19歳で旅立った愛猫が教えてくれたのは「無償の愛」 保護して最期まで守った思い
いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。
2022年7月3日、19歳のうめちゃんは飼い主の知己さんに見守られながら旅立ちました。生後2カ月で保護され、ずっと大切に育てられてきたうめちゃん。保護した経緯や病気のこと、うめちゃんをみとったお気持ちなどを伺いしました。
段ボールの中にいたのは生後2カ月の黒猫
――知己さんの亡くなった愛猫のお名前を教えてください。
「うめ」です、女の子です。
――うめちゃんは保護猫とのことですが、どのような経緯で飼うことになったのでしょうか?
もう20年前ですけれど、自分の経営している店舗の閉店作業をしていたら、女の子2人が段ボールを持ってきて、そっとお店の前に置いていったのがガラス越しに見えました。あれ? と思ってすぐ見に行ったら、中に小さい黒い猫がいたんです。タオルにくるまれ、おもちゃなども入っていて、女の子たちの「よろしくお願いします」という意思を感じました。きっとその女の子たちも何かしらの事情で飼えないのだと思いました。引き取り手を探したのですが見つからず、私が飼うことにしました。
――猫はそれまでも飼ったことはあったのでしょうか?
いえ、初めてでした。自分が子どもの頃は外飼いの猫たちがいて、出たり入ったりしていたので、猫は大好きだったのですが、自宅で飼う機会はありませんでした。
――うめちゃんはどんな子でしたか?
ツンデレで抱っこされるのが好きではなく、でも自分から近くにきて尻尾など体の一部だけをくっつけてくるんです。かつお節が大好きで「うめ、かつお」というと、どこからでも飛んできて、そのかつお節を食べている数十秒だけは仕方ないなーという感じで抱っこをさせてくれるような子でした。
右頰に膨らみを発見、その5カ月後に他界
――うめちゃんはなぜ亡くなったのでしょうか?
扁平(へんぺい)上皮がんでした。
――扁平上皮がんを見つけたきっかけはなんでしょう?
亡くなる5カ月前、2022年の1月末ごろ、ファンヒーターの前に座っている後ろ姿を見たら、右頰が膨らんでいたんですよね。もう19歳だし皮膚がたるんだのかな? と思ったのですが、触ったら小さな硬いものがあって……。かかりつけ医へすぐに連れて行ったのですが、腫瘍(しゅよう)が硬くて針が刺さらず、生体検査ができなかったんです。その後、がんの専門医やほかの病院も回っているうちに腫瘍が大きくなり膿(うみ)が出たりして、専門医が「これは悪性の腫瘍ですね」と。
――その時のお気持ちは?
うめががんになったという事実を受け入れることが大変で、1カ月くらいかかりました。ここまで健康に頑張って生きてきたのだから、逝くなら老衰で逝かせてあげたかったんです。うめがほっぺたをこすったり、なめたりしていたので、「つらいのかな、痛いのかな、どうしたいのかな」とわからなくて、見ているのがとてもつらかったです。
――悪性腫瘍が発覚してから5カ月、うめちゃんはがんばりましたね。
そうですね、亡くなったあとにかかりつけ医からもそう言われました。年齢を考えると手術は難しいので、緩和ケアをしていたのですが、周りからすすめられたサプリメントを飲ませていました。あまりおいしくないサプリメントだったようで、あげるのが難儀で、ドライフードの一粒一粒に染み込ませて食べさせていました。
――他に何か治療はしましたか?
腫瘍に痛みはないと聞いてはいたのですが、悪性でどんどん大きくなるので3週間に一度ステロイド注射を受けていました。病院へ行くのもうめにとってはストレスなので、キャリーバッグで病院へ連れていき、バッグの上の部分だけ開けて、その状態で注射を打って帰宅するというように、最小限のストレスで済むようにしていました。
ステロイド注射の後は元気も出て、副作用ですが食欲もでるので、かつお節やおいしいドライフードなど、なんでもあげていました。ただ、ステロイドの効果が切れると食欲がなくなり、みるみる痩せていきました。
――がんの転移はありましたか?
かかりつけ医にエンゼルケアをしていただいたのですが、転移はありませんでした。「逝き方としては老衰ですね」とおっしゃっていただきました。
生まれて初めて知った「無償の愛」と「いとおしさ」
――ペットの死に向き合うとはどういうことだと思いますか?
その質問の答えではないかもしれませんが、うめを飼って、彼女の病気と死と向き合って、「無償の愛」を知りました。わがままで我の強い自分にそんな一端があったということに気づかされました。また病気と闘ううめを、ただただ「いとおしい」と感じていました。生まれて初めての感情でした。
――うめちゃんは19年前に保護され、ずっと愛されて幸せでしたね。
本来は野生の動物である子を、自然から切り離して家に閉じ込めてしまっているのではないかという引け目が私にはずっとありました。だからせめて「飢えず、痛まず、苦しまず」ということだけは守りたかったんです。
亡くなった日の朝はご飯を食べ、数時間後に自分の寝床で少し呼吸が荒くなり、「クー」と言って逝きました。本当は最期に抱きしめたかったのですが、「きっと抱っこされるのが嫌いなこの子はそれを望んでいないだろうな」とぐっとこらえて、みとりました。うめが亡くなったあと、黒い猫のぬいぐるみを買って思いきり抱きしめました。今はさみしい気持ちとありがとうという思いでいっぱいです。
<取材を終えて>
同居する知己さんの母のことが大好きだったといううめちゃん。長く入院していた母が自宅に戻るのを待ち、1カ月をともに過ごしてから亡くなったそうです。うめちゃんは19年間の恩返しをして、自ら逝くときを決めて旅立ったように思いました。
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