「春が来てるね」「もうそこね」(小林写函撮影)
「春が来てるね」「もうそこね」(小林写函撮影)

フードをちびちび食べていた元保護猫「ハナ」 その変貌に「はち」は呆然と座り込む

 先住猫「はち」と元保護猫「ハナ」、2匹と暮らして約2年が経とうとする2023年の春。私は、ハナがフードをちびちび食べる習慣を変えられないかと、ハナ用に自動給餌器(じどうきゅうじき)を購入した。

 これは、ハナの残したご飯をはちが食べてしまうのを防ぐためだった。

 ハナは最初、器械からご飯をもらうことに抵抗があるのか、人が手助けをしないとフードに口をつけようとしなかった。だが試行錯誤の結果、自分から給餌器に向かうようになった。

(末尾に写真特集があります)

おなかがすけば

 ハナは食いしん坊のはちとは違い、給餌器からフードが出る音がしたからといってすっ飛んでいったりはしない。

 はちが、はち用の給餌器にかぶりつくようにしてフードを食べるのを見て「じゃあ、私も」と腰を上げる感じだ。

 しかも、口はつけても完食はせず、いつも半分ぐらいは残した。それを、はちが食べないように、私は家にいるときにはその都度、残ったフードを片付けるようにした。

 それでも「ご飯はこの器械からしかもらえない」ということは理解したようだ。ハナは、人にご飯の催促をしなくなった。

「おばちゃんが寝床を並べておくから、隣同士なだけだよ」「決して仲がいいわけじゃないの」(小林写函撮影)

 給餌器を導入して1週間が経ったころ、キャットシッターのFさんに2匹の世話を託し、数日間家を留守にした。

 このときは、はちがハナのフードを食べてしまっても仕方ないとあきらめた。短期間だし、防ぎようもないからだ。いちおう給餌器の設定はしたが、Fさんが来たときにハナがおなかをすかせている様子なら、直接手でフードを与えてもらうように頼んだ。

 Fさんによると、ハナははちのせいでやはり十分なご飯にありつけなかったらしく、鳴いてせがんだようだ。Fさんの手から、かなりの量を食べたと報告を受けた。

 ただ、Fさんがちょうど給餌時間に居合わせたときには、給餌器から出たフードにも口をつけていたという。

「はちどこに行ったのかしら」(小林写函撮影)

 帰宅した日も、ハナは私に「ご飯が足りないの」とすり寄ってきた。このときはさすがにかわいそうだったので、直接フードを与えた。ハナは待ってましたとばかりに、通常の2回分をぺろりと平らげた。

 まだ給餌器には慣れてはいないようだが、ハナが、まとまった量のフードを一度に食べることができることはわかった。「ちびちび食い」の習慣を変えることもできそうだ。

「こっちに来ないの?」

 ハナは、日を重ねるごとに給餌器に対する抵抗はなくなってきた。それでも完食させるには、まだ人の手助けが必要だった。

 私は、自宅にいるときは毎回ハナの食事の時間に合わせて様子を見に行った。するとハナが途中で食べるのをやめてしまうことがよくあった。

 そういうときは「まだ残っているじゃない、全部食べないと」と言い、給餌器の皿に残っているフードを手ですくって見せてやる。

 そうするとハナは、残ったフードを全部食べた。

「ぽんたです。みんな仲良くやってるようだね 」(小林写函撮影)

 また、食べている途中に私がソファに座っていると、何回も皿から顔を上げ、目線を送ってくることもあった。これは「こっちに来ないの?」という合図だった。私が給餌器の横でしゃがんで見ていると、1粒残さずフードを食べた。

 猫と暮らした経験が長い人に聞いたところ、飼い主の前だと食が進む猫は甘えん坊の傾向が強いという。

 そんな私の行動を見ていて、ツレアイは言った。

「甘やかさないほうがいいよ。だいたい、食べられるのに食べないハナも悪い。世の中厳しいんだから、はちに横取りされる前に、自分で食べることを覚えないと」

ハナはたくましい

 この言葉を理解したのかしないのか、それから1週間もすると、ハナは給餌器から出たフードが皿にあたってチャリンと音を立てると、小走りで向かうようになった。そうして毎回ではないものの、一人で食事を完食できるようになったのだ。

 私は大喜びした。そして、それからは、はちの盗み食いに対しても、目くじらを立てないことにした。

 いくらはちでも、胃袋のサイズは無限ではないようで、ハナのご飯を大量に盗み食いした日は吐き戻したり、自分のフードに手をつけなかったりするからだった。

 こうして約3カ月が過ぎたある日、私は目を疑うような光景を目撃した。

 ハナが、はちの給餌器の皿に頭を突っ込み、はちが残したフードを食べていたのだ。

 カリカリと威勢のいい音を立てながら堪能しているハナの後ろで、はちは呆然とした様子で座り込んでいた。

「えらいえらい、そのぐらいでちょうどいいよ」と、ツレアイはうれしそうに言い、ハナの頭をなでた。

 食べ終わるとハナは、舌なめずりをしながらはちを一瞥(いちべつ)し、立ち去った。

 ハナはたくましい。さすが9年間、厳しい外暮らしをくぐり抜けてきただけのことはあると、私は感心した。

 連載「続・猫はニャーとは鳴かない」は今回が最終回です。約3年間で62回、長きにわたるご愛読ありがとうございました。

【前の回】猫の多頭飼いで起きた盗み食い問題 ちびちび食べる習慣そのものを変える作戦を決行

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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