子猫・子犬守れ、求むミルク係 「殺処分ゼロ」掲げる
犬や猫の殺処分ゼロを目指す熊本市動物愛護センター(同市東区)が、生後間もない子猫や子犬を預かって、ミルクなどの世話をする「ミルクボランティア」の募集を始めた。全国的には授乳期の子猫の7割以上が殺処分されているが、避妊去勢手術を約束する人に譲渡することで、野良犬や野良猫を殺さずに減らそうとする試み。行政がこうしたボランティアを公募するのは全国でも異例という。
ミルクボランティアは、センターに収容された生後1~5週の子犬や子猫を預かり、ミルクや排泄(はいせつ)の世話をしてもらうもの。離乳後はセンターが引き取り、避妊去勢手術をすることや室内で飼うなどの取り決めに同意した新しい飼い主に譲渡する。センターが2、3月に説明会を開き、現在、10組10人が登録している。
センターによると、授乳期の子猫は収容数が多く、世話に手間がかかることなどから殺処分になることが多い。2013年度に全国の保健所などに収容された子猫8万4281匹のうち74・5%にあたる6万2815匹が殺処分された。子犬で殺処分されたのは1万1112匹のうちの4478匹(40・3%)だった。
一方、02年から「殺処分ゼロ」を掲げる熊本市では13年度、センターに収容された授乳期の子猫103匹のうち、けがなどで死んだ12匹を除く91匹全てが新たな飼い主に譲渡された。
こうした子猫や子犬については、以前は動物保護団体が引き取っていたこともあったが、飽和状態が続き中止。数人の獣医師ら職員が夜間は自宅に連れて帰るなどして、新しい飼い主に譲渡されるまでの間ミルクを与えるなどの世話をしていた。多いときには、1人10匹以上連れ帰ることもあった。殺処分ゼロを達成するには、そうした背景があるということを市民にも知って欲しいと、ボランティア募集を思いついたという。
センターには年約1千件の犬や猫の苦情があるという。猫を避妊去勢手術せずに外で飼って子猫を生んだり、人が野良猫にむやみにえさを与えたりして、野良猫が増えてしまうといった内容が多いという。
避妊去勢手術を施して野良猫や野良犬を減らそうとする手法については、地域によってはほかの小動物が捕食されるなどの被害が出ている現状では必ずしも十分とはいえず、殺処分の方が有効ではないか、といった声もある。ミルクボランティアについても、そうした仕組みがあることによって、逆に「助けてもらえる」と考えて安易に子猫や子犬を保健所に放棄する人が増えるのではないか、と懸念する見方もあるという。
これに対して、センターの長野太輔獣医師は「犬猫の命を救うだけでなく、避妊去勢の重要さや、人と動物の関係を考えてもらうきっかけになれば」と、ミルクボランティアの意義を語る。「どれだけ多くの動物を殺処分しても、人が変わらなければ野良の動物は減らない」
熊本市の「竜之介動物病院」は、動物専門学校を運営しており、動物看護師やアニマルトレーナー、トリマーなどを目指す学生のための教育課程に、ミルクボランティアを組み込む予定だ。徳田竜之介院長は「猫は1年で約20匹の子を産む。子猫が正しい飼い方を知った人に渡り、周囲の啓発につながれば、保健所などに収容される数も減っていく」と話す。
中学生の愛情たっぷり
非行少年らの自立を支援する施設の子どもらが通う熊本市立京陵中学校清水が丘分校。同校は昨年6月、愛護センターから2匹の子猫を預かり、ミルクボランティアを始めた。昼間は空き教室に子猫のゲージを置き、夜は生徒が寮に持ち帰り、世話をした。
この経験などから、獣医師らが「市民に現状を知ってもらい、正しい飼い方を身につけてもらえれば、殺処分ゼロも実現できる」と考え、ボランティアの公募につながった。
中学でミルクを与えた子猫は3週間で離乳した後、新たな飼い主に譲渡された。昨年7月末にそのうちの1匹を引き取った熊本市東区の会社員高広昌明さん(26)は、「ぼーっとして不思議な猫だけど、皆さんが世話をしていたおかげか、人慣れしていて接しやすい」と話す。「かわいがって」「大切に育てて下さい」。譲り受ける際、生徒らから贈られた寄せ書きには、そんなメッセージがつづられていた。生徒たちは「大事に育てた思いをバトンタッチしたかった」という。(田中志乃)
(朝日新聞2015年3月28日掲載)
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