家族として見送りたい いまどき犬の葬儀事情
犬の一生は人間に比べて短いものです。いずれ迎える「その時」は、考えるだけでもつらいですが、愛犬をきちんと葬ることは飼い主の最後の務めでしょう。犬の遺体は、自分の所有地に埋める土葬、あるいは、自治体か民間業者に依頼して火葬にしなければなりません。(ライター 福田優美)
1匹の犬が、健康で充実した一生をおくるには、どのくらいの費用がかかるのか? シーンごとに犬の飼育にかかわる費用について解説するこのシリーズ、第11回は「葬儀」です。ペットが死んでしまったら火葬または土葬という選択肢があります。土葬が許されるのは自分の所有地だけです。法的な規制はありませんが、遺体がすっぽり隠れるくらいの深さを掘るなどして異臭でご近所の迷惑にならないようにする必要があります。とはいえ、埋葬できるほど広い庭を有する人は限られており、現実的ではないでしょう。ここでは火葬の種類と費用を紹介します。
■自治体
ペットの火葬にはいくつかの方法があります。その一つが自治体によるものです。「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下、廃掃法)第二条第一項で、動物の死体は廃棄物と定義されています。そのため、自治体で火葬する場合、法律上は火葬ではなく「廃棄物処理」になります。
ペットが亡くなったら、住まいの自治体の役所に鑑札などを添えて、犬の死亡届を提出してください。これで蓄犬登録が抹消され、毎年届く狂犬病予防注射の知らせを止めることができます。
自治体に火葬を依頼すると、清掃局や循環局の職員、あるいは委託先の民間業者が遺体の収集に来ます。遺体は一般廃棄物焼却炉か委託先の動物用火葬炉で火葬されます。お骨は、一部の自治体を除いて、ほとんどが合同火葬なので手元には戻りません。方法や料金は自治体により異なりますので、各自治体のホームページで詳細をご覧ください。
ちなみに東京23区の場合、25キロ未満の遺体は一般廃棄物の有料引き取り扱いで2600円。後述する民間業者に比べると火葬費用としては格段に割安ですが、家族同然として生きてきたペットの遺体を廃棄物として扱われることに抵抗のある飼い主には不向きでしょう。
東京都23区 ¥2,600(引き取り・火葬・合同埋葬、25キロ以上は要問い合わせ)
■斎場での火葬(固定炉)
ペット用も、人間用と同じように火葬炉のある斎場があります。斎場での火葬は、「個別・合同」、「立ち会い・一任」などの種類から選びます。
「個別」は、人間と同じように遺体を単体で棺に入れて火葬するもの、「合同」はペット独特で、ほかの飼い主の元にいたペット何頭かと一緒に棺に入れて火葬するものです。また、「一任」は、遺体を自宅や病院に引き取りに来てもらい、斎場の監督のもと火葬してもらうことをお任せする方式です。「立ち会い」は、入棺から収骨まで火葬の全行程に飼い主が立ち会うものです。
全国ペット霊園協会長で、よこはま動物葬儀センター代表の神山孝さんによると、同社が設立した40年前はまだ、ペットが伴侶動物という意識が低く、遺体処理は行政に依頼する人が多かったそうです。「当社へ依頼される場合でも、当時は自宅で引き取る『一任』が主流でした」
ところが今では、自家用車を持っていないなど物理的な理由がない限り、8割近くの人が遺体を火葬場まで連れて来るそうです。「当社では75%の方が個別火葬を選ばれます。火葬後、一度お骨を自宅へ持って帰られて、1年後に合同墓地へ入れられる方がほとんどです」と、神山さんは言います。
動物供養を行う寺院としては日本最大規模の「慈恵院付属 多摩犬猫霊園」は1921年開園。敷地面積は4千坪で、もとは牛馬を葬る家畜霊園でした。現在では火葬の約90%が犬猫、ウサギやフェレットなどのエキゾチックアニマルが約10%を占めるそうです。
宗教法人の運営なので、立ち会い火葬の場合は火葬の前後に計2回、臨済宗のお経を唱える、動物葬儀には珍しく戒名を授ける、といった特徴があります。広報情報局長の杉崎哲哉さんは、「当園では約半数の方が合同火葬を選ばれます。あの世へ行っても仲間がたくさんいて寂しくないからという理由からでしょう」と話します。その言葉を裏付けるように、多摩犬猫霊園の合同墓地には毎日多くの花が手向けられています。
