ただそこにいるだけで大きな力に 病気と闘う子どもたちを支え笑顔に変える犬たち
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。アニドネは動物のために活動する団体と、寄付をしたい人や企業の橋渡しをしている中間支援組織です。支援できるカテゴリーは4つ(保護・介在・伴侶・啓発)。犬猫の命を救う保護活動に注目が集まりがちなのですが、私達アニドネが今後チカラを入れていきたい分野が「動物介在介入」です。アニドネの目指す世界である「人と動物の真の共生」を具現化していると思えるからです。
今回は、本年度新たにアニドネの支援先として認定をされた認定特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズの紹介をしたいと思います。犬という存在に心から感謝したくなる、そんな活動です。
子どもたちと築く「絆」が、病気に立ち向かう心を育む
日本では、子どもの死因で事故に続いて多いのが「小児がん」。なんと、3~4時間に1人が小児がんの診断をされていることになるくらい多いそう。医療は進歩しているとはいえ、入院は長期に及び、毎日の治療は決して楽しいものではありません。そんな子ども病棟に、毎日しっぽを振りながらニコニコ来てくれる大型犬がいたのなら。私が子どもだったら、心待ちにし、一番の楽しみになることでしょう。
シャイン・オン!キッズが育成している、病院にいるファシリティドッグは現在4頭。小児がんや重い病気と闘う子どもたちと、その家族をサポートする役割を担い、看護師資格を持つハンドラーとペアを組んで活動をしています。
2010年に日本で初めて導入され、初代ハンドラーとして活動15年目を迎える森田優子さんにお話しをお聞きしました。現在は、ゴールデン・レトリーバーの女の子「アニー」と、神奈川県立こども医療センターで活動しています。
「アニーはお姫様気質というか、甘え上手な子です。誰にでも『なでて』と近づき、なでている手が止まると鼻ツンで『もっとなでて』と言う、かわいい子です」
アニーにとって森田さんは飼い主でもあり、普段の生活も共にしています。病院で子どもたちに寄り添うアニーの具体的な行動は、ベッドで添い寝したり、手術室への移動や麻酔導入までの付き添いをしたりする他、ターミナルケアにも関わります。
「アニーが病気を治すわけではありません。例えば、治療の一環で歩くことが必要な時、外を自由に歩けるわけではなく、病院の廊下をぐるぐる回るだけだと子どもたちはつまらなくて頑張れません。そんな時、アニーと一緒だったら『もっと歩く!』と頑張れるようになるのです。逆に私たち医療従事者が『まだ平気なの?』と聞いちゃうくらい。アニーがいるのといないのでは、子どもたちの立ち向かう心が変わってくるのです」
犬も楽しい、が基本。「まだ帰らないもん!」
そんなアニーにとって、病院に行くことは仕事ではなく、一緒に遊びに行っている感覚。実際、アニーは活動のことをどう感じているのでしょうか?
「犬に無理をさせないことは活動の基本です。例えば、ファシリティドッグ・ハンドラーポリシーでは、60分の活動をしたら60分以上犬を休ませることを決めています。ですので、実質活動するのは1日3時間くらい。当然犬の様子を見ながら患者さんたちと接しますので、犬が嫌がることはさせません。アニーはよく患者さんのことを覚えるんですよ。たまに長期入院の子が外泊していて病室にいない日があるのですが、部屋の前で立ち止まって『今日は会わないの?』と聞いてきます。また病院から帰る時は毎日のように『まだ帰らないもん!』と踏ん張ります(笑)。言葉はなくとも饒舌(じょうぜつ)に感情を伝えてくれます。この天真爛漫な性格は、犬が苦手であった子どもたちの心も溶かし、たいていの子は『アニー、大好き!』となりますね」
筆者は、介在犬に接する機会が過去数度ありました。いずれも、犬に働くという意思や気負いはまったくなく。人のために犬に無理を強いているのなら、動物福祉に反する人間都合の活動となります。しかし、犬自身が楽しいと思って活動し、その姿に逆境に置かれた人々が救われるのなら、犬はそこにいるだけで人々を勇気づける存在になり得ると思います。
目の当たりにする子どもたちの変化
森田さんにちょっと意地悪な質問をしてみました。犬の介在療法の明確なエビデンスは取れているのですか?と。
「よく聞かれる質問ですが、とても難しいのです。例えば、アニーとかかわる病気の子どもたちに介在前後で血液やホルモン値調査などをすれば、わかりやすい数値で示せるかもしれません。しかし、病気と闘う子どもたちの治療の妨げになってしはならないし、倫理的な面も配慮すべきでしょう。今後の課題として、慎重に取り組む準備をしているところです。ただ、私は介在犬のハンドラーになる前は、臨床看護師として病気の子どもたちに接してきました。その時、採血や点滴でじっとしていることが難しい子には、タオルなどで抑制するのが当たり前の処置でした。当然、子どもたちは嫌がります。しかし、今はアニーがいれば、なんの強制をしなくてもニコニコと腕を差し出し、アニーの目を見つめながら頑張るんです。この変化を目の当たりにしている日々こそが効果だと考えています。また、当法人と病院・大学との共同研究を実施したところ、医療従事者から『子どもたちが前向きに治療に取り組むことを促すなどの効果がある』とファシリティドッグの活動を高く評価する結果が得られ、論文を昨年発表することができました」
今後の課題は社会の理解と支援
きっと、ここまで読んでくださった読者の方は「こんなすばらしいこと、どんどん広めればいいのに」と私と同じキモチになってくださっていると思います。しかし、シャイン・オン!キッズで稼働している犬はたったの4頭、育成中が2頭という限られた頭数しかいないのです。まず必要なことは、介在犬を受け入れる病院の理解であり、同時に介在犬が社会から受け入れられる存在になることです。また、アニーをはじめ活動中の犬たちは、日本生まれではなく海外の専門ブリーダー出身というのは、日本の使役犬のブリーディングが発展過程にあると言えるのでしょう。そしてハンドラーには、医療資格があり犬のプロでもなければならないという、ダブルでプロフェッショナルであることが求められるという点もあります。
と、課題はあるものの、徐々に広がりつつある介在活動です。私は常々、ペットの犬猫たちはかわいがられる存在でありながら、実は逆に人を支えるために存在してくれていると感じているのですが、介在犬たちはさらに、いるだけで病気の子どもたちを前向きにしてくれるすごい存在。犬という生き物に心から感謝し、そして介在活動がもっと日本で当たり前になるよう、アニドネとして活動支援を広げています。
(次回は5月5日公開予定です)
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