ペットと避難、一歩前へ取り組み 環境省がガイドライン

広島市を襲った土砂災害の避難所で暮らしているのは、被災者だけではない。飼い主にとって家族の一員である犬や猫などのペットだ。環境省が昨年、ペットと一緒に避難することを勧めるガイドラインを示したことを受け、広島でも取り組みが始まった。
「ランボーが知らせてくれたおかげで、避難できました」
広島市安佐南区。犠牲者が40人を超えた八木地区で被災したパート従業員の女性(52)は、愛犬のラブラドルレトリバーと梅林小学校に避難している。名前はランボー。10歳のオスだ。
20日未明、自宅で寝ていると、いつもはおとなしいランボーが、家の中を暴れるように走りはじめた。
「おかしいな」。ベランダから山の方を見ると、雷雨のなか、波のように泥が迫ってきていた。とっさに命の危険を感じ、ランボーと家を飛び出した。
ランボーの体重は54キロ。抱きかかえて逃げるのは難しい。ぬかるみに脚がはまって動けなくなると抱きかかえて引き上げてやり、泥だらけになりながら梅林小までたどり着いた。
自宅近くでは多くの人が生き埋めになった。ランボーが異変に気づかなかったら、どうなっていたか。それを思うたび、「ありがとう」と愛犬に声をかける。
梅林小では初日から、4階の「6年4組」をペットと寝泊まりできる部屋として開放した。ペットが苦手な人やアレルギーのある人への配慮から校舎の端にある。連れ出して学校の敷地内を散歩することもできる。「動物の命も大切にしてもらえてありがたい」と女性は話す。
梅林小の原紺(はらこん)政雄教頭によると、ペットの受け入れは区役所と相談して校長が決めた。飼い主同士でまとまって暮らしてもらうことを条件にしている。
最近では、「廊下におしっこの跡がある」などと、他の被災者から苦情も出始めた。校内アナウンスや飼い主が集まる際に、注意を促しているという。(半田尚子)
震災後、国が指針
ペットとの「同行避難」が可能になった背景には、3年前の東日本大震災の教訓がある。震災では、ペットが飼い主とはぐれて餓死したり、野生化したりした例があった。
これらを踏まえ、環境省は昨年6月、災害時にペットを扱うガイドラインをつくった。ペットが家族の一員との意識は一般化し、動物愛護だけではなく、被災者の心を癒やす点からも、一緒に避難することが合理的とする方針を示した。
大規模災害で初の実践例となった今回、11カ所の避難所のうち、梅林小など4カ所で計約40匹を受け入れた。広島市が飼い主に必要な物資を聞き取り、尿を吸収するシートや消臭剤を無料提供している。一時預かりや譲り渡しの相談にも応じている。
課題もある。避難所の運営では、現場担当者の裁量が大きい。においや鳴き声が気になる人や、ペットアレルギーがある人への配慮から、今回も多くの避難所では受け入れていない。
NPO法人「犬猫みなしご救援隊」(広島市安佐北区)の中谷百里(ゆり)理事長は「避難生活が長くなると、他の被災者とのトラブルも起こりやすくなる。これからが正念場」と指摘する。(佐藤剛志)
ペットとの同行避難の実例
・別棟をペット専用施設にして、被災者の生活区域と分ける
・教室ごとに同行避難者と一般の避難者の生活区域を分ける
・ドーム形テントで同行避難者の生活区域を設ける
・「散歩時はリードを着ける」など避難所で飼育ルールをつくる
*環境省「災害時におけるペット の救護対策ガイドライン」から
(朝日新聞2014年8月28日掲載)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。