「火葬後に和紙製の仮位牌(いはい)をお渡しします。四十九日が過ぎてもご供養を続けたい方には本位牌をお作りします」と杉崎さん。こちらでは四十九日に納骨し、三回忌で合同墓地へ遺骨を移す飼い主が約半数を占めるそうです。
一口に斎場と言ってもサービスや料金は異なります。一例を挙げますので、ご参考にどうぞ。
■訪問火葬(火葬車による移動火葬)
ペット特有の葬儀形態として「訪問火葬(移動火葬)」があります。これは火葬炉を装備した専用車が飼い主宅に出向き、駐車場などの所有地でペットを火葬にするものです。小動物や小型犬の場合は軽トラックやワゴンを改装したもの、大型犬対応は2トントラックなどが使われます。
訪問火葬にも「一任」、「個別」、「立ち会い」などがあります。前出の神山さんによると、全国に約1100件ある動物葬儀場のうち、訪問火葬業社は約300件。その一つ「ペットPaPa」代表で、長年、訪問火葬団体の代表をしてきた高橋達治さんによると、訪問火葬の登場は20~30年前だそうです。「2007年に悪徳業者が1社現れたことで長年風評被害がありましたが、今は良識ある業者だけが残ったといえるでしょう」(高橋さん)
移動火葬という名称から、「車を動かしながら火葬する」とイメージする人が多いようですが、停車した状態で火葬します。移動火葬車も、炉の温度は固定炉と同じく約800度の高温。お骨になるのに、小型犬でも1時間、大型犬なら2時間かかります。ペットPaPaでは読経など宗教色的な儀式はせず、あえて葬儀っぽくないお別れを演出しているそうです。
「しきたりや習慣にとらわれず、動物らしいかわいらしいお別れにしてあげたいと考えています。骨つぼも真っ白な味気のないものではなく、亡くなったペットに似合う色の手作りリボンでデコレーションするなど、オリジナリティーを出せるようにしています」(高橋さん)
最後に愛情をかけた別れの演出をすることで、飼い主に「愛犬をしっかり見送った」という感覚が生まれ、ペットロスを防ぐ効果が期待できるとも、高橋さんは言います。
訪問火葬と斎場の両方を運営するジャパンペットセレモニー代表の藤本政光さんは、両者のメリットを以下のように話します。
「斎場の良さは、周りの目が気にならないことです。火葬車の場合、ただでさえつらい中、住宅環境によっては近隣の方にたびたび状況説明をしなければなりません。一方、火葬車の最大の利点は、ライフスタイルに合わせられることでしょう。小さいお子様がいらしたり、帰宅時間が遅かったりする方にとって、24時間いつでも、ゆっくりお別れができるのは、自宅まで来てくれる火葬車ならではの長所です」
ジャパンペットセレモニーでは月約500件の依頼のうち、350件ほどが訪問火葬という。「2000年くらいから、自治体ではなく民間業者に火葬を依頼する飼い主が増えたように感じます。同じころから人と同様に手厚く供養する飼い主が増え、遺骨を手元に残す人が増えてきましたね」と、藤本さん。
生活様式や住環境の変化は、犬の飼い方から弔い方にまで影響しているようです。訪問火葬は体重によって細かく料金が設定されています。業者によって受け入れ可能な最大体重が違うので、大型犬の場合は依頼前に確認したほうがいいでしょう。
まとめ
愛犬が天寿をまっとうしたら、家族全員で見送ってあげましょう。きれいな体であの世へいけるように、死後は遺体のおなかを冷やすといいでしょう。そのとき、遺体がぬれないように、保冷剤や保冷まくらなどはタオルで巻くなどして直接体に触れないようにしましょう。
火葬はなるべく3日以内に、というのが専門家の共通意見です。愛犬が元気なうちは考えたくないことかもしれませんが、いざという時に慌てることなく気持ちよくお別れの時間を持てるよう、事前に業者を調べておくことも大切かもしれません。
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