最後まで充実した時間を過ごすために

「子ども」のような存在だった犬が、いつの間にか老いていく。犬の平均寿命は14・19歳(2013年、ペットフード協会調べ)。
「老後」は意外とすぐにやってくる。犬と過ごす最後の濃密な時間。それが介護だ。 文/太田匡彦

重なった両親の介護

「うちの犬が歩けなくなり、寝返りもうてなくなった」
「夜鳴きがやまず、近所から苦情がくる」


 イオン動物医療センター幕張新都心(千葉市)には、年老いた犬と暮らす飼い主から、そんな相談が持ち込まれる。経営母体のイオンペットが今年7月、犬の介護ケア事業を始めたことも影響しているのだろう、その件数は増加傾向にあるという。センター長の永井貴志獣医師は言う。


「長く一緒にくらしてきた『家族』ですから、自宅で介護をしようという飼い主は多い。でもその苦労は、たいへんなものなのです」


 犬の老いは、想像以上に早くやってくる。つい最近まで子犬のように駆け回っていたのに、7~8歳にもなればもう老化が始まる。そして最期の時を迎えるまでの1年前後、場合によっては介護が必要になってくるのだ。


 寝返りがうてなくなれば、床ずれができないよう毎日数回、定期的に体勢を変えてあげる必要がある。夜鳴きを止めるには、昼間はなるべく寝かせず、適度な運動をさせるのが理想。飼い主は付きっきりにならざるを得ず、負担は重い。

 

 千葉県内に住む山田清美さん(55)の場合、13歳のらんまる(ヨークシャーテリア、オス)を、イオンペットの介護ケア施設に預けるという決断をした。

 

写真提供/山田清美さん
写真提供/山田清美さん

 らんまるは6年前、脊髄梗塞のため左足が麻痺してしまった。そしてこの1年、決まった場所での排泄に失敗するようになった。次第に水飲みもうまくできなくなり、一日中、見守ってあげる必要が出てきた。そんなタイミングに、両親の介護が重なった。


「両親の介護のために家を留守にする時間が増えた。でも『家族』であるらんまるから、なるべく目を離したくない。どうしていいかわからなくなっていた時に、介護ケア施設のことを知りました」


 施設は動物病院に併設されているから、獣医師が24時間いる環境でらんまるは過ごしている。週に一度は必ず、面会に行く。山田さんは言う。
「本当に助かりました。救われた気持ちです」

 

早期発見、早期治療を

 家庭動物愛護協会会長として「老犬セミナー」などを開催してきた、須田動物病院(東京都日野市)の須田沖夫院長は、飼い主のことを考えて治療や介護の方針を立てることが重要だと考えている。そのため、普段から飼い主に意識付けしているのが、病気やけがの予防、そして早期発見、早期治療だ。須田氏は言う。


「徹底すれば、介護が必要な状態にならずに、最期を迎えられる可能性が出てくる」


 たとえば関節など運動器系の疾患で寝たきりにならないようにするためには、若いうちにX線検査をし、状態を確認しておくべきだという。「股関節形成不全」などが見つかれば、普段から階段や急な坂道は避けて散歩し、また体重を増やさないよう食事に気をつける。


 日本犬に多く見られる認知症の予防には、8歳くらいからフードに魚を混ぜるようにする。DHAを補ってやるのだ。また心臓病など循環器系の疾患については、定期的に健康診断を受け、異常が見られたら、症状が出る前から早めに投薬治療を開始する。そうすれば、症状の悪化を抑えられる。須田氏はこう話す。


「私は、よほどの時は、安楽死や自然死も選択にいれるべきだと考えています。最後まで、人と動物のより良い関係を築いていくためにはどうすればいいか。そのことをしっかり考えながら犬の健康管理をし、老後を迎えるようにしてください」
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女優・新妻聖子が語る老犬介護

写真提供/新妻聖子さん
写真提供/新妻聖子さん

 2012年9月、チベタンスパニエルの天馬が亡くなりました。まだ家族でタイに住んでいた、私が16歳の時からずっと一緒に暮らしてきた子です。吠えたりすることがほとんどない、とても穏やかな気性をしていました。


 そんな天馬が突然、うなり声をあげるようになったのは亡くなる1年くらい前です。かかりつけの動物病院に連れて行ったら、認知症の可能性があると言われました。12年春、今度は右目の角膜が高齢のために損傷。鎮痛剤で痛みを取る治療が始まりました。


 次第に、認知症が進んでいきました。トイレを失敗するようになり、おむつ生活に。足腰が弱り始め、ついには歩けなくなりました。そのころからご飯も食べられなくなって、指や注射器で流動食を食べさせました。特に困ったのは夜鳴きです。ちょうど舞台の公演期間に重なっていて、ほとんど眠れない日が続き、私も体力的に限界に来てしまいました。天馬に申し訳ないと思いながらも、実家の母に預けることにしました。


 別れはそれから3カ月後にやってきました。全く食べていなかったのに突然ウンチをし、その異変に気づいた母が電話をくれました。急いで駆けつけましたが、間に合いませんでした。でも、まだぬくもりが残っている天馬に会うことができました。穏やかな顔をしていました。


 介護は体力的にも金銭的にも本当に大変でした。認知症で私のことがわからなくなってしまったのは、精神的にショックでもありました。でも、最後までみとるのは飼い主の責任です。これまで無償の愛を注いでくれたことへの恩返しだとも思います。いまでも、何度でも、天馬に「ありがとう」と伝えたいです。

 

 


 

◇新妻聖子(にいづま・せいこ)

1980年愛知県生まれ。上智大学卒。2003年、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役で初舞台。

 

 

(朝日新聞 タブロイド「sippo」 No.24(2014年10月発行)掲載)

 

太田匡彦
1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者やメディアラボ主査を経て、文化くらし報道部記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。

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