたい飼い主にとっては、心強い味方になるでしょう。
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