犬との「空気」は過ごす時間でつくられる? 長年一緒だからわかる、あうんの呼吸
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
よその犬と大福の違い
最近、友人の愛犬を一晩預かったり、散歩の代行をしたりして気付いたことがある。それは「大福は優秀だなぁ」ということ。いや、優秀とは少し違うかもしれない。ようするに楽で全然手がかからないのだ。それに何を考えているかだいたい分かる。言葉もだいたい理解している。たぶん、彼らも私のことを分かっているんだと思う。
対して、人んちの犬が何を考えているのか、いまいち分からない。もちろん、ほえ方で「オヤツくれ」なんだなとか、隣に来て「なでて」なんだなとか、ドアの前に座る姿に「外に出して」なんだな、とかは分かる。でもそれ以外の、何げない意思疎通があまり出来ない。次の行動が読めない。
たとえば大吉と福助であれば、散歩で歩く後ろ姿でウンチをしたいのか、そうでもないのか、そろそろしそうなのか、なんとなく読める。だけど人んちの犬だと、分からない。右側を歩いていたかと思うと突然左側に行ったりして、それが予測出来ないのだ。別に問題行動をするわけではなく、みんな「良い子」ではある。でも空気感が違う。
大吉と福助のようにお互いに目を見ただけで伝わることとか、まったりしているときは空気のようにそこにいるのが当然のような、長年連れ添った夫婦のような「あうんの呼吸」がない。
でもそれは、一緒に過ごした時間が関係するんだろうなと改めて思った。大吉は8月17日で13歳になった。福助も、もう10歳だ。それだけ長く一緒にいるから、今の関係になったのだろう。それも私と妻限定のことで、他人から見たら彼らが何を考えているのかいまいち分からないんだろうなと思う。
長年一緒に暮らしたからこそ
思えば、迎えた当初の子犬大吉が何をするのか分からなかったし、同じく子犬時代の福助は人間恐怖症で抱き上げることすら出来ず、それを克服したかと思えば破壊王になり、本棚から本を引っ張り出してビリビリに破るわ、壁紙ははがすわ(賃貸なのに)、あろうことかソファを2台破壊し、帰宅してズタボロになったソファを見たときは「何やってくれとんじゃー!」と怒鳴ったりしてたっけ。
それが今では何の問題もない。彼らは気分屋なので呼んでも来ないなんてことはしょっちゅうあるが、そういうときはこちらもたいした用もなく呼んでいるのでそれでいい。オテ、オカワリ、オスワリなどわが家は教えていないから一切やらないが、何も困らない。
唯一、安全のために「待って」と言えば動きを止めることを覚えて欲しくて何度か頼んだら、リードを放したとしてもどこへも行かなくなった。それ以外は家の中でも自由にさせているが、これといって困ることは何もしない。
かつての富士丸との関係も
思い起こせば、富士丸ともそういう関係だった。幼い頃は犬ぞりのごとくリードをぐいぐい引っ張ったし、クッションやソファも食いちぎってくれたり、色々やらかしてくれたが、3歳半頃からは自然と落ち着いて、5歳になる頃にはこちらを気遣うそぶりを見せたり、遂には精神年齢でも追い越されたと感じたことがあった。
二日酔いの朝、散歩から帰ってベッドに倒れ込んだりすると、富士丸は「何やってんだか」とあきれた目をしていたっけ。部屋には、いつもふたりの間に独特の空気があった。
そんな彼は息子のようで、同居人でもあり、親友であり、一番の理解者だった。今は「ふたりと二匹」だが、あの頃は「ひとりと一匹」で、しかも30平米ない1DKの狭いマンション暮らしだったので、濃密な時間だったような気がする。
その富士丸は7歳半で突然死してしまったが、福助はそれを超えて10歳になり、大吉は13歳だから倍近く一緒に過ごしていることになる。
なぜか一緒にいても嫌にならない存在
恐らく犬と暮らす人は、一緒に暮らす時間の中で、それぞれの愛犬との「空気」がつくられるんだろうなと思う。
ひとつ不思議に思うのは、犬と長い時間一緒にいても決して険悪な空気にならないことだ。私は若い頃からわりと「ひとりの時間」が好きで、誰かとずっとひとつ屋根の下にいるのをうざったく感じるタイプだが、富士丸も、大吉も、福助に対してもそう感じたことは一度もない。
むしろずっと一緒にいたいと安っぽい恋愛ソングのような感覚すらある。逆に、彼らから「今はかまって欲しくないオーラ」を感じることもあるが、出張などで2日ほど家を空けて戻ると大喜びされるから、まぁいいか。
改めて、犬と飼い主の間には「長年連れ添った夫婦」ともちょっと違う「長年連れ添った犬」でしかないものがあるんだなと思った。
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