左から、「どうぶつ弁護団」理事長の細川敦史、「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」代表理事の杉本彩さん、「どうぶつ弁護団」副理事長の中島克元
左から、「どうぶつ弁護団」理事長の細川敦史、「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」代表理事の杉本彩さん、「どうぶつ弁護団」副理事長の中島克元

杉本彩さんを交えて話した課題と展望 動物虐待問題に対する取り組みの方向性について

 動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったNPO法人どうぶつ弁護団(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。

 9月8日に開催したどうぶつ弁護団として初の主催イベントである「動物虐待問題について真剣に考える」市民シンポジウムにご登壇いただいた杉本彩さんを交えて、これからの動物虐待問題に対する取り組みの方向性についてなど対談を行いました。今回は、その一部を皆様と共有したいと思います。

シンポジウムを終えて

細川 杉本さん、本日はご講演いただきありがとうございました。本日のシンポジウムはいかがでしたでしょうか。

杉本 動物虐待を見つけた時に、心を痛めた方が「どこにどういう風に通報したらいいのか」と当協会Evaにご相談してくることが多いです。今日のシンポジウムでそのヒントがたくさんあったんじゃないかなと思います。

中島 スライドにもあった動物取扱業者による虐待のひどい状態を見ると、もう本当に不届き千万です。獣医師会としても、それらをなんとかしたいなと思うので、杉本さんのご活動に協力させていただいて、もし一緒にできることがあるようだったらと思います。

杉本 それは本当に心強いです。

中島 業者にしても愛護団体にしても、おかしなことをやっているところがあれば、それを知った獣医師は黙っていたらダメよ、と。それは世間に対しても恥ずかしいことですから。ちゃんと真面目にやらないといけない。

細川 本当に獣医師の役割は大きいですからね。法律の中にも「獣医師」の文言が入ったり、今日佐々井先生がご紹介された、虐待動物を見つけたときの通報が義務化されたりとか、動物愛護法の中での獣医師の先生方の役割はとても大きくなっていますよね。

中島 今日の佐々井先生の基調講演にもあったような猫の遺体のCT画像(頭蓋骨粉砕の態様)にしても、あれはれっきとした虐待の証拠ですよね。

杉本 本当にそうですね。見た目からは分からないことが、CTを撮れば虐待だったということを明確に証拠として示すことが出来ますからね。

9月8日(日)に神戸で開催した「動物虐待問題について真剣に考える」シンポジウムの様子

中島 ただこれを実際に法的な動きに、ということになれば、やっぱり細川先生のような専門家のお力を借りないと。証拠は?って言われた時に、「間違いない、見たんだから。」と言うだけではダメですもんね。

細川 どうぶつ弁護団ができるまでは僕が一人でやっていたことを、これからはみんなで分け合いたいと思って、今日も実は当法人メンバーの10人ぐらいの弁護士が集まってくれています。みんな弁護士としての本業があって、その上での動物虐待事案対応となるんですけど、ちゃんと事案検討してくれるなど、同じ気持ちでやってくださって、本当にありがたいです。

杉本 ここまで細川先生がずっと牽引されてこられて、それで今のどうぶつ弁護団ができたわけですから、動物愛護団体や、個人でボランティアしていらっしゃる方々も、本当に有難いと思いますよ。

動物の緊急一時保護制度について

細川 Evaさんは、虐待された動物を所有者の同意なく一時保護する制度の導入について、議論されている国会の超党派議員連盟にも毎回出席され、発信されていますよね。

杉本 今ちょうど、超党派議員連盟の中で次期動物愛護法改正の議論が進んでいるのですが、その中で、やはりこの「緊急一時保護制度」については最優先事項と言っても過言ではないくらい、もう何度も議論されています。そのほかのテーマでは議論する機会が1回程度で終わってしまうこともあるのですが、これについてはもう計4、5回の会議が開かれているというところから見ても、非常に重要視されています。当協会からも、今まで数々の動物虐待事案を国会議員の方々にお話ししているので、そういった意味での緊急一時保護の必要性というのは非常に重く深く受け止められ、理解してくださっていると感じています。

「やっぱり虐待した人間に対し、『将来的にも動物を飼育することを禁ずる』というところまで持っていければいいんですけれど」とも杉本さん

中島 所有権が問題となる例として、多頭飼育崩壊の事案について、所有権を主張する者が、主張する権利があるのかないのかの評価をする第三者委員会のようなものが必要だけども、所有権という私権を制限するというのは行政にはなかなか難しいことですよね。

杉本 そうですね、行政だけに任せるのは非常に難しいと思います。とはいえ今後、緊急一時保護制度は確実に可決すると思ってはいるんです。けれども、それまでにも課題がたくさんあると思います。どういう基準でその一時保護を発令するのか、その辺はものすごく慎重な議論が必要だと思います。法的な側面から、細川先生は何が一番重要だと思われますか。

細川 1つには、お金が大事ではないかと思います。 先ほどの「判断するチーム」が必要という話なんですけども、そのためには、例えば獣医師、弁護士、その他の専門家がある程度動かないといけない。みんながボランティアというわけにはいかないので、そこの予算作りが大事ではないか、という気がしています。国が仕組みを作って、これを各自治体にやってください、と言っても、その自治体にお金の余裕があるかどうかがまた問題になるので。

