腹部の良性腫瘍(しゅよう)を手術した後、毛繕いの際に自分の体と間違えて、エリザベスカラーをなめていたひじきくん。その姿がおかしくてとても可愛かった。体をかいてあげると気持ちよさそうにしていた(さくらさん提供)
腹部の良性腫瘍(しゅよう)を手術した後、毛繕いの際に自分の体と間違えて、エリザベスカラーをなめていたひじきくん。その姿がおかしくてとても可愛かった。体をかいてあげると気持ちよさそうにしていた(さくらさん提供)

ひとりで面倒をみて心の支えだった愛猫のみとり 「もう猫は飼わない」と心に決めた

 いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。

 2020年12月25日、飼い主のさくらさんは大切にしていた黒猫のひじきくん(享年10歳)をお見送りしました。先天性の心疾患が発覚してからわずか1カ月で旅立ったひじきくんについて、亡くなった当時のことや、現在のお気持ちをお聞きしました。

(末尾に写真特集があります)

亡き父の希望で譲り受けた黒猫

――亡くなった愛猫のお名前を教えてください。

 ひじきです。黒猫の男の子です。

――ひじきくんはどのような経緯でさくらさんのお宅に来たのでしょうか?

 父が猫好きで、小さいころから実家で猫を多頭飼いしていました。私が19歳の時、友人の家の敷地に住み着いていた猫に子どもが産まれたと聞き、当時、健在だった父が「黒猫を飼いたい」と言っていたので、乳離れをした生後5カ月の黒猫のひじきを譲渡してもらいました。

 その父は、ひじきが来て2年後に他界し、母も私が幼いころに亡くなっているので、21歳で浪人中だった私がひとりで、ひじきと先住猫のりんを飼うことになりました。

写真手前の黒猫がひじきくん。2011年に引き取ったころ。子猫の頃からのんびりとして控えめな性格だった(さくらさん提供)

ひじきくんに先天性心疾患が発覚

――ひじきくんはなぜ亡くなったのでしょうか?

 先住猫のりんが老衰で20歳で亡くなり、その1年後にまだ10歳だったひじきも逝ってしまったのですが、ひじきは先天性の心疾患で、亡くなる1カ月前ごろからに突然発作を起こすようになりました。

 発作を起こすと舌を出して苦しそうにハーハーするような状態になり、その都度、動物病院に連れて行きました。ある日の発作が起きたとき、「ひじき、病院行こうか」と声をかけたら、突然立ち上がって歩き始めて、そのままバタッと倒れて亡くなりました……。

――先天性の心疾患はもともとわかっていたのでしょうか?

 発作を起こすまで知りませんでした。最初に発作を起こして、病院へ連れて行ったとき、「先天的に心臓に疾患があるから、この先そんなに長くは生きられないかもしれない」と言われました。

 悲しかったのはもちろんですがびっくりしました。そして私はひとりだったので、「どうやって仕事をしながら看病しよう、自分が家にいない間に何かあったらどうしよう、苦しい状態で生かすことが正しいことなのか、薬を飲みたくないのに飲まされることは本当にいいことなのか?」と悩みました。

――発作を起こすようになってからどのような治療をされましたか?

 獣医師から処方された薬を飲ませていました。でも薬をとても嫌がって、薬をあげても泡を吐いて薬を一緒に吐き出してしまったりして、なかなかうまく飲ませられませんでした。

 また、薬を飲ませる私を「信頼できない」というような顔で見ていたように思います。本当は家の中では安心させてあげたいのに、そんな嫌な思いをさせてしまい、かわいそうだなと思いながらも決められた時間に薬をあげていました。

小さな猫用ドアから庭の作業台に出て自由にしていた頃。さくらさんの父が亡くなったあと、ひじきくんが外で狩ってきた鳥をさくらさんに持ってきたことがあったそう。ひじきくんの優しさを感じた(さくらさん提供)

もう猫は飼わない、同じ思いをしたくないから

――回答いただいたsippoのアンケートで、「もう猫を飼いたくない」と書かれていましたが、その理由を教えてください。

 人間の家族が亡くなったときに、家族を補充したりしないですよね。私にとって猫たちはペットというより家族だったので「新たに生き物を飼う」ということが、自分の中で整理できないんです。

 また新たなペットを飼う人を否定しているわけではなくて、亡くなったらとても悲しい気持ちになり、つらい思いをしたくないという気持ちです。次の猫を飼ってしまったら、ひじきの存在を忘れてしまうかもしれない……、特別なひじきの存在を忘れたくないので、やはりもう猫は飼わないと思います。

 ひとりでペットを飼っていると、責任は全部自分にかかってくるし、その分さらに愛情をそそいでしまっていたので、ひじきを亡くして強いペットロスになりました。亡くなったときのことを今も何度も思い出します。

――おひとりですべてを抱えていらしたのですね。

 浪人生活、その後は大学に通いながら、ひじきと過ごしてきました。自分が家にいないと他の誰も面倒をみてくれないので、周りの友達のように外で遊ぶ時間もありませんでした。働き始めてからもそうですが、両親を亡くしてひとりだった自分を支えてくれたのがひじきだったので、その大切な存在をも亡くしてしまったのがとてもつらかったです。

――さくらさんにとって「ペットの死に向き合う」とはどういうことだと思いますか?

 いつか自分より先に亡くなるとわかっていたからこそ、大事に育てていたのかなと思います。でもいざその場面に向き合うと本当に悲しくて、同時にひとりで抱えていた責任はなくなったということで、ちょっと安心した部分も正直あったと思います。ひじきに対して、その時に自分がやれることはすべてやったと思えるので、後悔はありません。

邪魔の達人だったというひじきくん。勉強しているときや絵を描いているときに、「にゃあにゃあ」と鼻にかかったかわいい声で寄ってきていた。課題提出の前など夜遅くに勉強が及ぶときは、ひじきくんの温かい体をなでながら寝落ちしたこともあった(さくらさん提供)

<取材を終えて>
 嫌がる薬を飲ませなければならない葛藤、すべでの責任を負っているという自負。大切に育ててきたひじきくんが亡くなって「悲しかったけれどちょっと安心した」という言葉は、それだけひじきくんに対して愛情をかけて向き合っていた証なのだなと、お話を聞いて筆者は感じました。

【前の回】19歳で旅立った愛猫が教えてくれたのは「無償の愛」 保護して最期まで守った思い

岡山由紀子
某雑誌編集者を経て、2016年からフリーのエディター・ライターとして活動。老犬と共に暮らす愛犬家。『人とメディアを繋ぎ、読者の生活を豊かに』をモットーに、新聞、雑誌などで執筆中。公式サイト: okayamayukiko.com

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この連載について
ペットの死に向き合う
いつか来るペットとのお別れの日。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。みなさんの思いを伺います。
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