「はちが割り込んで来た、うっとうしいから、あっちのテーブルに行こう」(小林写函撮影)
「はちが割り込んで来た、うっとうしいから、あっちのテーブルに行こう」(小林写函撮影)

家庭内引っ越しの影響が思わぬところに 猫の多頭飼いにおける“食事問題”に直面

 先住猫「はち」と元保護猫「ハナ」、2匹と暮らして約2年が経とうとする、2023年の春のことだった。

(末尾に写真特集があります)

違和感が的中

 夜、寝る前に電気を消そうとリビングに行ったときだった。ふとハナマン(ハナのマンション=ケージ)に目をやると、2階にある常に開いている扉から、はちが中に入る姿が目に入った。はちがハナマンの2階に入ることはまずなかったので驚いた。

 はちは頭を下に向け、ハナマンの1階の床めがけて飛び降りる姿勢をとった。私はハッとし、「はち!」と声をあげた。

 はちは私のほうを向くと慌てた様子で外に飛び出し、ソファに置いている猫ベッドに飛び込んだ。

 隣にはもう1つ猫ベッドが置いてあり、ハナが丸くなっていた。

 私は確信した。やはりはちは、ハナの残したご飯を食べている。

 食事は、はちには自動給餌器(じどうきゅうじき)でフードを与えていた。一方のハナには、1日の規定量を4回に分け、ハナマンの1階に置いた食器に、私とツレアイのどちらかがそのつど手でフードを盛るようにしていた。ハナは最終的には規定量を完食はするのだが、一気には平らげない。毎回の食事の際には必ず10粒程度器にフードを残し、それを次の食事までの間に食べきる、という「ちびちび食い」が決まったパターンだった。それも完全に器を空にすることはなく、いつも2、3粒は残した。

 それが数日前から、いつ見てもハナの食器がなめたようにきれいになっていたのだ。にもかかわらず、ハナはニャーニャーまとわりついてご飯の催促をするので、なんだかおかしいと思っていた。

「おばちゃんブラッシング上手になったね」(小林写函撮影)

 はちは、私たちがリビングにいるときはハナマンに近づこうとはしない。「犯行」は人が目を離したすきに行われているようだった。だが数日後、ついにツレアイが現場をつきとめた。

「コラッ!」と目を釣り上げるツレアイの足元を脱兎のごとくすり抜けたはちは、ダイニングキッチンの隅に逃げ込むと、ツレアイをシャーシャー威嚇したという。

 はちはこれまで、ハナマンの1階の扉を閉めておきさえすれば、中に入ることはなかった。それなのに、なぜ侵入するようになったのか。

 理由はいくつか考えられた。

環境と2匹の関係の変化が引き金に?

 最大の理由は、私の入院を機にはちの自動給餌器を私の部屋からリビングに移動させ、2匹が同じ時間に同じ空間で食事をとるようになったからだろう。

 加えてツレアイと私の部屋を交換したことをきっかけに、猫はそれぞれの部屋には入れなくなった。2匹がリビングで一緒に過ごす時間は増え、食いしん坊のはちは、ハナがいつも食事を残し、残ったフードは2階から出入りして食べる姿を頻繁に目にするようになった。

 それで「なるほど、ああすれば食べ残しにありつけるのか」と学習したのではないか。

 また2匹の関係の変化も考えられた。特に、はちのハナに対する苦手意識は私の入院中にだいぶ薄らいだようだ。

 ハナも、ハナマンの中で過ごすことは減り、一定の距離をとりながらではあるが、はちと一緒にソファの上でくつろぐことが多くなった。ハナのテリトリーだったはずのハナマンの中に入るのをはちが躊躇(ちゅうちょ)しなくなったのは、こういう背景もあるだろう。

「向かい合って話しなんかしてないわよ」(小林写函撮影)

 はちとハナ、お互いの存在が日常となったのは喜ばしいことだ。だが、盗み食いのせいではちが太り、ハナがやせてしまうのは困る。現状、はちは上限ギリギリの適正体重で、ハナは下限ギリギリの適正体重だ。

 それに、どちらかが病気になり療法食しか食べられなくなった場合はもっと重大だ。食事をきちんと分けることができなければ治療に影響が出るだろう。

試行錯誤をするも効果は得られず

 早いうちに改善せねばと、インターネットや本で調べて策を練った。多頭飼いの家庭では、食いしん坊の猫と少食の猫の食事の問題は珍しいことではないらしい。結局は、少食の猫のご飯を食いしん坊の猫に盗まれないよう、物理的に食事の空間を分けることが必要なようだ。

 しかし、実際にこれは難しい。うちの場合は、ハナに別の場所でフードを与えたとしても、ハナは必ず残すのだから、残った分ははちに見つからないようそのつどかたづけなければならない。ハナは「あとで食べようと思って残した私のご飯がない」と催促しにくるだろう。

 これにいちいち応えるのは手間だし、「ほしがったら与える」という行為自体、よいこととは思えない。はちからすれば「ハナばかりたくさんご飯をもらっている」という印象になる。

 それに、私たちが日中留守にするときや、旅行に行くときなどはどうするのか。

「これ食べられないのに、なぜテーブルに置いているんだろう」(小林写函撮影)

 ハナマンの入り口を、ハナだけにしか通れないように狭くしてみるなど試行錯誤をしたが、うまい方法はみつけられなかった。はちがハナのご飯を盗み食いしたのを目撃したときははちを叱り、はちの自動給餌器からその分を抜いてハナに与えるようにした。だが、はちが懲りる様子はなかった。

 そうこうしているうちに、はちの体重は少し増え、ハナの体重は微減してきた。新緑の季節になり、私の体力もだいぶ回復したので、旅行にもでかけたいと思いはじめた。そのためにも、抜本的な解決策を見つけたい。

「前から思っていたけれど」と、あるときツレアイが言った。

「ハナ用に自動給餌器を買ったら?ちびちび食いのハナの食習慣そのものを変える方法を考えたほうがいいと思う」

 食習慣を変えることなどできるのだろうかと、そのとき私は懐疑的だった。

(次回は2月7日公開予定です)

【前の回】飼い主の入院が転機に 新ルール「猫を部屋にいれない」ことで得た安眠と負担の軽減

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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