杉本 何か物事を進める時にそこがネックになってきて、じゃあ予算はどこから取るかという問題点がやっぱり出てきますね。

細川 「お金の問題があるからできません」とできない理由にされがちなんですけど、逆に、法律ができたから予算取ってください、となると、「わかりました」ってスムーズに出ることもあると思うんですよ。法律で仕組みができたことを予算を取ってくる理由にしてもらえたらいいと思います。法律が先にできてダメなことはないと思うんですよね。

杉本 あと、大規模な虐待事件が起こって動物たちの行き場が必要な場合、行政の動物愛護センターでは、収容数の限界とマンパワー不足を理由として、なかなか警察に対して協力的な姿勢ではありません。環境省から、警察に協力しなさい、と虐待ガイドラインに書いてありますが、行政はなかなか前向きに警察の事案には協力しない現実があります。

「動物虐待問題について真剣に考える」市民シンポジウムの様子

杉本 とはいえ、じゃあ動物愛護団体に全部受け入れられるのかって言ったら、どこもやっぱりいっぱいで、資金不足、マンパワー不足があるし、いっぺんに受け入れることも難しいし、あとは本当にその団体が受け入れられるぐらい、きちんとした優良団体かっていうことも不明な点が多々ある場合もあります。だからこそ当協会は、2027年に向けてそういった虐待動物を緊急的に一時保護できるシェルターの開設を目指し、現在基金を募っています。

中島 そうですよね、優良団体かどうかの判断は必要です。いろいろな動物愛護団体がありますけど、Evaさんの方で愛護団体全体のプラットフォーム的なお役目をやっていただいたらと思うのですが。

細川 確かにEvaさんは仕切り役としてはいいんじゃないかなと思います。ドイツには、保護団体の親玉のような団体がありますけど、杉本さんがされたら良いのではないでしょうか。

中島 時期的にも、動物愛護というのが日本に入ってきてもう50~60年経ってきて、 醸成してきていると思うんです。ここで本当に動物福祉の概念が、日本で大成するんじゃないかなって期待してるんですよね。

杉本 超党派議員連盟の中でも、動物愛護法という名称ではなく動物福祉法にする方がよいのではないかという議論が度々あります。

中島 本当にそうですよね、どうぶつも人も対等にいなきゃ。僕は猫と二人で暮らしていますから。

杉本 そうなんですか。

中島 もう愛猫がいなかったら大変ですよ(笑)

畜産動物の問題も啓発していきたい

細川 Evaさんの方で最近関心のある分野や、取り組んでいきたい課題はありますか。

杉本 そうですね、虐待問題は、愛玩動物の犬や猫を中心とした問題だけではありません。畜産動物の環境は、犬、猫以上に悲惨な状態です。以前から私たちも大きな課題だと認識していますが、愛玩動物の問題を中心に相談が寄せられることが多いので、なかなか手が付けられていませんでした。この問題を中心に取り組んでいる素晴らしい団体さんもいらっしゃるので、その方々としっかり協力体制を組みながら、畜産動物の問題も啓発していきたいと思っています。

細川 非常に大事なことだと思います。これは弁護団の話ではないんですけど、一昨年あたりから、東京をはじめ全国の弁護士有志で、畜産動物、展示動物、実験動物、野生動物の勉強を続けています。ペット以外の動物に興味関心を持って取り組んでいくこの動きと、Evaさんらが一緒になって、虐待事案があったら取り組んでいけたらなと思います。

どうぶつ弁護団にとっても有意義な時間となった

細川 どうぶつ弁護団ですが、設立してまだ2年です。Evaさんが設立10年で、それに比べても全然まだこれからの組織ではありますが、うちもそろそろ組織を拡大していって、関西圏だけじゃなくて各地の弁護士や獣医師との連携体制をどんどん作っていきたいという風に思っています。そして、ペット以外の動物の虐待事案についても告発してければと思っていますので、これからも皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

杉本 組織として、さらに力強く発展していただきたいと心から願っています。

(次回は10月23日公開予定です)

【前の回】「起こせるアクションを検討するために」 獣医師と連携し動物虐待の被害写真を読む

NPO法人どうぶつ弁護団
2022年に設立した、理事長の細川敦史弁護士を筆頭に弁護士と獣医師で構成された、動物虐待事件について捜査機関に対する刑事告発などを行うNPO法人(英語表記:Animal Defense Team)。警察へ被害届を提出することも、動物病院へ行くこともできない声なき動物を護るため、専門家と連携して動物目線で動物の声を伝え、人と動物が共生する優しい社会の実現を目指している。https://animal-dt.org/

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この連載について
どうぶつ弁護団からの便り
どうぶつ弁護団
動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったどうぶつ弁護団(Animal Defense Team)は、動物を愛する弁護士たちが中心となって活動しています。当連載では、動物虐待に関する情報や、どうぶつ弁護団への思い、ときにはかかわった事件の話など、どうぶつ弁護団に所属する20名以上の弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。
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